Web Syllabus(講義概要)

平成21年度

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社会学 I 平石 直昭
2群  2単位
【二群】 09-1-1350-1863-03

1. 授業の内容(Course Description)
 近現代の西洋では、広い意味での社会認識の方法や理論(比較文明論、社会進化論、社会有機体論、平等化としての民主主義論、マルクス主義理論、ヴェーバー社会学等)が多様な形をとって発達した。この講義では、それらが明治以後の日本の思想家や学者によってどのように摂取され、日本社会の分析や将来構想に生かされたかを検討する。また海外の社会学者が、日本社会の近代化をどのように分析してきたか、その幾つかの例を紹介し、その妥当性を論ずる。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 近現代日本の思想家や学者は、西洋産の社会理論を日本社会の分析や将来像の構想にいかしてきた。その仕事は我々にとって有益な示唆に富む。こうした知的遺産を系統的に学ぶことで、現代日本が直面する問題に立ちむかう基礎的な素養を身につけることをめざす。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 定期試験(80%)。期末試験の欠席者は0点の評価となるので注意すること。
 平常点(20%)。毎回の講義で出欠をとり、平常点の評価に反映させる。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 教科書はないが、各回の講義でとりあげる書物を授業計画欄に記載する。これらを読んだ上で聴講すれば、講義の理解に役立つであろう。
 主な参考文献を初回の講義であげるほか、各回の講義でも主題に関連する文献を適宜紹介する。
5.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 毎回、講義の冒頭で出欠をとるので遅刻しないこと。私語しないこと。質問の機会を与えるので、講義で分からない点は遠慮なく質問すること。
6.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 講義の趣旨説明、参考文献の紹介。
【第2回】
 福沢諭吉とギゾーのヨーロッパ文明史。福沢の主著『文明論之概略』(岩波文庫)や「国権可分の説」などをとりあげて、彼がどのようにギゾーの『ヨーロッパ文明史』から学んで自分の明治維新像を作り、私立中産指導の文明化構想を描いたかを検討する。
【第3回】
 加藤弘之と「社会進化論」。明治8年に刊行した「国体新論」で加藤は君主と人民の人格的平等性を主張したが、明治15年の「人権新説」では社会進化論によって天賦人権説を批判し、適者生存・優勝劣敗を自然法則とした。この「改説」がどのようなもので、何を意味していたかを検討する。『日本の名著 西周・加藤弘之』(中央公論社)参照。
【第4回】
 自由民権運動とスペンサーの『社会静学』。スペンサーの著書Social Staticsは『社会平権論』として訳され自由民権家に愛読された。民権運動とスペンサー理論との関連について検討する。松島剛訳『社会平権論』(『明治文化全集』第5巻所収)参照。
【第5回】
 徳富蘇峰とトクヴィルの民主主義論。「平民主義」を掲げて論壇に登場した蘇峰は、世界史の趨勢についてトクヴィルの『アメリカの民主主義』等から示唆されていた。蘇峰がどのように本書等を利用して日本の将来像を描いたかをみる。蘇峰「将来の日本」(『現代日本思想大系・ナショナリズム』所収、筑摩書房)、トクヴィル『アメリカの民主主義』(上下、岩波文庫)参照。
【第6回】
 井上哲次郎と社会有機体論。明治政府が直面した問題の一つは、官僚制と軍隊を主柱とする近代の国家機構を底辺の民衆意識にいかに内面化させるかであった。井上は社会有機体論を用いて家族国家論を主張し、この課題に答えようとした。その論理を検討する。井上『勅語衍義』、石田雄『明治政治思想史研究』(未来社)参照。
【第7回】
 長谷川如是閑と社会協同主義。第一次大戦の惨禍を経験した如是閑は、人間を国家内に閉じこめて対外闘争に駆り立てる現代国家を批判し、普遍人類の理念から自由と相互扶助の必要を説いた。その論理を検討する。『長谷川如是閑集』第五巻(岩波書店)参照。
【第8回】
 和辻哲郎とテンニースの共同態論。昭和初年に書いた「現代日本の精神状況」で和辻は、日露戦後の日本の資本主義化を批判しつつ、テンニースのいうゲマインシャフト的意識が日本にはまだあるとし、そこに近代西洋を超える可能性を見た。その論理を検討する。テンニース『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』(上下、岩波文庫)参照。
【第9回】
 山田盛太郎とマルクス主義。山田は近代日本の資本主義がいつ確立し、またいかに崩壊しつつあるかを分析した。それは講座派マルクス主義の立場からする最高達成とされている。その連関を検討する。山田『日本資本主義分析』(原著1934年、岩波文庫)参照。
【第10回】
 大塚久雄とヴェーバーの資本主義論。大塚は敗戦前後に、近代西洋の資本主義が「営利」を目的とする一般の資本主義とは異なる独自性をもつことに注意し、ヴェーバーの理論等から学びつつ近代資本主義を支える社会層やそのエトスを問題とした。その意味を考察する。『大塚久雄著作集』第三巻(近代資本主義の系譜)参照。
【第11回】
 丸山眞男と「開かれた社会」論。敗戦後の日本社会の変化を経験した丸山は、ベルクソンやポパーの学説をふまえて「閉じた社会」から「開かれた社会」への変容という観点を投入して日本の歴史像を構想した。その論理を検討する。丸山「開国」『忠誠と反逆』(ちくま学芸文庫)などを参照。
【第12回】
 丸山眞男とヴェーバーの宗教社会学。1960年代の丸山は、日本人が外来思想を受容する際にそこに変容を与える要因として「原型」を見出し、その理論化に努めた。とくに倫理意識の原型論にはヴェーバーの『宗教社会学』が影響している。それがもつ含意を検討する。『丸山眞男講義録・第七冊』(東京大学出版会)参照。
【第13回】
 内田義彦とマルクス経済学。内田は、マルクスが多くを学んだA.スミスの研究を経てマルクス研究にむかった。そうした媒介路を通った彼がマルクスの読解から何を導出しているかを検討する。内田『経済学の生誕』(未来社)、『資本論の世界』(岩波新書)参照。
【第14回】
 ロバート・ベラーの日本近代化論。アメリカの社会学者ベラーは、T.パーソンズの構造的機能論の図式を適用して、日本社会の近代化の分析を試みた。その全体像を検討する。ベラー『徳川時代の宗教』(岩波文庫、原著初版1957年)。
【第15回】
 ロナルド・ドーアの日本近代化論。暗いイメージで描かれていた江戸時代について、英国の社会学者ドーアは、庶民への教育普及、識字率の高さ、産業化に必要な訓練を受けうる能力の獲得など、当時の教育が近代化を用意したと論じた。その議論を検討する。ドーア『江戸時代の教育』(岩波書店、原著初版1965年)