Web Syllabus(講義概要)

平成22年度

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言語文化講読 I 冲永 荘八
選択  2単位
【日本文化】 10-1-1310-0126-01

1. 授業の内容(Course Description)
 この授業では心についての哲学上の問題について扱う。哲学上の問題とは、自然科学的な問題とは区別される。例えば、特定の光の刺激に対して脳のどの部分が興奮するのか、またはある精神的な疾患がどのようにすれば治療できるか、という問いは自然科学的である。それらへの答えを実証する有意味なデータが存在するからである。しかしなぜ脳の特定の部分の興奮が、見えるという感覚を引き起こすのか、さらにはなぜ脳がこの意識を存在させるのか、という問いは哲学的である。それらに答えるためのデータがないからである。しかし心はこうした哲学的な問いに常にさらされている。心は確実に存在すると思われる一方で、それを見ることも確かめることもできないことが、その理由にある。春期ではこうした心の哲学さの主な問題を紹介する。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 心の哲学的な基本問題を解説した、わかりやすい日本語テキストを用いながら授業を進める。そのテキストを精確に読み、内容を理解し、何が問題なのかを把握する力を養うという、極めてオーソドックスなことが目標である。日ごろからひたすら読んで考えるという、スポーツで言えばランニングのような基礎トレーニングの積み重ねを行い、学問の底力をつけてゆくことを目標とする。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 期末に試験またはレポートを課す。出席は基本的に毎回とる。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 プリントにて配布する。
5.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 授業は理解しにくい面もあるかもしれないが、可能な限りかみ砕いて話をするので、根気よく、粘り強く受講して頂きたい。
6.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】・【第2回】
 心の哲学の基本問題についての概観。クオリア問題、自我存在、自由意志、他我問題と独我論、心身問題など。
【第3回】~【第5回】
 物質としての脳から、なぜ物質とは異質の意識なるものが生じるのか、という問題。脳の機能に対して、なぜこの脳の中に私がいるのか、という問題。私の存在に関するネーゲルの見解を概観。
【第6回】~【第8回】
 因果は存在しないとするヒュームの学説を確認、ヒューム『人間本性論』の抜粋を講読。因果の証明不可能性の構造と、知の根拠づけ不可能性の構造との類似性について。
【第9回】~【第11回】
 自由意志は存在するか。決定論と自由意志の立場に関する歴史的な概観。特にカントの現象界と叡智界との区分について。近代以後の機械論的決定論と、内的体験領域における意志の自発性との矛盾関係の扱われ方について。
【第12回】~【第15回】
 サールにおける自由意志論。唯物論的立場をとりつつ、自由意志の意味を認める立場の検討。さらに、選択的自由と実存的自由との相違の検討。非意志的な自由という矛盾的状況について。