Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

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超域日本語特論 II 木村 哲也
選択  2単位
【超域文化専攻】 17-3-1411-1959-02

1. 授業の概要(ねらい)

 近代日本の言語政策の確立は,日清戦争後の台湾領有に伴う「本島人」(台湾の人々)に対する国語(=日本語)教育の必要性が認識されることによって推進された.日本の言語政策確立のため,「国語」としての日本語教育が展開されるようになった.「国語教育」の黎明期,その教育目的の内実を明らかにする.そして,戦前・戦後,近・現代における日本語教育の連続・非連続性を,戦前の資料・文献を読み解くことによって考察していく.
 上記の考察を起点に,今日,日本の社会的課題である,外国人住民との共生,外国人児童生徒への教育が,公教育における国語教育そして言語教育とどう関わるのか確認する.21世紀における「ことばの教育」のあるべき姿について,多文化共生,言語的公共空間の共生,対話的能動性を,授業全体のキーワードとして考えていく.
 本年度は,特に,「21世紀型スキル」「学習科学」としての,アクティブラーニングや言語力向上のためのことばの教育やインクルーシブ教育の推進等,現行の中央教育審議会の教育改革の内容に焦点を当てて,日本語教育の役割や意義を見出していく.貧困と学力格差とことばの教育という課題も視野に,日本語教育,言語教育の在り方に新たな展望を切り拓く.

2.
授業の到達目標

 日本人に対する国語や外国語教育も含め,日本の言語教育の在り方は,今日,抜本的な改革が求められている.また,外国人児童生徒に対する日本語教育の充実や,日本人に対する,言語として「国語」を教えることの意義の確認は,コミュニケーション能力や学習言語能力の育成と併せ,今日の初等中等教育における教員養成上の,最重要課題となっている.
 学生は,日本語を含め言語教育の方法論を哲学し,言語教育実践に新たな方向性を打ち出すための学術的な基礎力を身に付ける.そして,21世紀における言語教育,日本語教育の在り方を論述できる力を身に付ける.

3.
成績評価の方法および基準

 平常点:授業への能動的参加-40%,学期末レポート-60%

4.
教科書・参考書

 テキスト:特に設定しない
 参考文献:
   1)田中慎也・木村哲也・宮崎里司編(2009)『移民時代の言語教育』ココ出版.
   2)波多誼余夫・大浦容子・大島純(2004)『学習科学』放送大学教育振興会.
   3)狭間香代子(2001)『社会福祉の援助観―ストレングス視点・社会構成主義・エンパワーメント』筒井書房.
   4)日本認知科学会編(2005)稲垣佳世子・波多野誼余夫著・監訳『子どもの概念発達と変化―素朴生物学をめぐって』共立出版.
   5)OECD教育革新センター編著(2013)立田慶裕ほか監訳『学習の本質―研究の活用から実践へ―』明石書店.
   6)デリダ,ジャック(1985)足立和浩訳『根源の彼方に―グラマトロジーについて(上)』現代思潮社.
   7)デリダ,ジャック(1983)足立和浩訳『根源の彼方に―グラマトロジーについて(下)』現代思潮社.
   8)ガーゲン,ケネス・J.(2004)東村知子訳『あなたへの社会構成主義』ナカニシヤ出版.
   9)石田英敬(2003)『記号の知/メディアの知―日常批判のためのレッスン』東京大学出版会.
  10)近藤孝編(2013)『統合ヨーロッパの市民性教育』名古屋大学出版会.
  11)吉島茂・大橋理枝訳・編(2004)『外国語教育のための学習,教授,評価のためのヨーロッパ共通参照枠』朝日出版社.
  12)OECD編(2011)斉藤里美監訳『移民の子供と格差―学力を支える教育政策と実践』明石書店
  13)Wertsch, James V. (1991), Voices of the Mind: A Sociocultural Approach to Mediated Action,Massachusetts: Harvard University Press.
  14)Wertsch, James V. (1998), Mind as Action, New York, Oxford: Oxford University Press.
  15)O’ Riordan, Tim,ed. (2001), Globarism, Localism & Identity, London: Earthcan Publications.
  16)Tomasello, Micheal, (2003), Construction a Language―A Usage–Based Theory of Language Acquisition, Massachusetts & London: Harvard University Press. =トマセロ,マイケル(2008),辻幸夫ほか訳『ことばをつくる―言語習得の認知言語学的アプローチ』慶應義塾大学出版会.
  17)Corder, S. Pit (1981) Error Analysis and Interlanguage, Oxford: Oxford University Press.=コーダー,S.ピット(1988)玉川大学応用言語学研究会訳『中間言語入門』三修社.
  18)山野良一(2008)『子どもの最貧国・日本―学力・心身・社会におよぶ諸影響』光文社新書.
  19)阿部彩(2008)『子どもの貧困―日本の不公平を考える』岩波新書.

5.
準備学修の内容

 参考文献,授業内で配付または紹介する資料を精読し,その要旨をまとめ報告する.

6.
その他履修上の注意事項

 1)自己教育能力,主体形成,相互承認の3つの視点を重視し,自らの学問的知識が社会的実践へとつながる研究姿勢を持ってもらいたい.
 2)多文化共生の社会基盤の形成に貢献する言語教育,あるいは言語能力とは何か,を問う研究活動を行うこと.
 3)授業への主体的・協働的参加を望む.

7.
各回の授業内容
【第1回】
 授業内容・キーワード
 オリエンテーション:授業全体の内容や進め方と評価方法の説明
【第2回】
 明治期の言語状況(1):三宅米吉,日本の多言語状況
【第3回】
 明治期の言語状況(2):井上哲次郎,内地雑居論
【第4回】
 明治期の言語状況(3):上田萬年,台湾領有,言文一致の考え
【第5回】
 大正期の国語政策:口語法,口語法別記
【第6回】
 昭和期の国語政策:方言撲滅と時枝誠記の国語
【第7回】
 平成期の国語政策:第19~22期国語審議会,共通語,標準語,地域語
【第8回】
 言語学の可能性と限界(1):言語学の「言語」とは何か
【第9回】
 言語学の可能性と限界(2):科学としての言語学
【第10回】
 21世紀の言語教育(1):文化相対主義とことばの教育
【第11回】
 21世紀の言語教育(2):複言語・複文化主義とことばの教育
【第12回】
 21世紀の言語教育(3):社会構成主義とことばの教育
【第13回】
 M.トマセロの「ことば」(1):ことばを「つくる」とは何か
【第14回】
 M.トマセロの「ことば」(2):建設的相互作用とことばの教育
【第15回】
 秋学期授業の振り返りとまとめ+学期末レポートの提出