Web Syllabus(講義概要)

平成21年度

ひとつ前のページへ戻る 教授名で検索

国際関係社会論 II 平石 直昭
選択  2単位
【社会】 09-1-1350-1863-02

1. 授業の内容(Course Description)
 この講義では、幕末から20世紀半ばまでの近代日本の国際関係思想を、主な思想家や書物に即して歴史的に概観する。「脱亜論」、アジア主義、韓国併合論、小日本主義、東亜共同体論など。各思想の特徴を時代状況との関連で分析しつつ、近代欧米の国際関係思想や国際体系が東アジアでうんだ結果や反響の諸相を検討する。最初に全体を理解する大きな図式として、19世紀半ばの東アジアの政治経済状況を規定した近代西洋国家体系と中国中心の華夷秩序、日本中心の華夷秩序という三者の対抗と変容という図式を説明した上で、各時代に即して個別的にみてゆく。詳しくは下記の授業計画を参照されたい。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 19世紀半ばの幕末日本は日本型華夷秩序観をもち、20世紀半ばの昭和日本は大東亜共栄圏という地域秩序構想をもった。この講義ではその間の約100年間の日本が国際関係思想においてどんな変遷をたどったか、それが近代日本の勃興や衰退とどのように関係しているかについて、正確な理解をもつことをめざす。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 定期試験(80%)。期末試験の欠席者は0点の評価となるので注意すること。
 平常点(20%)。毎回の講義で出欠をとり、平常点の評価に反映させる。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 教科書はないが『20世紀システム[1]構想と形成』(東京大学出版会)、及び『近代交流史と相互認識II』(慶応義塾出版会)所収の拙稿を読めば、講義を理解するのに役立つであろう。他に主な参考文献は初回の講義であげる。また各回の講義で主題に関連するものを適宜紹介する。
5.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 毎回、講義の冒頭で出欠をとるので遅刻しないこと。私語しないこと。質問の機会を与えるので、講義で分からない点は遠慮なく質問すること。
6.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 近代西洋の国家体系。1648年のウエストファリア条約以後、西洋で成立した国際関係のあり方を、国際法・勢力均衡・主権国家・国家理性などの原理に即して概論する。
【第2回】
 東アジアの華夷秩序観と日本型華夷秩序。中国を中心とした華夷秩序を、天下的世界観、朝貢冊封体制などに即して説明する。また徳川日本が作った日本型華夷秩序について朝鮮や琉球との通信関係などを中心に論ずる。
【第3回】
 後期水戸学の世界像と横井小楠の「天地公共の理」観。幕末の対外思想のうち、閉じた思考と開かれた思考の代表として水戸学の世界認識(戦国状態の世界化)と横井小楠の産業と交易を通じた世界平和論を検討する。
【第4回】
 福沢諭吉の「ネーション」観。二回にわたり福沢諭吉をとりあげる。明治初年に福沢は「日本には政府ありてネーションなし」と指摘した。彼のナショナリズムの思想的背景、明治ゼロ年代を通じたその変容等を論ずる。
【第5回】
 福沢諭吉の東洋盟主論と「脱亜論」。征韓論・征台論には冷淡だった福沢は明治10年代半ばになると東洋政略論を展開し、同18年には「脱亜論」を主張するに至る。そのモチーフや政治的思想的背景について論ずる。
【第6回】
 西洋植民地主義への挑戦―樽井藤吉と陸羯南。明治20年代半ばにこの二人は、西洋の植民地主義に抵抗すべく、日韓が対等合併して連合王国を作るべしと論じ(樽井)、あるいは西洋支配の打破=国際革命を首唱した(陸)。両者の主張を検討する。
【第7回】
 日清戦争の思想―陸奥宗光。外務大臣だった陸奥が、どんな戦略戦術論をもって戦争外交を主導したか、そこに見られる国家理性の立場を回想録『蹇蹇録』(岩波文庫)等に依拠して検討する。
【第8回】
 世紀転換期のアジア主義―近衛篤麿と岡倉天心。日清戦後、中国に対する列強の進出が強まる中で近衛は、アジアの問題はアジア人が決めるという東洋モンロー主義を主張し、また岡倉はインド旅行中に、独立運動の志士と交わる中で激しい独立運動の檄文を書いている。両者を比較検討してそれぞれの特徴を明らかにする。
【第9回】
 韓国保護国論の諸相。日本は日露開戦後、数次の協約を通じて韓国を保護国化し、ついに1910年に併合する。しかし国際法上まだ新しい概念だった「保護国」は必ずしも併合を意味していたわけではない。当時の様々な議論を検討することでその諸相を明らかにする。
【第10回】
 吉野作造―中・韓ナショナリズムへの共鳴。吉野は大隈内閣の対華21ケ条要求を支持したが、そ後大正デモクラシー運動へのコミットと関連して、中国のナショナリズムや朝鮮民衆独立運動に共感を示すようになる。その変化の足跡を追う。
【第11回】
 石橋湛山―小日本主義の思想。湛山は経済的合理性の観点から日本の朝鮮領有は利益にならぬとして、朝鮮の独立を認め小日本主義を唱えた。こうした破天荒の主張の論理と、それを彼が展開できた背景要因を検討する。
【第12回】
 アジア主義の展開(I)―徳富蘇峰/浮田和民/宮崎滔天。二回にわたり第一次大戦前後のアジア主義の展開をあつかう。蘇峰の東洋自治論、浮田のアジア地域共同体構想、宮崎の大アジア主義(植民地放棄論)をあつかう。
【第13回】
 アジア主義の展開(II)―北一輝/大川周明。この時期には、日本が満州、シベリア、オーストラリアまで支配して一大帝国となり、欧米帝国主義と世界の覇権を争うべきだとする攻撃的なアジア主義も現われた。その主張を北と大川に即して検討する。
【第14回】
 第一次大戦の経験と「満州国」。ヨーロッパ大戦を経験した石原莞爾は、次の戦争は市民をまきこむ殲滅戦、最終戦争になると予測し、その戦争を戦いぬく軍需物資の調達には中国大陸等の確保が不可欠とした。「満州国」が作られていった背後にある歴史像をみる。
【第15回】
 東亜共同体の理念。欧米植民地主義を批判しつつ、他方で右翼や軍部の路線とは違った形でアジア諸民族との関係をいかに築くか、1930~40年代の論客に即して、東アジア地域共同体の模索の跡をたどる。