Web Syllabus(講義概要)

平成23年度

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比較社会論 I 小山 郁夫
選択  2単位
【外国語】 11-1-1410-0225-11

1. 授業の内容(Course Description)
 社会の中の2つの文化的活動である、「文学」と「数学」の世界について話しをします。
 たとえていえば、「文学」の宝石箱から、永遠の眠りについた美しい宝石をいくつか取り出し、皆さんに紹介します。同時に、「数学」の宇宙から、何億光年の旅路の果てに、彗星となって地上に降り立った美しい星のかけらも、いくつか紹介しましょう。
 シュタイナーは、社会は、「経済活動」「法制度」「精神活動」の3つの柱から成り立っているといっていますー大学が、経済学部、法学部、文学部と分かれているのはその表れです。そしてその中心を占めるのは「人間」であり、その人間は、「思考」「感情」「意志」の、3つの要素から成り立っている、ともいいます。
 文学は、大きくいえば感情や想像力の表現です。個性を重んじます。数学は、それと比較していえば、冷静で客観的な思考の表現です。「共通であること」を尊重します。知っていいただきたいことは、文学の中にも当然のことながら、冷静に物事を観察する知性の働きがあるし、数学の中にも、こちらのほうはやや分かりにくいかもしれませんが、人間の深い想像力の働きや感情のうねりがある、ということです。数学者の岡潔は、「数学の本質は情緒である」といっています。
 かつて私はある授業で学生たちに、「『夏の雨』ということばからあなたが連想するものを書いてください」と聞いたことがあります。回答はその多くが、「豪雨」「台風」「カサ」という即物的なものでした。しかし、120人の学生の中でたった一人、「あまがえる」と書いた学生がいました。名前を見ると、それは私が1年の文法を教えたAさんでした。Aさんは、授業中質問をしてもあまり答えず、それどころか何か声も出せないような学生でした。そのAさんがたった一人美しい回答をしてくれたので、私は感動し、うれしさを覚えました。
 文学と数学は本来1つのものです。2つは1つに調和して、人間を成長させ、社会を形成していきます。
 数学に関していいますと、「数学は好きだし関心はありますが、もうこりごりです」と、嫌悪感をあらわにする人がよくいます。これは、結果だけを性急に求める受験勉強がトラウマになっていたり、あるいは多くの場合、その人に数学を教えた教師に問題がある、といわざるを得ませんー私がそうならないように注意しなければいけませんが。
 数学は、みなさんが、「どうもここがわからないな」と感じた瞬間が最も大切です。その瞬間の中に、皆さんが本質的に成長するための、「光」や「水」や「空気」があなたのために用意されているからです。授業では、この瞬間を大切にしてください。
 春学期は、文学の海からは、物語(「ブッシュマンの神話」、アンデルセン「マッチ売りの少女」、「アンネの日記」、「強風で倒れた大木から兄を守ろうとして亡くなった弟の話し(イギリスの有力新聞『タイムズ』より)」、芥川龍之介「蜜柑」、井筒俊彦「正師をもとめて」、「ルカ伝:18章の9~14節、6章の27~36節」など)を中心とした領域から取り出し、数学は、幾何学(「ピタゴラスの定理」、「チェバの定理」、立方体の断面図、射影幾何学など)と、代数系(整数論、互除法、開平の方法、連分数、不定方程式、ガロワ理論など)の分野からできるだけやさしいものを取り出してみなさんに紹介します。
 日本では江戸時代、「和算」という日本独自の数学が発達し一般民衆の中で流行しました。また、これはもう皆さんがご存じのように、「Sushi」「Karaoke」と同様「Haiku(俳句)」は、世界語です。しかし、俳句や川柳といった文学形式が、これほど一般民衆に浸透している国は、私の知るかぎり、ほかにありません。文学も数学も日本の伝統です。どうぞ講義には、肩の力を抜いて自信を持って参加してください。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 1.「分からないところ」でじっくり立ち止まる習慣を身につけること。
 2.文学の美しさと数学の美しさを両方体験し、2つを1つのものとして自分の中に根付かせること。
 3.物語や詩を読んだり、数学の問題に取り組み、それらを満喫すること。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 最後の授業の小テスト
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 1)教材:すべてプリントで配布します。
 2)参考文献:
   ①マティアス・ハイル『永遠のアンネ・フランク』(松本みどり訳、2003年、集英社):これは2002年ドイツで出た本で、最新の研究が盛り込まれています。アンネのことが冷静にそして熱く書かれているので、みなさんにはとても参考になるはずです。
   ②岩堀長慶『2次行列の世界』(数学入門シリーズ4;初版 1983年、岩波書店):高校生用に書かれた入門シリーズの1冊です。実に丁寧にそして「情緒」を込めて語られているので、素晴らしい本に仕上がっています。理論と応用のバランスがまことによく取れている本でもあります。何度も何度も読み返すことをお勧めします。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 1.授業でお渡しするプリントを何回も読んでください。
 2.授業で出した数学の演習問題を、自分で何回も繰り返して解いてみてください。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 1.授業中の私語は控えてください。
 2.遅刻はしないこと。
 3.私が話しをしているときに、その前を横切らないでください。
 4.第1回目の授業が最も大切です。第1回目の授業には必ず出席してください。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 イントロダクション
【第2回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その1)
【第3回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その2)
【第4回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その3)
【第5回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その4)
【第6回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その5)
【第7回】
 中間予備テスト
【第8回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その6)
【第9回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その7)
【第10回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その8)
【第11回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その9)
【第12回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その10)
【第13回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その11)
【第14回】
 文学の宝石箱から取り出した1つの宝石と、数学の宇宙から取り出した1つの星(その12)
【第15回】
 まとめと小テスト