Web Syllabus(講義概要)

平成23年度

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比較文化論 I 臼井 隆一郎
選択  2単位
【外国語】 11-1-1410-2414-10

1. 授業の内容(Course Description)
 『資本論』の世界
 カールーマルクスの『資本論』(第1巻1867年)を丹念に読む。しかし、『資本論』を経済学の古典として読むのではなく、あえて言えば「文学」として楽しみながら読みたい。一見して「楽しい」本ではないので、どう読めば楽しいのかできるだけ詳しく解説しながら読む。「読む」と言っても、残念ながら、ドイツ語の原書を前提にできないので、せめて、学生の手にする訳本は岩波文庫の向坂逸郎訳『資本論』に統一しておきたい。『資本論』を読むと言っても、実はその内容は曖昧である。ここで言う『資本論』とは、生前のマルクスの目の前で最終的な文章が出来上がった『資本論第1巻』であり、それ以外の『資本論』と称されるものが、いかに大きな問題を抱えていようと授業の対象とはならない。あくまで、1867年に刊行された『資本論第1巻』である。
 講師はほとんど、『資本論』の面白いのは第1巻だけであると考えており、その面白さは資本主義社会を神話的な地獄絵として提示する叙述方法にあると考えているが、その基底に学生時代にマルクスが打ち込んだドイツ・ロマン主義の神話学の知識が流れているためである。時間や身体を切り売りする労働者が、四肢を切り刻まれる詩祖オルフェウスになぞらえたり、資本主義が人間の生き血をすする吸血鬼として描かれる様を丹念に追えば、『資本論』の独特な「文学的」楽しみを分かつことができると考える。それが、単にマンガチックな絵空事と感じるか、それとも、現代の、例えば、地獄めいた就職難と共通するリアリティーを感じるかは、読み手の受け取り方に関わるだけであろう。
 『資本論』の世界という言い方で言いたい、もう一つの「世界」は、『資本論第1巻』の出た世界、19世紀後半に入り、世界資本主義市場が真にグロバライゼーションの様相を具える世界である。一つだけ例にとって詳しく見たいのは、極東と日本である。『資本論』の中には一箇所だけ、開国を迎える日本の「模範的な農業」がこれでお仕舞いになるだろうという予測が述べられている。マルクスがなぜそんなことを強調したのかを重視すると、『資本論』には、あまり目立たない形であるが、若い頃の神話学研究の名残として、万物の生命の源泉としての「大地」が資本によって食い荒らされ、廃棄される「世界史」の図式があることに気付く。この図式が、現代で言う「エコロジー」や「サスティナビリティ」の問題とどう関係するのかを論じる。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 現代の日本だけではなく世界的に覆う現象を論じる際に頻出する文化社会的語彙に馴染んでもらいたい。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 毎回ではないが、なるべく回数多く、小テストの形で学生の意見を聴取したい。授業が双方向性となるのが理想だからである。しかし意味のない意見、無駄な意見はそれ相応の成績に結びつく。授業最終日に小論文形式の試験を行って成績を決める。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 岩波文庫向坂逸郎訳『資本論』1、2。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 授業中、教師が少し触れただけの本も図書館で実際に手にすると、多くの場合、教師の言っていたよりもはるかに面白いことが書いてあるものである。自分で発見する楽しみ方を身につけてほしい。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 大学生らしい本を読むこと。
 授業は最低限の資料しか用意できない。『資本論』そのものは文庫本を読むことが多いので、岩波文庫本の『資本論第1巻』部分を図書館なり、購入するなり、揃えておいてほしい。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 導入 『資本論』第一巻の特権的位置
【第2回】
 なにごとも初めが難しい 『資本論』序文を読む
【第3回】
 怪物的商品集合 神話学 資本の悪魔学
【第4回】
 学生マルクス
【第5回】
 ベルリン大学 大学理念の終焉の時代
【第6回】
 就職難の時代のマルクス
【第7回】
 ケルン新聞編集長時代のマルクス
【第8回】
 『資本論』冥界降り
【第9回】
 逆立ちする机 「逆立ちした世界」いかがわしい世界 貨幣
【第10回】
 冥界降り
【第11回】
 資本と吸血鬼
【第12回】
 資本主義の煉獄 技術と大工業化
【第13回】
 革命騒動もなく静まりかえるヨーロッパと灼熱地獄化する植民地獲得競争
【第14回】
 『資本論』と明治維新 日本の「模範的農業」の命運
【第15回】
 『資本論』の無視し得ない問題 エコロジー問題 大地(地球)と資本 地球のサスティナビリティ