Web Syllabus(講義概要)

平成23年度

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日本経済史 II 佐藤 光宣
選択  2単位
【経営】 11-1-1210-0258-12A

1. 授業の内容(Course Description)
 経済史は歴史学の枢要な一分野を構成し、科学と技術、政治、宗教、教育、法律および軍事などに関する歴史的考察を含む文化史と緊密に連関するが、言うまでもなく経済学と決定的な関係を有する。経済史は、人類史の始期から現在へと引き継がれてきた悠久な生活史の文化的体系のなかの経済的局面を、実証可能な客観的史実のもとに研究対象とするからである。したがって本授業は、少なくともこれらの諸分野に広く視野を開こうと欲する学生諸君にとってはもとより、この基本的見地に基づいて春期に開講された科目である「日本経済史I」を受講完了した学生諸君にとってはさらに増して、一段と深い学問的関心をもって取り組みうる授業科目と言うべきであろう。
 本授業の実質的部分は、アメリカにおける制度派経済学の創始者であるソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)の経済社会についての批判的分析に立脚して展開される。すなわち、その独特な制度の累積的因果関係の原理や文化の発展段階説をはじめ、金銭的競争、産業と企業の対立、慢性的不況の理論および技術者革命論などの彼の考え方を導入しながら日本経済の歴史を考究し、もって本授業に一定の特色をもたせようとするものである。
 このような趣旨と眼目とに基づいて、秋期授業において私は、まず中世までの日本経済の流れを概括したあと、これに続く近世そして近代への日本経済の歴史的発展を制度の累積的変化の過程として概観する。あらゆる時代ないしは社会は、それらの内部に矛盾した諸制度を同時に持ち合いながら変化の原動力を懐胎するが、日本経済が辿った歴史に対する自由な見方に自ら立脚しようとするからには、かかる変化の過程に多面的な文化的諸要素が作用してきたことを示さねばならない。このため私は、機械論的あるいは目的論的な決定論をダーウィン主義による無目的な変化の概念によって妥当なものに改修し、これをもって授業を進める際の認識論的立場とする。このような意味において自由な立場から私は、戦国期から江戸時代、幕末から明治維新までの経済生活を中心に取り上げるとともに、また戦間および戦後期および現今の日本経済への流れを概括し、さらに日本の経済社会の将来への展望に多少なりとも触れることをもって秋期授業の内容とする。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 本授業において私は、資本主義という金銭文化段階(pecuniary stages of culture)において極めて不安定な様相を呈する昨今の経済社会の性質と機能について、先入観を排除しながら歴史的思索を重ねることを通じて一定の批判能力を養うことを授業の基本的な到達目標とする。我々が日々生活するこの経済社会を漠々たる樹海に見立てうるならば、過度の金銭的競争(pecuniary emulation)がもたらす混迷から一筋の光明を見出すべく知的格闘を厭わぬ学生諸君の手中には、鋭利なカミソリではなく、それを可能とする強靱なナタが握られてしかるべきであろう。そのナタの素材と形状とを自由な思索を経て鍛えあげる知的営為は、本授業のさらなる到達目標に他ならない。この趣旨から、敢えて授業の到達目標に細目を掲げることはしない。授業の到達目標は単位の取得のみにあるのではなく、その到達目標が新たな到達目標を自ら見出し解決へと向かわしめるような、発展の契機を含む本質的なものへの具体的・現実的接近を授業では目指す。これこそが、真に授業の到達目標となりうる。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 秋学期期末試験(定期試験期間内に実施)、学習到達度調査小テスト(1回のみ実施予定)、およびこれらの試験結果に平常点を加えて評価を決する。なお、正当な理由のない限り追試験等は実施しない。レポートによる救済措置は、これを認めない。詳細は次の通りである。
 (1)全出席であっても授業に顔を出すだけの学生諸君は、単位取得が著しく困難となる。授業終了時に毎回行う出欠調査は出席点算定のために行うのではない。出席は平常点を構成しない。
 (2)この授業の評価は、秋学期期末試験(70%)、学習到達度調査小テスト(15%)、および平常点(15%)により、総合的になされる。この基準は授業の進行状況によって、若干変更することがある。
 (3)平常点は、予習復習の達成度と授業時の質疑応答の態様によって積算する。授業時に紹介する文献に自ら向き合うよう極力努めるとともに、積極的な授業参加を要する。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 テキストは使用しない。参考書類は、それらすべての購入を義務づけるものではない。私自身が作成した教材を、日本経済史の一般的なテキストに替えて、授業開始時にほぼ毎回配布する。テキストの替わりに使用する教材は、授業を全体として見渡した結果に基づいて選ばれる。全学生諸君は帝京大学メディアライブラリーセンターに日参し、日本経済史についての知識を深めることを期待する。なお、授業で取り上げる書籍の内容は多岐にわたり、その数は少なくない。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 「日本経済史Ⅰ」を順次履修し、それらの内容を良く理解していることが望ましい。また、歴史について深く真摯な関心を持つことは、授業の準備として何より幸いである。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 言うまでもなく、この「日本経済史Ⅱ」は通年で内容的に完結する選択科目のうちの秋期充当科目であり、「日本経済史Ⅰ」(春期)の授業内容の理解を前提として順次展開する。したがって、「日本経済史Ⅰ」の履修後に「日本経済史Ⅱ」の単位取得に向かうのが常道である。とはいえ、「日本経済史Ⅱ」のみを単独で履修することも可能であり、その後、「日本経済史Ⅰ」を学ぶことを妨げるものではない。けれども、こうした科目選択あるいは学習パターンは推奨できるものではない。本学のカリキュラム編成と指導要領は全体を展望したうえで出来ており、またこの授業科目は学生諸君が学問を発展させていくための基礎的支援を一貫して行うものだからである。
 日本経済の歴史を理解することは、先人が歩み築いてきた経験と知識および文化に対して尊敬の念を深めるに違いない。学生諸君は授業に臨んでは、歴史的および経済学的なものの考え方を押し進めるような気持ちで聴講し、読み書きすることを望む。授業時間内とそれ以外の時間を充てて行うべき日々の勉学は、この授業が学生諸君に対して最も欲するところである。そのことが結局、学生生活を実りあるものにする一助となる、と確信するからである。人生で何か望むことがあるとするならば、そのために努力しなければならない。
 学生諸君は、日本経済史の理解に有用な理論的、実証的および政策的課題の自発的研究に向かって欲しい。そうすることによって、学生諸君は現代の経済問題に関して批判的に理解するようになるはずである。そこで初めて、各自がそれらについての建設的意見を自家薬籠中のものとしうるであろう。この授業が、日本経済の果たしてきた歴史的重要性、日本経済の累積的変化および現代の世界におけるその位置づけを、学生諸君が自ら学ぶ手助けの契機となることを願う次第である。
 なお、授業に際して学生諸君は、勉学のための秩序を乱すことのないよう、したがって快適な知的環境を破壊することに貢献することのないよう要望する。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 授業の課題と春期授業の概括
 ―シラバスの解説を中心として―
【第2回】
 戦国時代とその「情報革命」
 ―織田信長と情報の収集、判断、行動―
【第3回】
 上杉謙信の軍事力とその経済的条件
 ―流通ルートの掌握と特産品―
【第4回】
 織田信長の豊臣秀吉の経済感覚
 ―中世的性格の残滓とその超克―
【第5回】
 江戸時代と日本経済圏の出現
 ―商品経済の発達と数学―
【第6回】
 上杉鷹山による米沢藩の財政改革
 ―二度の構造改革と「有効需要」の創出―
【第7回】
 我が国の人口の推移と経済成長
 ―歴史人口学の成果と向後の日本―
【第8回】
 近世都市江戸とその経済生活
 ―その巨大化の経済的背景―
【第9回】
 江戸時代における農業とその生産性の向上
 ―いわゆる「勤勉革命」(“Industrious
Revolution ”)について―
【第10回】
 財政悪化と貨幣改鋳
 ―荻原重秀と新井白石―
【第11回】
 江戸時代の諸改革
 ―「先祖返り」の限界と経世思想の展開―
【第12回】
 日本型資本主義の確立
 ―渋沢栄一とその諸業績―
【第13回】
 第一次世界大戦と日本経済
 ―経済的諸力の再編成―
【第14回】
 戦時経済とその解体
 ―戦後復興から高度経済成長へ―
【第15回】
 世界システムのなかの日本経済
 ―日本経済の展望を中心として―