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授業の内容(Course Description) |
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秋期では生死の問題について取り上げる。ここで言う生死とは、私たちが生きるために殺しているという事実および、私たち自身の死に関する事柄である。私たちの生は、無数の死の上に成り立っているという事実を、現代に生きる私たちは忘れている。むしろ、そのように忘れ去って生きることが可能なシステムを意図的に作ってきたのが、近代文明の特徴の一つだと言える。 授業ではまず、ペットの処分や屠殺など、私たちの精神的支えや生命の存続のために殺されている動物の、具体的な様子について扱う。その上で、動物を殺すことと人を殺すこととの区別が、原理的に可能かという倫理上の問題について考察する。そこで、倫理がアプリオリな価値ではなく、特定の人間共同体の維持という、人間のプラグマティックな要求の上に成り立っている事実について確認して行く。 さらに、私たちが生きるために殺すという行為の隠蔽が、私たち自身の死をも隠蔽する構造について概観する。その上で、敗北としての死という考えと、生と切り離せない自然としての死という考えとを対比させる。そして、死の受容の思想の可能性について概観する。
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2. |
授業の到達目標(Course Objectives) |
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生死の問題を通じて、あたりまえのことが隠された現代文明について考え直す。またそのための思考力を養成する。
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3. |
成績評価方法(Grading Policy) |
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学期末に試験を行う。基本的に出席は毎回とる。
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4. |
テキスト・参考文献(Textbooks) |
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プリントを適宜配布する。
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授業時間外の学習《準備学習》(Assignments) |
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できるだけ具体的な事例から入り、可能な限りかみ砕いて解説するつもりだが、思想の根幹の部分は妥協せず伝えたいと考えている。春季と同じく、単位取得の安易さを見こんだ履修は厳に慎んで頂きたい。
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学生への要望・その他(Class Requirements) |
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配布されたプリントは授業で読むので、家であらかじめ予習し、わからない言葉などを調べておくこと。
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7. |
授業の計画(Course Syllabus) |
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【第1回】 秋期授業の見通し。 【第2回】 ペットを飼うことと、ペットが処分されることとの不可分について。 【第3回】 鶏肉ができあがる過程について。経済効率にもとづいた処分の仕組み。 【第4回】 牛の屠殺の過程について。これらの現場について、私たちが知らないようにされている構造。 【第5回】 動物を殺すことと人間を殺すこととに、原理的な違いはあるか。 【第6回】 何かが悪いとされることの、倫理的な根拠について。絶対的な悪の基準はあるのか、他の何かの便宜のために悪が作られるのか。 【第7回】 死は敗北か、それとも自然か。隠蔽され、疎まれることによって異他的になる死と、身近に接せられることで自然化する死。 【第8回】 生死の違いは、あとから作られた区別であると見なす思想について。生死一如。 【第9回】 死が作られたものであるなら、実は死はないという考え方について。 【第10回】 霊魂の存続の思想と、浄土思想との相違。 【第11回】 死がない生き物の姿。死を覚悟した者にとって、死の質が変化することについて。 【第12回】 死の克服の可能性。キュブラー・ロスの考察。 【第13回】 トルストイ『イワン・イリイチの死』における、死との和解。 【第14回】 ウィトゲンシュタイン『草稿』。死との直面が生の輝きになることについて。 【第15回】 死が対象ではなくなることで、それまでの死が死でなくなる構造について。全体のまとめ。
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