Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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共生社会論 II 三重野 卓
選択  2単位
【社会】 12-1-1350-3251-02

1. 授業の内容(Course Description)
 本講義は、「共生社会論Ⅰ」の続編である。まず、最初に、共生、および共生社会の考え方、諸相について復習し、確認を行う。現在、高度産業化、都市化、グローバル化の中で、人間関係が弛緩、崩壊しているのではないか、という危惧をわれわれは抱く。そのため、1990年代から関係性に関する用語、考え方が注目を集めており、共生もそのひとつである。
 本講義では、まず、第一に、共生と関連する社会関係資本について検討する。とりわけ、政治経済学者のパットナム、社会学者のリン、コールマンなどの考え方が有名であるので、それらにも言及する。第二に、貧困概念を拡張した社会的排除も一般化しているが、それは、社会的資源の再分配(社会保障、労働市場を通して)の状態、および、人間関係からの疎外を反映している。社会的包摂は、こうした社会的排除がない状態を意味する場合もあるし、より強く社会参加を含意する場合もある。第三に、社会的凝集性ないしは、結束は、地域への愛着やアイデンティティを表している場合もあり、多様である。第四として、これらの概念は。それぞれ文脈が異なるとはいえ、関係性の側面を表しており、共生の考え方と親近性を持っている。それらの共通性と差異を明らかにすることにより、共生の考え方に新たな光を当てることができる。
 一方、第五として、西欧世界では、近年、「社会の質」という考え方が注目されており、それは、個々人に焦点を合わせた「生活の質」と対比されている。「社会の質」の構成要素は、社会・経済保障、社会的包摂、社会的凝集性、社会的エンパワーメントからなる。この考え方を紹介し、拡張する方向性を探る。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 ①共生、および共生社会に関連する概念として、社会関係資本、社会的排除、社会的包摂、社会的凝集性について理解し、その共通性と差異を把握すること。
 ②社会関係資本が注目される文脈、すなわち、市民運動、ボランティア活動との関連について理解すること。
 ③社会的排除、社会的包摂が使用される文脈、すなわち、社会保障政策、雇用政策について理解を深めること。
 ④社会構想としての「社会の質」、共生社会について理解し、評価すること。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 成績評価は、出席点、およびテストによる。テストでは、ノート、配布資料の持ち込みを可とする。成績評価においては、①授業の内容を如何に理解しているか、②そして、人々の関係性の概念として、社会関係資本、社会的包摂、社会的凝集性などについて、如何に理解を深めているか、といった点を評価する。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 本授業では、テキストを使用しない。プリントを配布する。参考文献として、例えば、三重野卓『福祉政策の社会学』ミネルヴァ書房、2010、など。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 本講義では、テキストを使用しないが、最初の授業において詳細な授業項目を示す。各自、それを踏まえて、関係性についてのさまざまな概念、つまり、社会関係資本や社会的包摂に関心を持って欲しい。それを踏まえて、授業内容をより深く理解して欲しい。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 ここで取り上げる関係性についての諸概念は、官庁や地方自治体などでたびたび使用されている。それらのホームページ、および新聞、雑誌、テレビなどを通して、広い意味の共生の観点から、現代社会に興味を持って欲しい。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 (イントロダクション) 「共生社会論Ⅰ」の内容をまとめ、さらに、関係性をめぐる諸概念が注目されるようになった時代背景を解説する。
【第2回】
 (社会関係資本Ⅰ) 社会関係資本の歴史を二十世紀はじめまで遡り、検討を加え、現代における意味を再発見する。
【第3回】
 (社会関係資本Ⅱ) パットナムの社会関係資本の要素、すなわち、社会的ネットワーク、信頼、互酬性の規範について検討し、その考え方の内閣府への適用について明らかにする。
【第4回】
 (社会関係資本Ⅲ) 社会学者のコールマン、リン、ブルデューなどの社会関係資本の考え方を紹介し、その意義を明らかにする。
【第5回】
 (社会的排除) 貧困概念を明確にしつつ、貧困に陥る社会的文脈、多様な要因に着目し、社会的排除の考え方の有効性を問う。
【第6回】
 (社会的包摂Ⅰ) 社会的排除と社会的包摂の関係について、単なる対比概念であるのか、それとも、社会的包摂は、社会参加により焦点を合わせているのか、といった点について議論する。
【第7回】
 (社会的包摂Ⅱ) 社会的包摂の適用例として、ホームレス支援、雇用政策などについて検討し、その考え方の有効性と限界を明らかにする。
【第8回】
 (社会的包摂Ⅲ) 社会的包摂の福祉分野への適用可能性について検討し、地域福祉計画において、社会的包摂がどう位置づけられているか、検討を加える。
【第9回】
 (社会的凝集性) 社会的凝集性は、地域への愛着感、アイデンティティなどさまざまな文脈で活用されている。こうした点について検討を加えながら、社会関係資本、社会的包摂との関連を明らかにする。
【第10回】
 (共生と関係性の諸概念) 以上、述べてきた社会関係資本、社会的排除、社会的包摂、社会的凝集性といった用語と共生の共通性、および差異を明らかにする。
【第11回】
 (「社会の質」Ⅰ) 「社会の質」の考え方を「生活の質」との対比で検討し、ミクロ、マクロな視点、客観的、主観的な「質」の意味などについて、検討を加える。
【第12回】
 (「社会の質」Ⅱ) 「社会の質」の構成要素としての社会・経済的保障、社会的凝集性、社会的包摂、社会的エンパワーメントの考え方を明らかにし、その数量化の方法について検討する。
【第13回】
 (「社会の質」Ⅲ) 「社会の質」と「生活の質」を媒介する家族、地域、組織の「質」の考え方を定式化し、その論理を提示する。
【第14回】
 (「社会の質」Ⅳ) 「社会の質」、「社会関係資本」に関する社会調査(三重野が実施)の質問紙を配布し、その数量的把握について議論する。
【第15回】
 (まとめ) 以上、人々の関係性に関する諸概念について、再学習し、また、社会構想としての「社会の質」、共生社会について総括する。