Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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社会福祉学 I 三重野 卓
選択  2単位
【社会】 12-1-1350-3251-11

1. 授業の内容(Course Description)
 社会保障制度については、国、時代によりその範囲が異なっているが、わが国では、社会保障制度審議会(1950年)による公的扶助、社会保険、社会福祉、医療・公衆衛生をその要素とするという考え方が有名である。また、福祉(welfare)という場合、広義の福祉(「望ましさ」に関する観念)、狭義の福祉(社会福祉に関する政策、制度)に分ける場合が多い。そして、近年、社会福祉学として、社会福祉のみならず、所得保障や医療保障(社会保障の構成要素)を対象として考える場合もある。本講義では、社会福祉学を広い意味として捉えることにする。
 総論部分として、第一に、「福祉」、「生活の質」を目標概念とする福祉政策の考え方を手段、評価基準との関連で考えることにしたい。第二に、福祉と市場、さらにサービスの割当(ラショニング)という考え方について検討を加える。その一方で、第三として、社会保障の機能(貧困の予防と救済、所得の再分配など)を明らかにし、さらに、社会保障の歴史を欧米、日本に焦点を合わせて描写し、かつ、現代的な問題として、わが国の財政枠組みについて検討することにしたい。
 また、各論部分として、「社会福祉学Ⅰ」では、医療保険、および所得保障としての生活保護(=公的扶助)に限定して、その制度のメカニズム、問題点について検討することにしたい。とりわけ、負担と給付の関係から、日本社会の社会保障、福祉政策の方向性を明らかにすることにしたい。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 ①社会保障制度における社会福祉の位置づけについて理解すること。
 ②福祉政策の考え方について理解し、実際の政策に興味を持ち、分析する眼を養うこと。
 ③社会保障の機能、およびその歴史、さらに、財政枠組みについて理解すること。
 ④社会の一員として、福祉を考える視点を持つようになること。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 成績評価は、出席点、テストによる。テストでは、ノート、配布資料を持ち込み可とする。評価においては、①授業の内容を如何に理解しているか、②そして、社会福祉、社会保障について、各自、如何に自らの知見を持つようになっているか、という点を重視する。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 テキストは、椋野美智子、田中耕太郎『はじめての社会保障:福祉を学ぶ人へ(最新版)』有斐閣、2012。
 参考文献として、三重野卓、平岡公一編『福祉政策の理論と実際:福祉社会学研究入門(増補改訂版)』東信堂、2005。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 最初の授業に、詳細な授業の予定を示す。各自、それを踏まえて、福祉についての情報に関心を持って欲しい。事前に、テキストを読み、それを踏まえて、授業の内容をより深く理解して欲しい。なお、プリントを多く配布する予定である。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 新聞、雑誌、テレビ、インターネットなどを通して、福祉の観点から、現代社会に興味を持って欲しい。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 (イントロダクション) 各回の授業を位置づける。とりわけ、福祉とは何か、という用語的な問題について、広義の福祉と狭義の福祉の視点から定式化する。さらに、社会福祉を社会保障、福祉政策、社会政策との関連で明らかにする。
【第2回】
 (福祉政策の枠組み) 広義の福祉、「生活の質」に関する福祉政策の考え方を示す。そこでは、目標、手段、評価基準からなる枠組みが提示される。
【第3回】
 (ニーズ論) とりわけ、目標を設定するためのニーズ(欲求、必要)の考え方について明らかにする。比較ニーズ、表出されたニーズ、規範ニーズ、感じられたニーズなどの概念について検討する。
【第4回】
 (福祉政策の評価基準Ⅰ) 平等、公正、公平の意味について考察する。それらの概念は、論者により異なり、多様であるが、ここでは、最大公約数的に考えることにする。
【第5回】
 (福祉政策の評価基準Ⅱ) 効率の評価基準を定式化し、効率と公平のトレード・オフの関係について検討を加える。さらに、サービスへのアクセシビリティ(接近可能性)、選別主義と普遍主義の考え方、および権利についても考察する。
【第6回】
 (市場の考え方) 福祉政策は、公共当局と他の主体、すなわち民間営利部門、民間非営利部門、家族の協働によるものである。ここでは、市場と福祉の関連性、とりわけ準市場に焦点を合わせる。
【第7回】
 (割当の考え方) 福祉政策において不可欠なラショニング(割当)の考え方に着目し、ニーズに如何に資源を割り当てるか、という点を明らかにする。
【第8回】
 (社会保障の機能) ここでは、四つの機能として、貧困の予防と救済、所得の再分配、経済の成長と安定、社会の統合や政治的安定を挙げ、その意味を明確にする。
【第9回】
 (社会保障の歴史Ⅰ) 欧米に焦点を合わせて説明する。公的扶助、社会保険の登場、そして、大恐慌を経た時代状況、戦後の福祉国家建設への志向、1980年代以降の社会保障改革について検討する。
【第10回】
 (社会保障の歴史Ⅱ) 明治、大正、昭和、とりわけ、戦間期、戦後の歴史について、公的扶助、社会保険に焦点を合わせ描写する。また、社会福祉の戦後の動向を辿る。
【第11回】
 (財政の枠組み) 国と地方自治体、および特別会計との関係、さらに、租税、保険料、地方交付税、国庫支出金、補助金などの関係について検討する。
【第12回】
 (医療保険Ⅰ) 被用者保険、すなわち、組合健保、協会けんぽ、さらに国民健康保険のメカニズムについて検討する
【第13回】
 (医療保険Ⅱ) とりわけ、後期高齢者医療制度の問題点について指摘する。
【第14回】
 (生活保護) 所得保障としての生活保護に焦点を合わせ、その制度の枠組み、実際について、国民の権利、選別主義の政策基準、スティグマ(恥辱感)との関連で明らかにする。
【第15回】
 (まとめ) 本講義を復習し、福祉政策における社会保障、社会福祉の位置づけを明らかにする。