Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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西洋文明論 I 小山 郁夫
選択  2単位
【外国語】 12-1-1410-0225-11

1. 授業の内容(Course Description)
 西洋文明における、「芸術と数学の調和」について講義と演習を行います。
 西洋文明(あるいは、正確な言い換えではありませんが、ヨーロッパ文化)は、大きく分けて3つの大河によって形成されています。1つはギリシャ文化の流れ、2つ目にユダヤ・キリスト教文化の流れ、そして最後に民衆文化の流れ、の3つです。ヨーロッパのことを本当に理解し体験しようと思ったら、どの1つも欠くことはできません。なぜなら、それぞれが、人類史の中で、ヨーロッパにおいて初めて生じたことだからです。けれども、時間の制約があるので、今年度はギリシャ文化のとりわけ「数学(=数学語)」に焦点を当て、それを芸術との調和の観点からお話しします。なぜ数学かというと、ギリシャ文化において史上初めて実現した<知性の独立>は、数学を通して実によく経験されるからです。
 ギリシャ語に、kalokagathia(カロカガティアー)という単語があります。これは、kalos(=美しい:英語では<calligraphy>という単語にこれが残っています)と、agathos(=善い)という2つの単語の合成語で、「美にして善なるもの」という意味です。それは古代ギリシャ人が生き生きと体験していた、知性を通して美的に経験される外的宇宙と、感性を通して経験され崇高な精神を予感させる内的宇宙との調和を表したコトバです。ギリシャ人にとっては、<人間>と<星>は、1つのものだったのです。
 リクツだけ言っても分かりにくいので、授業では、数学の具体的な問題を解きながら、「知性を通して経験される美としての外的宇宙」を体験してもらいます。テーマとしては、すでにアルキメデスにその萌芽がみられる「数列と極限値」を選びました。問題を解くことで、美の感動とともに、「知性の、感性からの偉大なる独立」を体験してください。また、「感性を通して経験される崇高な精神の内的宇宙」は、バイロン(1788~1824)の“Childe Harold's Pilgrimage”[Canto 3, 85~90]を読むことで体験します。19世紀に綺羅星(きらぼし)のごとく登場したロマン派の詩人たちの―古代ギリシャに通ずる―「理想の精神」を堪能してください。(バイロンからの引用:"Ye stars! which are the poetry of heaven!…"「汝ら星星よ!天上に刻まれた詩歌よ!・・・」)
 大切なことは、美と善を、歌と道徳を、数学と芸術を、哲学と音楽を、調和をもって体験することです。
 予備知識は前提としません。まあ、普通に数が数えられれば充分です。
 この講義は、ニーチェ風に言いますと、あらゆる人―ただし、私語を慎み集中して聴くあらゆる人―に向けて、同時に誰のためでもなく、分かりやすくお話しします。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 1.努力した受講者全員が、合格点を取ること。
 2.バイロンの詩のもっている、英語の音の美しさと、そこに表現された理想の美しさに触れ、自分のものにすること。具体的には、詩の何行かを暗記すること。
 3.授業で練習した数学のやさしい問題を、自分ひとりでも解けるようにすること。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 やさしい期末テスト
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 テキストは、プリントを配布します。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 1.前の授業で解説したバイロンの詩を、よく音読しておくこと。
 2.前の授業で練習した数学の問題を、自分一人で解けるようにしておくこと。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 1.授業中の私語を控え、集中して聴いてください。(これが最も大切です)
 2.遅刻はしないで、早めに着席すること。(これも同じくらい大切です)
 3.私が話しをしているときは、その前は横切らずほかの所を通ってください。(「赤い糸」が途切れてしまうから)
 4.第1回目の授業が最も大切ですから、第1回目の授業には必ず出席してください。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 イントロダクション(時間をフルに使い最も大切なことを講義するので、必ず出席してください)
【第2回】
 1)神秘思想を基盤としたギリシャ文化、2)ユダヤ・キリスト教文化、3)ルネッサンスの民衆文化、の3大潮流の概観、および「数」の全体像と、「共通概念」の創造について;
【第3回】
 (文学)バイロンその1:(数学語)質問1「身の回りで規則正しく並んでいるものを3つあげてください」、質問2「数学の中で規則正しく並んでいるものを3つ考えてください」、質問3「自然数の3つの性質は何ですか?」
【第4回】
 (文学)バイロンその2:(数学語)1)マス目を使い「数列」を体験しながら、その規則性を発見する 2)「最も簡単な数列は何ですか?」(自然数の中に「数列」と「級数」を見出すこと)
【第5回】
 (文学)バイロンその3:(数学語)問題1「湖底に眠るアイルランドの王子と14人の妖精の物語」、問題2「スーパー31特売日の最安値の時間帯問題」、および「等差数列」と「等比数列」について;
【第6回】
 (文学)バイロンその4:(数学語)1)「区分求積法」による面積の求め方、および「極限値」の導入 2)既存の数列から新しい数列を作る方法(その1)ー自然数の累乗和の公式、および「級数」 3)超絶技巧としての「数学的帰納法」 の習得(その1)ー「命題の数列」を考える、そして「数学的帰納法」が使える場合と、使えない場合の体験
【第7回】
 (文学)バイロンその5:(数学語)超絶技巧としての「数学的帰納法」の習得(その2)、および問題演習;
【第8回】
 (文学)バイロンその6:(数学語)1)「タイルの敷き詰め問題(その1)」 2)「タイルの敷き詰め問題(その2)」 3)「フィボナッチ数列」の登場 4)既存の数列から新しい数列を作る方法(その2)ー自己言及、あるいは自己回帰としての「漸化式」の発見
【第9回】
 (文学)バイロンその7:(数学語)1)松ぼっくりを観察しながら、「フィボナッチ数列」の森を探検する 2)「数列」の「表現論」ー(i)「言語表示」(ii)「一般項による表示」(iii)「漸化式の表示」
【第10回】
 (文学)バイロンその8:(数学語)ピアノソナタ・1番「(等周問題よりモーツアルト風に):3角形の周の長さが一定のとき、その面積が最大となる時の3角形の形状を、漸化式を活用して求めなさい」 1)解析幾何学の復習 2)問題から漸化式を作る 3)漸化式から極限値を求めて答えを得る
【第11回】
 (文学)バイロンその9:(数学語)ピアノソナタ・2番「(社会学よりベートーベン風に):P(1)さんが事実Aを知り、次の日からその事実Aを1日に1人だけに伝えます。Aを知った人は、やはり同じペースで伝え、かつ2回のみ他の人に伝えるとそこで伝えるのを止めてしまいます。東京都の人口を仮に1200万人とするとき、事実Aが全都民に知れ渡るのに最低何日かかるでしょうか?また、知った人の総数の隣接項比の極限値を求めなさい。」
【第12回】
 (文学)バイロンその10:(数学語)ピアノソナタ・3番「(フラクタル理論よりシューベルト風に):正3角形A(1)の各辺の中央に、辺の長さが3分の1の長さの正3角形A(2)を貼り付けます。次に、A(2)の2つの辺に同じように正3角形を貼り付け、以後この操作を無限に繰り返します。このとき、そこに現れる数列を何種類か探し、それぞれの数列の極限値を求めなさい。」
【第13回】
 (文学)バイロンその11:(数学語)ピアノソナタ・4番「(確率論よりショパン風に):正角形(1≦k≦6)があります。ある1つの頂点を出発点として定め、そこにPを置きます。次にサイコロを振り、Pは出た目の数だけ一定の方向に頂点を進みます。どちらの方向に進むかの確率はそれぞれ1/2とします。 1)n回サイコロを振った時、各頂点にPがいる確率を求めなさい。 2)nを無限大にした時の、それぞれの確率の極限値を求めなさい。 3)この結果を、経済学的および哲学的に解釈しなさい。」
【第14回】
 (文学)バイロンその12:(数学語)ピアノソナタ・4番のつづき
【第15回】
 まとめと期末小テスト