Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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レジャー産業論 倉品 康夫
選択必修  2単位
【観光経営】 12-1-1501-1734-02

1. 授業の内容(Course Description)
 日本経済は久しく、デフレという、慢性的な鬱病のような経済の病気に罹っています。

そこに、日本は2011年3月11日の東日本大震災が降りかかり、それ以降、戦後最大の歴史の断絶と転換点の危機にあります。

 このような「頑張りたくても頑張れない」経済の鬱病状態で「もっと遊べ、レジャーをしろ」という考えには無理があり、反発も受けます。この講義では、デフレ鬱病経済下におけるレジャー産業のあり方、「国民的連帯と国民的サバイバル」に寄与するレジャー産業とは、というコンセプト(方向性)で次の社会の秩序や枠組みを模索するレジャーとレジャー産業について考えます。

 スポーツ基本法及び観光立国推進基本法前文には、それぞれ「《スポーツ立国・観光立国》を実現することは二十一世紀の我が国(経済社会:観光立国)の発展のために不可欠な重要課題」という文章が掲げられています。

 ここに、この国難にこそ、地域社会と人間関係(社会関係資本)の二つを統合するレジャー・生涯スポーツ・観光産業のミッション(社会的意義・市場価値)、つまり内需拡大が今、問われています。不況に苦しむ各国は「戦略なき日本の国富」を収奪するために、グローバル化を迫ってきます。ここは観光立国のスローガン「住んでよし」の内需の部分を推し進めるべきです。中国からの観光客が「ほったらかし」状態で観光するのが、観光立国でグローバル化でしょうか。

 日本の生き残りはこの二つの産業の統合するところにかかっているのではないでしょうか。

 すなわち「地域における創意工夫を生かした主体的な取組を尊重しつつ、地域の住民が誇りと愛着を持つことのできる活力に満ちた地域社会の持続可能な発展」(観光基本法)及び「人と人との交流及び地域と地域との交流を促進し、地域の一体感や活力を醸成する、人間関係の希薄化等の問題を抱える地域社会の再生」(スポーツ基本法)を通じたコミュニティビジネス創造が求められています。

 このコミュニティビジネス(地域振興)は、観光・レジャー・スポーツを通じて地域を活性化する「伝統」「連携」「公共圏」「防災」「自然回帰」「国土保全」「自助」的生活を実現すると考えられます。これら持続可能性を意識した《社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)》を作る新たなビジネスモデルの構築をレジャー産業論では検討します。

 ようは国民が「いざとなったらなんでもできる」という気概を持つことです。これは「自立の力」「自らを守る力」ともなりえます。 

いざとなったらなんでもできて、自立して自らを守る。これは日本が独立国家として存立することの基本条件です。この質実剛健で手強そうな国民のイメージは「戦略なき日本の国富」を収奪しようとする国に対して抑止力になると考えます。

 デフレ経済下では経済の鬱治療のために市場経済の枠の外での社会資本を作る公共投資が必要と考えられます。授業から着想・仮想して、行政から支援を引き出す企画・計画をイメージしていただきたいと思います。コミュニティビジネスの斬新なアイデアから産業の社会的意義・市場価値を追求して再度アイデアを練り、授業への理解を深め、サバイバル思考を鍛えます。 

 このシナリオ作りの仕組みは、現在行き場がなく、今後のインフレ・財政的失敗・国外流出等で雲散する恐れがある一千兆円余の個人金融資産を目減りしない人的社会資本(人と人との絆)に、置き換えるチャンスでもあります。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 日本の次の社会の秩序や枠組みを担う余暇を対象とするビジネスのコンセプトを理解することができる。
 レジャー・生涯スポーツ産業のミッション(社会的意義・市場価値)を理解することができる。
 授業への理解を深め、着想・仮想して、ビジネスに行政から支援を引き出す企画・計画をイメージできる。
 コミュニティビジネスの斬新なアイデアから産業の社会的意義・市場価値を追求してビジネスのシナリオ・計画書が書ける。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 GPA的100点満点評価。
 リアクション・ペーパー(以下【RP】と略す)記入に基づいて4段階で評価し、この累積15回の講義として、4×15回は60点(60%)になります。
 その他の40点(40%)は発言とレポート・起業企画書ですが、質問力・問題解決型能力《クリティカル・シンキング》(建設的批評critical thinking以下【クリシン】と略す)特性を評価します。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 教 科 書:黒田次郎・倉品康夫ら(2012)『スポーツビジネス概論』叢文社
 参考文献:稲垣正浩(2001)『スポーツ文化の脱構築』叢文社、稲垣正浩(1995)『スポーツの後近代』三省堂
      中野剛志編(2011)『成長なき時代の「国家」を構想する:経済政策のオルタナティヴ・ヴィジョン』ナカニシヤ出版
      多辺田 政弘(1990)『コモンズの経済学』学陽書房
      戸部良一(1991)『失敗の本質』中央公論社(同じ過ちを犯さないために失敗に学ぶ)
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 【事前学習】
  事前に参考図書等の短い要約を作ることが求められます。それを前提にすすめてまいります。
  起業概要の企画書・計画書を書いて提出する。
 【事後学習】
  ノートおよび授業中に配布された資料を基に、授業内容をふりかえる。次回の授業において質問ができること。また、即メールを送ること。起業概要の企画書・計画書を書き続ける。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 コミュニティビジネス起業概要の企画書・計画書を書いて提出してください。
 『事業計画書』
 斬新なアイデアから再度アイデアを鍛えて、計画性と情熱を練り込む。自分の夢と可能性の具現化をシュミレーションする。これは、一度書いておけばポータブル(移植・移動可能)で使い回しができます。
 大樹に寄る就活レジュメや面接の武器になると考えます。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 アイスブレイキング
 学習課題中心テーマ:授業についてのオリエンテーション
 資料:当e-camps上のシラバス
 ・授業の進め方の説明、学生同士の自己紹介、1分間スピーチ等。
 Entry Form《自己紹介と対象学生の特性と希望調査。動機づけ》
【第2回】
 前回の感想から。
 チャンピオンスポーツは産業か興行か。
 「ナショナルパスタイム(米国・国民的娯楽)」と民族の祭典(ベルリンオリンピック)
 相撲力士と比べた野球選手の当事者能力(主権力・主催力)のなさ
 遊びを職業にする。遊びOJTを考える。
 コミュニティビジネスを創る。
 スポーツビジネス起業家は、ニュースポーツ創業、地域スポーツイベント企画等ニッチ市場開拓、河川敷ランニングクラブ、女性向けコンパクトフィットネス、朝野球チーム助っ人、子ども体育塾等々、市井のスポーツを起業の対象として考える時期が来た。大樹の陰に寄らない、地域に根ざした生きがいを選択する覚悟と勇気と能力が求められる。
 ニュースポーツを興したり、黎明期に参入してマネジメントすることは、創業者利益(インセンティブ)が得られる。
【第3回】
 沖縄観光論「正体不明の南の島」「リゾートの練習」「大自然の中の大不自然」
 中心テーマ:沖縄観光とポストコロニアル
 冬は寂れる「西を拝む」リゾート、冬でも日が当たる東海岸
【第4回】
 フィットネス産業 ※ヨーガ等の演習含む
 中心テーマ:消費社会と健康・スポーツ「フィットネスクラブビジネスの実際」
 ∴トピック(論題):「寝ながら百科事典を読む練習」ベンチプレス
  若いインストラクターの新陳代謝が激しい生涯スポーツの現場の矛盾、消費される身体
 マメネージメントができる人材が育たない、フィットネスの発展
  1)加齢を受け入れる。2)「癒し」のスポーツ3)「自然」と一体化するスポーツ4)「気」エネルギーを覚醒するスポーツによる心身一元論の実践。その他に、体幹を意識したヨーガ(倉品、2008)、フリーウェイト トレーニング、古武道的動作を取り入れた有酸素運動、自然の中で行う体幹トレーニング(倉品、2009)これらのスポーツの敷衍も市場拡大を意味する。これは、身体という自然の持続可能性の追求とも考えられる。
【第5回】
 マスコミ産業(情報マスメディア)
 学習課題:レジャーとしてのスポーツのテレビ観戦の仕組みについて理解し、メディアリテラシー(情報を見極め、判断する能力、媒体への基本的姿勢)を身につける。
 ∴トピック(論題):見るスポーツを作る新聞社と放送局、嘉納治五郎の見世物スポーツ論
【第6回】
 広告代理店(イベント、興行)「夢をあきらめない人たち」
 学習課題:観るスポーツを支える広告代理店について理解し、イベントのプロデュースあるいは運営、コーディネーション(統合力)について学習する。
 ∴トピック(論題):サッカーJリーグの立役者と箱根駅伝を国民的イベントにしたのは同一人物(帝京の表 3広告、東京農業大学OBの広告)、さまざまなエージェントの介在、大リーグ中継の漢字の看板、スポーツイベントと経済効果、スポーツを学校から解放する、相撲は江戸時代、能楽と同じ芸能ジャンル、「スポーツの芸能化、アスリートの芸能人化」
 スタジアムビジネス、スポーツの聖地国立競技場、国立代々木競技場
 到達目標:自分の考えるイベントのプロデュースあるいは運営、コーディネーション(統合力)について夢を言語化して形(企画書)にできる。
【第7回】
 ギャンブル産業について
 中心テーマ:ギャンブルの社会貢献
 公営のギャンブル:寄付された浄財の社会貢献について理解し、公営のギャンブルへの基本的判断及び姿勢を身につける。
【第8回】
 地域を活性化させるレジャー産業
 中心テーマ:リゾート産業としての民宿
 ∴トピック(論題):熱海初島、西湖民宿村、不況をレジャー資源つくりで克服した米国民間国土保全隊の事例
 農業体験という驕り「田植えしか来てくれない」(思い込み)
 耕作放置された棚田を守る青年の可能性
 地域社会を創るための中間システムの研究
 「よそ者信仰」「よそ者・ばか者・若者」という言葉
【第9回】
 アウトドアビジネスの実際
 「みんなで生き残るシステム」野外活動はビジネスチャンス
 防災・減災・サバイバル・冒険キャンプは楽しく・安全な体験でないと実際の役にたたない。学校ではなく、スポーツ共同体において、専門性を持った指導者のスーパービジョン(参与観察・見守り)で、子どもらは当事者として、ロジスティックス(兵站・裏方)から全ての過程を実践する(倉品ら、2009)。また、冒険キャンプにおける、自分や家族を守るために危機を先駆的に知るイメージ力(想定力)を養うチャレンジは最良の災害時の自助シュミレーションである。
  伝えるべき良質体験を持った指導者による、「環境負荷が大きい物質的な生活」を諦め、「地球環境・社会及び身体の持続可能性」を追求する、野外活動・キャンプ的ライフスタイルの提示が要件となる。生涯スポーツ共同体を災害時の市民「生き残り」システム、として機能させる自治体と補完させる仕組み作り(倉品、2011)も喫緊の課題である。この実現には弱肉強食サバイバルに陥らない「みんなが連帯して生きる(生き残 ることができる)」精神的豊かさを選択する社会を希求することが前提となる。
 中心テーマ:オートキャンプ場、山岳(スキー場など)、農林水産体験、マリンリゾートビジネスの実際
 レジャー産業におけるリスクマネジメント
 「自然に対する畏敬の念・正常化の偏見から自由であること」
 個人のリスク(問題)発見能力を高め、全員で何が危険で何が安全なのかを考え、伝える。問題点は、即、その場でプロセスを改善して全員で共有する。
【第10回】
 アウトドア用品
 中心テーマ:スポーツ用品・用具ビジネスの実際
 ∴トピック(論題):スキー産業「神保町の奇跡」、燕三条・江戸時代キセル・近代洋食器・平成アウトドア 用品への変遷、釣具、銃砲、自転車、カーニバル的消費スタイル、モノ語り消費者、「手段の目的化」これぞ正に趣味の本質
【第11回】
 その他のレジャー関連産業
 中心テーマ:たばこ産業、ビール産業等その他のレジャー関連産業
 ∴トピック(論題):レジャーホテル、博物館、美術館、水族館、動物園、スポーツツーリズム、自動車産業、シーニックバイウェイ、ペット産業、ペットの宿泊形態、ジオツーリズム地学旅行温泉
【第12回】
 消費者教育・人材養成
 学習課題:レジャー産業の成熟化のために望まれる消費者教育
 ∴トピック(論題):「富士山に登らない馬鹿二度登る馬鹿」という言葉
 「富士山の山小屋」には二度目の客はこないことが前提、クレームを経営に生かす、レジャー教育を考える、賢い余暇享受能力を育む教育とは、「賢い消費者」の形容矛盾
【第13回】
 指定管理者制度本格導入後の現状と課題
 学習課題:行政と企業の接点、官と民のパートナーシップとして指定管理者制度をとらえ、できれば公募3巡目に向けてのビジネスチャンスとしての参入のポイントを理解する。
 さまざまな業種の行政への参入現象としての指定管理者制度
 指定管理者には指導能力、設備管理、クラブ企画運営・広報すべてのマネジメントが求められ、今後、ライフ スタイルの提示、アフタースポーツの「人付き合い」も求められる。
 施設効率運用マネジメントとは老若男女の多様な価値観を出会わせる公共圏ネットワーク提供型ホスピタリティ・社会資本ビジネスといえる。このスポーツ当事者実践過程のソーシャルキャピタル(ネットワーク資本)が人を財産として、いかに社会に蓄積されるかが課題となる。
 ◎到達目標:インターネット上の自分の興味ある指定管理者公募に対する企画案を書くことができる。
【第14回】
 試験
 事実上の期末試験
 自己評価用紙…当日配布。
【第15回】
 ふりかえり
 国際観光交流の増加を背景に、改めてわが国の伝統文化の風俗習慣を見直す
 《当日提出課題(前回宿題)》:達成度自己評価表、ふりかえりシート
               (14回全体の授業のふりかえりを書く)
 各自の職観、職に就く意志についての意見交換
 【予定サービスプログラムについて】(費用各自負担)
 できれば、近郊にフィールドワークに出かける。
 フィットネスクラブ体験、高尾山、浅草・アメ横・寄席・上野動物園等
                                      以上