Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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ライフサイエンス I 冲永 隆子
3群  2単位
【三群】 12-1-1607-0127-01

1. 授業の内容(Course Description)
 近年の生命科学・医療技術の進歩発展は、人間の生と死の現象への人為的介入を可能にしたが、その結果、多くの今日的課題を残してきた。たとえば、生をめぐっては、不妊治療の「体外受精‐胚移植(IVF-ET)」、生命の選別が問題となる「出生前(胎児)診断」・「着床前(受精卵遺伝子)診断」、中絶胎児(EG)細胞を利用する「再生医療」などに対する「生命の尊厳」とは何かという新たな問いである。
 また、死をめぐっては、延命医療が生み出した「脳死」や「持続的植物状態(遷延性(せんえんせい)意識障害)」、犠牲を伴う「脳死・臓器移植医療」、末期がん患者の「ホスピス・緩和ケア」、末期患者の「死ぬ権利」が問題となる「安楽死」、「尊厳死(自然死)」など、現代人はかつてなかった「新たな死」の意味を再考する時にきている。これらは先端生命科学時代に生きる私たち、一人ひとりの「生と死」に対する問いかけである。
 この授業では、「人の死とは何か、生とは何か」という永遠なる命題を、身近な医療・臨床現場での問題とつき合わせて、生命・医療倫理(バイオエシックス)の視座から問い直していく。通年にわたり、生命の誕生(秋期)から終焉(春期)にいたるまでの先端生命科学・医療におけるバイオエシックスの問題についてとり扱う。
 なお、今期授業では、「終末期医療(ターミナルケア)」や「脳死・臓器移植」の具体的事例を取り上げ、ビデオ教材を使いながら、「いのちの問題」を掘り下げて考えていく。理解をより深めるために、通年の受講(ライフサイエンスⅡも受講)が望ましいが、半期受講でも歓迎する。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 生命科学技術の現状を理解するとともに、基礎的知識を身につけ、バイオエシックス的課題について考える力を養うこと。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 定期本試験を80%、平常点として数回の10行程度の簡単なレポート(VTR感想文)提出等を20%として総合評価する。なお、毎回出席はとらないが、本試験は出席を前提とした内容(VTR感想文を書かせる問題など。試験は資料等持込不可。但し授業中に試験問題・解答内容を教える)を出題する予定である。出席と授業への取り組みをもっとも重視する。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 ・購入指定テキスト『看護学生のための医療倫理』(丸善、2012)(※未公刊の場合は、『薬学生のための医療倫理』(丸善、2011)を採用)
 ※看護学生に限らず医療者全体、また一般者(患者・家族)に共通する必要不可欠な医療倫理の概説部分を主に扱います。それほど専門性は高くなく、文系向きの講義内容です。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 指定したテキストおよびレジュメの次回講義部分を事前に読んでおくこと。
 講義時間内にVTR感想文(10行程度)を提出できなかった人は仕上げて次回に持ってくること。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 1.毎回授業に配布資料、購入指定テキスト、ノートなどを持参すること。
 2.ほぼ毎回ビデオ教材を用いて、レポート(感想文)提出を行うため、極力欠席・遅刻は控えること。とくに初回には、授業の進め方や評価方法など詳しく説明するので必ず出席すること。
 3.授業中の「マナー」を守ること(私語、授業に関係のない行為、例えば携帯電話・ゲームで遊んだり、読書をしたり等、正当な理由のない途中入室・退室などは厳禁)。守れない人には退室を命じます。
 ※この授業は、春期・秋期の通年受講が望ましいが、単位認定になんら影響しない。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 はじめに―授業の進め方や評価方法などの説明。
 *以下に予定するテーマ及びビデオ内容は進行により変更する場合がある。
 生命科学(ライフサイエンス)、生命・医療倫理(バイオエシックス)誕生の歴史(1):戦時中の人体実験の倫理問題(独国:ナチスのホロコースト、弱者を利用した人体実験、日本:731部隊による人体実験)
 →臨床・医学研究(人体実験)の倫理確立、被験者の権利保護 KW:ニュールンベルク綱領(1947)、ヘルシンキ宣言(1964)、インフォームド・コンセント
【第2回】
 バイオエシックス誕生の歴史(2):人体実験に対する倫理問題(米国:「タスキギー事件」「ウィロー・ブルック事件」「ユダヤ人慢性疾患病院事件」「シカゴ・マラリア研究」「放射線被爆人体実験」)、同意なき治療、医療過誤事件→臨床現場の倫理確立、患者の権利保護 KW:患者の権利章典(米国73、日本91)、リスボン宣言(1981)、患者の自己決定権、インフォームド・コンセント、ヒポクラテスの誓い、パターナリズム、生命倫理4原則(ビーチャム)、臨床倫理4分割表(ジョンセン)
【第3回】
 患者の権利(1):治療選択権
 Case Study1―エホバの証人輸血拒否問題 KW:患者の自律尊重原則、J.Sミルの他者危害原則、QOL(生命の質)、SOL(生命の神聖性)、医師の善行(与益)原則・不加害の原則、ヒポクラテスの誓い、パターナリズム
 (ビデオ:「生命倫理を考える―終わりのない8編の物語―」 ②「花のプレゼント」丸善1995)
【第4回】
 患者の権利(2):治療拒否権
 Case Study2―重度の火傷を負った患者の治療拒否問題 KW:臨床倫理4分割表(ジョンセン)、医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況
 (ビデオ:「いのちは誰のものか―ダックス・コワートの場合」丸善1995)
【第5回】
 患者の権利(3):治療拒否権
 Case Study3―終末期医療・緩和ケア、延命措置の問題 KW:臨床倫理4分割表(ジョンセン)、医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況
 (ビデオ「生命倫理を考える―終わりのない8編の物語―」①「老人の友」丸善1995)
【第6回】  
 終末期医療(1)―緩和ケア 末期がん患者の全人的苦痛(トータルペイン)、全人的(トータル)ケア
 Case Study―いのちを見つめる1 KW:ターミナルケア、ホスピスケア、ビハーラケア、緩和ケア、全人的(トータル)ケア、エンド・オブ・ライフケア、スピリチュアルケア、WHOの健康定義
 (ビデオ:「ともに死に向かう 鳥取ホスピスの現場から―野の花診療所 徳永進医師)
【第7回】
 終末期医療(2)―緩和ケア 「ホスピス・緩和ケア」に関する概論
 Case Study―いのちを見つめる2 KW:キュブラー・ロス、シシリー・ソンダース、柏木哲夫、日野原重明、セデーション(鎮静)、WHO疼痛緩和方式
 (ビデオ・書籍:「日野原重明 100歳 NHKドキュメンタリー」2011)
【第8回】
 終末期医療(3)―安楽死 概念整理・現状 KW:死ぬ権利、安楽死、医師による自殺幇助、ホームドクター制、インフォームド・コンセント、自己決定権
 Case Study―オランダの現状(安楽死法2001)、世界における安楽死・尊厳死に関する法律
 (ビデオ:「安楽死がついにドキュメントされた!~依頼された死~スペースJスペシャル」(毎日)1994)
【第9回】
 終末期医療(4)―安楽死 概念整理・現状 KW:慈悲殺、6要件(山内事件)、4要件(東海大事件)
 Case Study―日本の現状「山内事件(62)」「東海大事件(95)」「国保京北町事件(96)」)
 (ビデオ:「続・安楽死スペシャル~スペースJスぺシャル」(毎日)1994)
【第10回】
 終末期医療(5)―尊厳死 概念整理・現状 KW:尊厳死、患者の意思表示(事前指示)、リビング・ウィル、蘇生拒否(DNR)、患者の持続的委任権法(1983)、患者の自己決定権法(1990)
 Case Study―米国の現状「カレン・アン・クインラン裁判(75-76)」「ナンシー・クルーザン裁判(83-92)」
【第11回】
 終末期医療(6)―尊厳死 概念整理・現状 KW:尊厳死、患者の意思表示(事前指示)、リビング・ウィル、蘇生拒否(DNR)、尊厳死法
 Case Study―日本の現状「射水市民病院(人工呼吸器取り外し)事件(2000-2005)」、尊厳死法制化の動き
【第12回】
 先端医療・人体利用問題―ナチス犯罪 KW:ナチスのホロコースト、人間の尊厳、危険な滑り坂
 Case Study―いのちを守るバイオエシックス、脳死臓器移植における「いのちの犠牲」(参考資料:宗教情報センターコラム「犠牲を伴う移植医療―救われるいのち、棄てられるいのち」)、総合教育センター論集「小児脳死臓器移植をめぐる諸問題とケア論に向けての一考察」)
 (ビデオ:アラン・レネ作(フランス)『夜と霧』1955)
【第13回】
 脳死と臓器移植(1)―脳死臓器移植 概念整理 KW:脳死、脳死判定、死の三徴候、低体温療法、臓器移植法
 Case Study―遷延性意識障害(持続的植物状態)と脳死との違い、脳死が臓器提供と結び付くまで、日本の現状(臓器移植法改正 2009)
 (ビデオ:「NHKスペシャル91’脳死移植は始まるのか?」1991)
【第14回】
 脳死と臓器移植(2)―脳死臓器移植の現状 KW:ドナー、レシピエント、ドナーカード、臓器移植法改正、有機的統合体説、パーソン論
 Case Study―臓器提供意思表示形式、海外の現状
 (ビデオ:「ティーンズTV・ワールドドキュメント 脳死移植~生と死の問いかけ」(NHK教育)2001)。
【第15回】
 脳死と臓器移植(3)―子どもの脳死臓器移植問題 KW:長期脳死、虐待児童からの臓器提供
 Case Study―小児脳死臓器移植の諸問題(参考資料:宗教情報センターコラム「犠牲を伴う移植医療―救われるいのち、棄てられるいのち」)、総合教育センター論集「小児脳死臓器移植をめぐる諸問題とケア論に向けての一考察」)
 (ビデオ:「NHK特集 剛亮(ごうすけ) 生きてや~脳死を見つめた78時間」1987)