Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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経済史 I 佐藤 光宣
2群  2単位
【二群】 12-2-2120-0258-03

1. 授業の内容(Course Description)
 経済史は、経済現象が歴史的にどのように生起してきたのかを問う学問である。この経済史に関する本授業は、ソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)――『有閑階級の理論』(The Theory of the Leisure Class, 1899)などの著者である異端のアメリカの経済学者――の制度的接近方法を力説しながら、イギリスを中心に西欧諸国における経済社会の進化とその諸問題に関する種々の論題を取り上げる。まずもって、学生諸君の耳に残る授業を心掛けたい。
 この授業はヴェブレンの制度(institution)の概念を詳説することから開始する。そのうえで、主として西欧の経済生活の歴史を制度の累積的進化の過程として描こうとするものである。したがって、この授業では文化変化の理論への接近が試みられ、またこれを土台として経済生活の歴史に印された重要事項を検討する。したがって、比較的広範な学問領域の基礎的知識に学生は自ずと接することになる。
 授業は所有権制度の生成と発展および資本主義経済制度の成立へと進み、現今に繋がる経済生活へと、その内容を展開してゆく。その際、文化を構成する諸要素が人間性の変化を通じて相互に連関する様相が示されるであろう。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 本授業において私は学生諸君とともに、資本主義という金銭文化段階(pecuniary stages of culture)において極めて不安定な様相を呈するに至った昨今の経済社会の性質と機能について、先入観を排除しながら歴史的思索を重ねる。このこと自体が授業の到達目標への道標となる。また、この道標に導かれつつ現今の経済社会について批判能力と建設的意見とが養われるであろう。これこそが本授業の到達目標となる。かくして、「人間力」醸成の足掛かりが得られるであろう。このことも、その到達目標に含まれる。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 春学期期末試験(最終授業時間内に実施)、学習到達度調査小テスト(実施日未定)、およびこれらの試験結果に平常点を加えて評価を決する。また、正当な理由なくして追試験等は実施できない。なお、レポートによる救済措置は予定していない。詳細は次の通りである。
 (1)この授業の評価は、春学期期末試験(70%)、学習到達度調査小テスト(15%)、および平常点(15%)により総合的になされる。但し、この基準は授業の進行状況によって若干変更することがある。
 (2)授業に顔を出すだけの学生は授業の到達目標までの過程に自ら関与しない以上、単位取得は困難である。授業の開始前と終了後に毎回行う出欠調査は、出席点の機械的算定のために行うのではない。選択科目たる本授業への出席は学生の権利であり、その権利の行使がいかに主体的に行われるかが重要である。権利の行使には責任が伴うのである。学生には積極的な勉学の姿勢が強く求められるのであって、かかる姿勢が見受けられた時にのみ出席を実質あるものとして認め、これを平常点として積極的に評価する。この趣旨において出席調査は厳格に行われる。よって、出席するに値する授業を私は心掛けねばならない。
 (3)平常点は、授業時の質疑応答の態様および予習復習の達成度等によって積算する。授業の要点は、毎回、これを聞き逃してはならない。まずもって授業を虚心坦懐に聞き、その内容をノートに記さなければならないのである。また、ノートの内容は自ら更新を重ねていかねばならない。その際、思考の過程が、いわば知的成長記録として記されているのが良い。このような手順と平行して、授業の要点が各自で分析され、これを総合するために数多の書籍に向き合う知的熱意が求められる。もとより、授業の内容と形式は担当教員の能力と人間性に制約されるであろうから、この限界を突破すべく学生は発展の契機をまずは授業から得るべきである。ここから先が「自分流」を発揮すべき自学自習の領域となるが、そこに至る第一歩は生き生きとして授業に加わろうとする姿勢そのものに存する。平常点は、そのような意味での「自分流」の姿勢が学生に見出せた時にこそ付与される。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 テキストは使用しない。参考書類は、それらすべての購入を義務づけるものではない。私自身が用意した教材を、経済史の概説書に替えて、授業開始時にほぼ毎回配布する。テキストの替わりに使用する教材は、授業を全体として見渡した結果に基づいて選ばれる。受講生は帝京大学メディアライブラリーセンターに日参し、経済史についての知識を深めることを期待する。なお、参考文献は多岐にわたる。その一端は次の通りである。
 Thorstein Veblen, The Theory of the Leisure Class (The Macmillan Company: New York, 1899).〔小原敬士訳『有閑階級の理論』岩波書店、昭和年〕。Thorstein Veblen, Imperial Germany and the Industrial Revolution(Macmillan, New York, 1915); Fernand Braudel, La dynamique du capitalisme (Arthaud, Paris, 1985).〔金塚貞文訳『歴史入門』中央公論新社、平成21年刊/藤瀬浩司著『資本主義世界の成立』ミネルヴァ書房、昭和55年刊〕。Rober Heilbroner & William Milberg, The Making of Economic Society, 12th Edition(Prentice Hall: New Jersey, 2007).〔菅原 歩訳『経済社会の形成』ピアソン桐原、平成21年刊〕。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 総合基礎教育科目の「経済学」を同時に履修し、その内容を的確に理解していることが望ましい。また、歴史について深く真摯な関心を持つことは、授業の準備として何より幸いである。
 また、新聞各紙の経済面を重点的に欠かさず読み通し、これを要約すること。同時に、日々の経済生活に関心を持つよう心掛けること。これらのことは、経済事象にかかわる正確な知識を自ら広く求め、現行の金銭文化とその構成要素間の相互作用を深く理解する必要を、学生諸君に知らしめるであろう。また、このような準備学習は、経済史以外の諸分野についても多方面から総合的な思索を重ねるべき必要性を、学生諸君に得心させるであろう。学生諸君は授業本体を離れて、かかる準備学習の過程を通じて経済の歴史のみならず、より幅広い歴史、哲学および心理学などで構成される体系的教養の涵養に向かってゆくことであろう。また、そのように努めてもらいたい。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 経済生活の歴史を理解することは、先人が歩み築いてきた経験と知識および文化に対して尊敬の念を深めるに違いない。学生諸君は授業に臨んでは、歴史的および経済学的なものの考え方を押し進めるような気持ちで聴講し、読み書きすることを望む。授業の内外を通じて行われるであろう勉学は、この授業が学生諸君に対して最も欲するところである。そのことが結局、学生生活を実りあるものにする一助となる。人生で何か望むことがあるとするならば、そのために努力しなければならない。
 学生諸君は経済史に関する理論、実証および政策の自発的研究に向かって欲しい。そうすることによって、学生諸君は現代の経済問題に関して批判的に理解するようになるはずである。そこで初めて、各自がそれらについての建設的意見を自家薬籠中のものとしうるであろう。この授業が、連綿として続いてきた経済生活の性質と機能、その累積的変化および現代の世界におけるその位置づけを、学生諸君が自ら学ぶ手助けの契機となることを願う次第である。
 なお、毎回の授業に際して学生諸君は勉学のための秩序を乱すことのないよう、まず要望する。また、一貫した知的環境のなかで授業が進展するよう、併せて要望する。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 授業の課題と予定
 ―シラバスの解説を中心として―
【第2回】
 ウィリアム・ジェームズ(William James)とその習慣の理論
 ―『心理学原理』(The Principles of Psychology, 1890.)をめぐって―
【第3回】
 ソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)とその制度の概念
 ―習慣と慣習の統一物としての思考習慣(habits of thought)について―
【第4回】
 『有閑階級の理論』とヴェブレンの発展段階説 ①西欧文明の生活史
 ―生産力の発展と有閑階級―
【第5回】
 『有閑階級の理論』とヴェブレンの発展段階説 ②「制度の運動の理論」
 ―ヘーゲル弁証法のヴェブレンに対する影響―
【第6回】
 原始的未開文化の段階と生存競争
 ―物質生活と「共有財産としての技術知識」―
【第7回】
 共同体の成立
 ―その性質と諸類型―
【第8回】
 掠奪文化の段階
 ―掠奪結婚と所有の観念の発生―
【第9回】
 有閑階級の生成と拡大
 ―その経済的価値と意義―
【第10回】
 有閑階級と浪費の原理
 ―趣味の金銭的規準―
【第11回】
 資本制社会 ①その成立と性質について
 ―共同体原理から競争原理へ―
【第12回】
 資本制社会 ②経済成長の要因について
 ―身分制度の崩壊と資本家の登場 ―
【第13回】
 イギリス産業革命と資本主義の誕生
 ―「政治家率先」から「個人率先」へ ―
【第14回】
 イギリス産業革命と古典派経済学者たち
 ―スミス(Smith)、リカード(Ricardo)およびマルサス(Malthus)の中心問題と人間性の概念―
【第15回】
 まとめ・春期試験
 ―複数の設問(4題)のある論述式問題―