Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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法律学演習 III 金澤  誠
選択  2単位
【法律】 12-1-1210-1952-05A

1. 授業の内容(Course Description)
 この演習は、憲法の「講義」などで得た知識を手かがりにして、もう少しだけ、憲法の世界、ないしは、「身のまわりの」法律や司法制度の世界を覗いてみることを、ひとつの目的としています。憲法の世界にも、たくさんのいろいろな判決(や制度)があります。その数が多いために、憲法の「講義」などでは、どうしても「結論」と、「最低限度の理由」しか勉強できなかったと思います。
 そこで、この演習では、「どうしてこんな判決が出たのか」、「どういう場合であれば、『正反対』の結論が出ただろうか」、「この判決がカバーしていない場面はあるか」、「原告が何を求めたのか」、「相手がどういう『反論』をしたか」といったことを意識しながら、(できあがった)判決を、「ゆっくりと」読んでみたい(そして、裁判官を含む、各当事者の気持ち(?)を考えてみたい)と思います。
 それだけでなく、(その事件の)下級審判決を読んでみたり、(判決の舞台裏を描いたとされる)調査官解説を読んでみたり、さらには、学者のコメント、新聞報道を読んでみたりなどと…その事件の「背景」や「奥深さ」を、教員とともに、見ていく(皆さんと探検していく)ことにします。
 最初のうちは、「身近で」「わかりやすい」「有名で」「重要な」事例から、とりあげることにしたいと思います。いつも人気のあるものとしては、剣道実技拒否事件、生活保護に関する事件、校則にまつわる事件、プライバシーに関する事件、輸血拒否事件、裁判員制度に関する事件、死刑に関する事件などでしょうか。これらを、教員主導型で、「解説」を交えながら読んでいきます。そして、後半になるにつれて、しだいに、少しずつ皆さんの意見を取り入れたり、感想を聞いたりして、双方向的なやりとりにしていきます。
 最終的には、教員ではなく、皆さん「だけ」による発表やプレゼンテーション(あるいは、レポート)を予定しています。工夫次第では、(法廷教室などで)模擬裁判の形態(原告側と被告側の対戦型)をとること、チームを作って、グループ・ディスカッションや、ディベートの形態をとることも可能だと思います。
 以上のことを通して、①文献を探す方法(図書館の使い方、検索の仕方など)を身につけたり、②文献を正確に読む能力を身につけたり、③文献を読んだうえで、それを口頭で報告したり、討論したり、文章にまとめたりする(場合によっては、レポートを書くような)能力を身につけたり、④ゼミ内外で、まわりの人(教員や学生)とコミュニケーションする能力を身につけたりすることができたら、と思います。
 なお、必ずしも判決ばかりである必要はなく、以前のゼミでもありましたが、最近世間をにぎわせているいろいろな憲法的な、あるいは、法的な問題ーーたとえば、「残虐」とされるアニメ・マンガ「規制」の問題、『図書館戦争』をモチーフにした表現の自由全般の問題、違法ダウンロード問題、さらには、生活保護や年金、臓器移植法や安楽死、体外受精・代理懐胎【代理母】などの問題、もしくは、夫婦別姓に関する問題などーーを検討するのも、ひとつかもしれません。
 いずれにせよ、素材選びにしても、普段の盛り上がり・遊びにしても、皆さんの「顔ぶれ」にかかっています。ひとえに、法律学演習の主役は、学生のみなさんですので、そのことをお忘れなく…。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 おもに、憲法判例を素材とすることで、次のようなことを目指したいと思います。
 ①講義でとりあげた複数の憲法判例の内容を、両当事者の主張を踏まえつつ、説明することができる(社会には、いろいろな人がいて、いろいろな意見があることを認識できる。正解がひとつではないことを認識できる。そして、「真実はいつもひとつ!」ばかりでないことに気づけるようになる)。
 ②新聞や法律雑誌、さらには、2ch(?)などで、日々議論されている、法律問題について、法的根拠を挙げながら、批判もしくは受容できる(昨日の自分より、ほんの少しだけ新聞記事を読めるようになった気になる。世の中の怪しい(?)評論家に対して、軽いコメント【ツッコミ?】をいれられるようになる)。
 ③講義でとりあげた判例や制度に関連する問題を、自分で発見して、みんなの前で、それにかんする解決方法を口頭で報告することができる。(自分ひとりで、ある程度の分量のプレゼンテーションをしたり、レポートを書けるようになる。憲法の役割に関するイメージを、近所の何も知らない小学生【小学生は迷惑?】に対して、ほんの少しだけ教えられる)。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 成績評価の方法としては、法律学演習ですから、①教材を事前に読んでくること、②当日の出席が重視されることは、いうまでもありません。それに加えて、③発表やプレゼンテーション(場合によっては、レポート)の内容(の上達)も、ひとつの成績評価の方法になります。
 報告者は、割り当てられた文献ないし判決を要約したうえで、論点を提示しながら自己の見解をレジュメ(または、PP)にまとめ、口頭にて発表することになります。発表をする際には、図書館に通って「自分で」(あるいは、何人かで)勉強をする必要があります。コピペは、禁止です。すぐバレます。
 いうまでもありませんが、演習ですので、原則として、毎回出席することが求められます。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 テキストとなる資料などは、教員が用意するつもりでいます。
 参考文献として、司法制度については、市川正人・酒巻匡・山本和彦『現代の裁判』(有斐閣・2008年)、木佐茂男・宮澤節生・佐藤鉄男・川嶋四郎・水谷規男・上石圭一『テキストブック 現代司法(第5版)』(日本評論社・2009年)などを参照。
 憲法裁判については、棟居快行・赤坂正浩・松井茂記・笹田栄司・常本照樹・市川正人『基本的人権の事件簿(第4版)』(有斐閣・2011年)、芦部信喜『憲法(高橋和之補訂)(第5版)』(岩波書店・2011年)、高橋和之・長谷部恭男・石川健治編『憲法判例百選ⅠⅡ(第5版)』(有斐閣・2007年)、大沢秀介編『判例ライン憲法(第2版)』(成文堂・2011年)、山口進・宮地ゆう『最高裁の暗闘-少数意見が時代を切り開く-』(朝日新書・2011年)、笹田 栄司・大沢 秀介・井上 典之・工藤達朗 『ケースで考える憲法入門』(有斐閣・2006年)、野坂泰司『憲法基本判例を読み直す』(有斐閣・2011年)などを挙げておきます。
 最後に、表現の自由に関する小説(ラブコメ!)として、有川浩『図書館戦争』(講談社文庫・2011年)(シリーズもの)を、レポートの書き方については、戸田山和久『論文の教室 レポートから卒論まで』(日本放送出版協会・2002年)、その他ゼミ一般に関しては、西南法学基礎教育研究会『法学部ゼミガイドブック: ディベートで鍛える論理的思考力』(法律文化社・2012年)を挙げておきます。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 ①難しくいえば、社会で生じている法的現象に興味を持つことが求められます。ケンポーに関する事件は、テレビや新聞などでよく報道されています。それを、自分で「発見」することが重要になります(それで、ときには、フィールド・ワーク活動として、裁判の傍聴会や施設見学会をみんなで企画するのも、面白いかもしれませんね…)。
 ②軽くいえば、ケンポーは、民法、刑法、労働法、社会保障法、政治学などの領域にかかわっています。ケンポーは、そうした学問領域を、「つまみ食い」できる科目ともいえるかもしれません。
 
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 ①この演習は、おもに判決を読む、プレゼンテーションをする、みんなで議論をするという「積極」的な作業をおこなう演習です。そうしたことに興味ある、「好奇心のある」学生さん(だけ)の受講を歓迎したいと思います。もしくは、社会を認識するための視座を獲得したいと「ほんの少しだけ」でも思った学生さんの受講も歓迎します。
 ②憲法に関する知識よりも、想像力(妄想力?)をもって、実際にいろいろな紛争を見ていく(いろいろ悩みつつ、社会を探検していく!)姿勢が、何よりも重要になります。参加者は、毎回報告者になったつもりで、演習に積極的に参加してほしいです。
 ③演習は、数少ない少人数の科目ですから、ひとりひとりの役割が大きくなります。報告・討論はもちろんですが、ゼミ内外での交流など、みなさんの個性を発揮できる場面が、きっと「どこかに」あるはずです。個性ある学生さんひとりひとりが、自分の役割を探し求めてみてください。
 ④ひとえに、楽しみながら勉強することが、演習のコンセプトです。もちろん、たまには、苦しんでもらいます。でも、ゼミでの恥は、もしかしたら、いつか、いい経験に変わるかもしれません(?)。 
7.
授業の計画(Course Syllabus)
 より詳しい授業計画は、初回のガイダンスで説明したいと思います。
 ①まず、必要であれば、文献の探索の仕方を勉強したいと思います。最初のうちは、教員主導型で、皆さんの意見を聞きながら、演習をおこなっていきたいと思います。(第1回-第5回)。
 ②教員が用意した文献や判決(たとえば、憲法判例を挙げるならば、エホバの証人輸血拒否事件、エホバの証人剣道実技拒否事件、非嫡出子相続差別事件、校則に関する事件、外国人入浴拒否事件、少年犯罪の実名報道事件、教科書裁判、死刑の是非に関する判決、生活保護費預貯金事件)などを読んでもらい、それをもとにして、報告者、司会者などを決めて、討論をおこないたいとおもいます。その際には、ひとつの事件においては、複数のこたえ(最高裁の多数意見と反対意見、あるいは、最高裁判決と下級審判決)が成立しうることを「理解」することが重要となるでしょう。なお、希望する判決や事件などがあれば、それに差し替えることもあります(第6回-第15回)。自分が関心を持った学説や判決をとりあげて、さまざまな見解をふまえたレポートを書くという作業をおこないます(第13回-第15回)。
 ③細かいことは、皆さんの意向を踏まえたうえで決定したいと思います。なるべく「身のまわりから」少しずつ司法制度や最近の立法例、憲法裁判を考えるということを重視したいと思います。たとえば、何かと話題の(?)裁判員制度について「自分で」調べてみるというのもいいでしょうし、最近の新しい立法動向(以前の演習では、臓器移植法や安楽死、体外受精や代理懐胎【代理母】、夫婦別姓にかんする問題などを検討したことがあります。)について報告してみるのもいいでしょう。
 ④ときどきは、実力試しに、「公務員試験の問題」のいくつかを解いてみるというのも、よいと思います。
 ⑤いずれにしても、レクチャーというものを「一方的に」聞くというような講義とは異なる、演習というものの雰囲気を、ほんの少しでもいいので、感じてくれるとありがたいと思います。報告の仕方、人数等についても、相談のうえで、決めていきたいと思います。場合によっては、複数名で、グループを作って、報告をしてもらうかもしれません。
 ⑥最後に、希望ですが、憲法の教科書、(わたしの憲法の)シラバスなどを見て、研究テーマをある程度決めておいてください。皆さんの関心があるテーマを聞くことを、ちょっと楽しみにしています。