Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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心理学特殊講義 II 冲永 荘八
選択  2単位
【心理】 12-1-1310-0126-07A

1. 授業の内容(Course Description)
 この授業では心についての哲学上の問題について扱う。哲学上の問題とは、自然科学的な問題とは区別される。例えば、特定の光の刺激に対して脳のどの部分が興奮するのか、またはある精神的な疾患がどのようにすれば治療できるか、という問いは自然科学的である。それらへの答えを実証する有意味なデータが存在するからである。しかしなぜ脳の特定の部分の興奮が、見えるという感覚を引き起こすのか、さらにはなぜ脳がこの意識を存在させるのか、という問いは哲学的である。それらに答えるためのデータがないからである。しかし心はこうした哲学的な問いに常にさらされている。さらに、心は確実に存在すると思われる一方で、それを見ることも確かめることもできない。これは心の哲学的な問題の典型でもある。春期ではこうした心の哲学上の主な問題を紹介する。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 心の哲学的な基本問題を解説した、わかりやすい日本語テキストを用いながら授業を進める。そのテキストを精確に読み、内容を理解し、何が問題なのかを把握する力を養うという、極めてオーソドックスことが目標である。これはスポーツで言えばランニングのような基礎トレーニングの積み重ねであり、どんな学問をするにしても必要不可欠なものである。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 期末に試験またはレポートを課す。出席は基本的に毎回とる。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 プリントにて配布する。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 授業は理解しにくい部分もあるかもしれない。しかし可能な限りかみ砕いて話をするので、根気よく、粘り強く受講して頂きたい。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 配布されたプリントは授業で読むので、家であらかじめ熟読し、わからない言葉などを調べておくこと。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 心の哲学は、心の科学とどう違うのか。
【第2回】
 心の哲学の基本問題についての概観。クオリア問題、自我存在、自由意志、他我問題と独我論、心身問題など。
【第3回】
 意識状態は脳状態に還元されるか。還元論における、論点先取の問題。
【第4回】
 物質としての脳から、なぜ物質とは異質の意識なるものが生じるのか。意識の難問。
【第5回】
 なぜこの脳の中に私がいるのか。意識の超難問。
【第6回】
 心は因果性に支配されるか。因果は存在しないとするヒュームの学説を参照。
【第7回】
 ヒュームにおける、因果の存在証明の不可能性について。
【第8回】
 因果は便宜的説明として成り立てばよい。同様に、知は役立てばよく、根拠づけられる必要はない。
【第9回】
 自由意志は存在するか。決定論が含む問題点について。
【第10回】
 サールにおける、唯物論的立場をとりつつ、自由意志の意味を認める立場の検討。
【第11回】
 リベットの実験。意志より脳活動が先行する、という実験結果と、その問題点。
【第12回】
 選択的自由と実存的自由との相違。非意志的な自由という矛盾的状況について。
【第13回】
 物質と精神は実在か、それともすでに実在から抽象された概念か。
【第14回】
 ベルクソンの精神と記憶。既成の概念枠で捉えられない何かとしての位置づけ。
【第15回】
 自我は実在か、概念か。ベルクソンの自我論とその問題。