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授業の内容(Course Description) |
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この授業では心についての哲学上の問題について扱う。哲学上の問題とは、自然科学的な問題とは区別される。例えば、特定の光の刺激に対して脳のどの部分が興奮するのか、またはある精神的な疾患がどのようにすれば治療できるか、という問いは自然科学的である。それらへの答えを実証する有意味なデータが存在するからである。しかしなぜ脳の特定の部分の興奮が、見えるという感覚を引き起こすのか、さらにはなぜ脳がこの意識を存在させるのか、という問いは哲学的である。それらに答えるためのデータがないからである。しかし心はこうした哲学的な問いに常にさらされている。さらに、心は確実に存在すると思われる一方で、それを見ることも確かめることもできない。これは心の哲学的な問題の典型でもある。春期ではこうした心の哲学上の主な問題を紹介する。
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2. |
授業の到達目標(Course Objectives) |
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心の哲学的な基本問題を解説した、わかりやすい日本語テキストを用いながら授業を進める。そのテキストを精確に読み、内容を理解し、何が問題なのかを把握する力を養うという、極めてオーソドックスことが目標である。これはスポーツで言えばランニングのような基礎トレーニングの積み重ねであり、どんな学問をするにしても必要不可欠なものである。
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3. |
成績評価方法(Grading Policy) |
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期末に試験またはレポートを課す。出席は基本的に毎回とる。
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テキスト・参考文献(Textbooks) |
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プリントにて配布する。
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授業時間外の学習《準備学習》(Assignments) |
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授業は理解しにくい部分もあるかもしれない。しかし可能な限りかみ砕いて話をするので、根気よく、粘り強く受講して頂きたい。
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学生への要望・その他(Class Requirements) |
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配布されたプリントは授業で読むので、家であらかじめ熟読し、わからない言葉などを調べておくこと。
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授業の計画(Course Syllabus) |
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【第1回】 心の哲学は、心の科学とどう違うのか。 【第2回】 心の哲学の基本問題についての概観。クオリア問題、自我存在、自由意志、他我問題と独我論、心身問題など。 【第3回】 意識状態は脳状態に還元されるか。還元論における、論点先取の問題。 【第4回】 物質としての脳から、なぜ物質とは異質の意識なるものが生じるのか。意識の難問。 【第5回】 なぜこの脳の中に私がいるのか。意識の超難問。 【第6回】 心は因果性に支配されるか。因果は存在しないとするヒュームの学説を参照。 【第7回】 ヒュームにおける、因果の存在証明の不可能性について。 【第8回】 因果は便宜的説明として成り立てばよい。同様に、知は役立てばよく、根拠づけられる必要はない。 【第9回】 自由意志は存在するか。決定論が含む問題点について。 【第10回】 サールにおける、唯物論的立場をとりつつ、自由意志の意味を認める立場の検討。 【第11回】 リベットの実験。意志より脳活動が先行する、という実験結果と、その問題点。 【第12回】 選択的自由と実存的自由との相違。非意志的な自由という矛盾的状況について。 【第13回】 物質と精神は実在か、それともすでに実在から抽象された概念か。 【第14回】 ベルクソンの精神と記憶。既成の概念枠で捉えられない何かとしての位置づけ。 【第15回】 自我は実在か、概念か。ベルクソンの自我論とその問題。
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