1. |
授業の内容(Course Description) |
|
西洋文明における、「芸術と数学の調和」について講義と演習を行います。 西洋文明(あるいは、正確な言い換えではありませんが、ヨーロッパ文化)は、大きく分けて3つの大河によって形成されています。1つはギリシャ文化の流れ、2つ目にユダヤ・キリスト教文化の流れ、そして最後に民衆文化の流れ、の3つです。ヨーロッパのことを本当に理解し体験しようと思ったら、どの1つも欠くことはできません。なぜなら、それぞれが、人類史の中で、ヨーロッパにおいて初めて生じたことだからです。けれども、時間の制約があるので、今年度はギリシャ文化のとりわけ「数学(=数学語)」に焦点を当て、それを芸術との調和の観点からお話しします。 ギリシャ語に、kalokagathia(カロカガティアー)という単語があります。これは、kalos(=美しい)と、agathos(=善い)という2つの単語の合成語です。それは古代ギリシャ人が生き生きと体験していた、知性を通して美的に経験される外的宇宙と、感性を通して経験され崇高な精神を予感させる内的宇宙との調和を表したコトバです。ギリシャ人にとっては、<人間>と<星>は、1つのものだったのです。 リクツだけ言っても分かりにくいので、授業では、数学の具体的な問題を解きながら、「知性を通して美的に経験される外的宇宙」を体験してもらいます。秋学期のテーマとしては、「微分積分学」を選びました。これは19世紀にコーシーやリーマンによって打ち立てられた数学におけるエベレストの1つです。問題を解くことで、その美しく壮大な風景を眺めてください。そこから吹いてくるすばらしい風に吹かれてみてください。また、「感性を通して経験され崇高な精神を予感させる内的宇宙」に関しては、シェイクスピア(1564~1616)の"The Phoenix and Turtle"を、注釈付きの原文と西脇順三郎の「名演奏」で鑑賞します。10億円のダイヤモンドは普通は買えませんが、このシェイクスピアの詩は、1行1行が1億円相当の宝石です。それを「無料で」皆さんにお渡しします。まばゆいばかりに深い色をたたえたルビーのキラメキを、どうぞお楽しみに!(シェイクスピアからの引用:"Number there in love was slain."「愛には数の観念は殺されていた」西脇訳) 大切なことは、美と善を、歌と道徳を、数学と芸術を、哲学と音楽を、ユーモアと誠実さを、調和をもって体験することです。 予備知識は前提としません。まあ、普通に数が数えられれば充分です。 この講義は、ニーチェ風に言いますと、あらゆる人―ただし、私語を慎み集中して聴くあらゆる人―に向けて、同時に誰のためでもなく、分かりやすくお話しします。
|
2. |
授業の到達目標(Course Objectives) |
|
1.努力した受講者全員が、合格点を取ること。 2.シェイクスピアの詩のもっている、英語の音の美しさと、そこに表現された思考の美しさに触れ、自分のものにすること。具体的には、詩の何行かを暗記すること。 3.授業で練習した数学のやさしい問題を、自分ひとりでも解けるようにすること。
|
3. |
成績評価方法(Grading Policy) |
|
やさしい期末テスト
|
4. |
テキスト・参考文献(Textbooks) |
|
テキストは、プリントを配布します。
|
5. |
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments) |
|
1.前の授業で解説したシェイクスピアの詩を、よく音読しておくこと。 2.前の授業で練習した数学の問題を、自分一人で解けるようにしておくこと。
|
6. |
学生への要望・その他(Class Requirements) |
|
1.授業中の私語を控え、授業に集中してください。(これが最も大切です) 2.遅刻はしないで、早めに着席すること。(これも同じくらい大切です) 3.私が話しをしているときは、その前は横切らずほかの所を通ってください。(「赤い糸」が途切れてしまうから) 4.第1回目の授業が最も大切ですから、第1回目の授業には必ず出席してください。
|
7. |
授業の計画(Course Syllabus) |
|
【第1回】 イントロダクション 【第2回】 (文学)シェイクスピア・その1:(数学)「集合論」と、<数>の全体像を見渡すことー<複素数>の発明と、その計算練習 【第3回】 (文学)シェイクスピア・その2:(数学)<方程式>の知恵の輪を解く―<n次方程式(1≦n≦4)>の解の公式 【第4回】 (文学)シェイクスピア・その3:(数学)<一般n次方程式(n≧5)>はなぜ自由にならないのか?―ガロア理論 【第5回】 (文学)シェイクスピア・その4:(数学)<一般n次方程式>は、複素数の世界では、全く自由であるということ―代数学の基本定理 【第6回】 (文学)シェイクスピア・その5:(数学)「解析学/微分積分学」の始まり―「最大値・最小値問題」へのチャレンジ、1)解き方その1 2)解き方その2 【第7回】 振り返りの中間チェック 【第8回】 (文学)シェイクスピア・その6:(数学)<接線>の新しい活用法―<微分係数>と<導関数>の発明 【第9回】 (文学)シェイクスピア・その7:(数学)導関数を活用して、関数の性質を調べる技術―<極値>と、<変曲点> 【第10回】 (文学)シェイクスピア・その8:(数学)<微分>の様々なテクニック―1)「積の微分」 2)「合成関数の微分」 【第11回】 (文学)シェイクスピア・その9:(数学)3つの関数の出会い―<多項式関数>と<3角関数>と<指数関数>、および<テーラー展開> 【第12回】 (文学)シェイクスピア・その10:(数学)積分その1―面積と体積の求め方、「幾何学」と「代数学」を、「解析学」が結び付けるということ 【第13回】 (文学)シェイクスピア・その11:(数学)積分その2―面積と体積の求め方、「幾何学」と「代数学」を、「解析学」が結び付けるということ 【第14回】 芸術と数学の調和関数について―シェイクスピアと、「解析学」の未来像(微分方程式の世界、そして岡潔の多変数 複素関数論の世界など)を眺めながら 【第15回】 まとめと期末小テスト
|