Web Syllabus(講義概要)

平成24年度

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日本経済史 I 佐藤 光宣
教職  2単位
【教職】 12-2-2120-0258-17A

1. 授業の内容(Course Description)
 経済史は歴史学の枢要な一分野を構成し、科学と技術、政治、宗教、教育、法律および軍事などに関する歴史的考察を含む文化史と緊密に連関するが、言うまでもなく経済学と決定的な関係を有する。経済史は、人類史の始期から現在へと引き継がれてきた悠久な生活史の文化的体系のなかの経済的局面を、実証可能な客観的史実のもとに研究対象とするからである。したがって本授業は、少なくともこれらの諸分野に広く視野を開こうと欲する学生諸君にとって、一定の学問的関心をもって取り組みうる授業科目と言うべきであろう。
 本授業の実質的部分は、アメリカにおける制度派経済学の創始者であるソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)の制度の概念を俯瞰し、その累積的因果関係の原理と独自な文化の発展段階説を検討することから開始する。ヴェブレンの制度すなわち文化の発展段階説は、有閑階級の生成と発展とを究明してゆく際の歴史の舞台であるばかりでなく、日本経済の歴史を考究するうえでも極めて有益であろうと考えられるからである。それゆえ、本授業に若干の特色を敢えて自ら求めようとすれば、それは制度主義(Institutionalism)の見地に基づく日本経済史の初歩的考察を含む点に存するであろう。
 このような趣旨と見地とに基づいて、春学期のみならず秋学期を含めた授業の全体像の理解にとって基礎的で最重要と思われる論題なり項目なりを精選のうえ、それらを実質的授業への足掛かりに据えて簡潔平易に授業を展開する。授業は一旦、原始共同体時代に遡る。その後順次、人間生活の経済的局面を近世そして近代の入り口を目指して理論的に跡付けるべく進展する。かくして、春期授業において私は、日本経済の歴史を制度の累積的変化の過程として先入観を極力排除しながら描き、もってこれを批判的に概観することを授業の内容とする。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 本授業において私は、資本主義という金銭文化段階(pecuniary stages of culture)において極めて不安定な様相を呈する昨今の経済社会の性質と機能について、先入観を排除しながら歴史的思索を重ねることを通じて一定の批判能力を養うことを授業の基本的な到達目標とする。
 我々が日々生活するこの経済社会を漠々たる樹海に見立てうるならば、無秩序な金銭的競争(pecuniary emulation)がもたらす混迷から一筋の光明を見出そうと知的格闘を厭わぬ学生諸君の手中には、鋭利なカミソリではなく、それを可能とする強靱なナタが握られてしかるべきであろう。そのナタの素材と形状とを自由な思索を経て鍛えあげる知的営為そのものは、本授業のさらなる教育目標に他ならない。この趣旨から、敢えて授業の到達目標に細目を掲げることはしない。このように授業の到達目標は単位の取得のみにあるのではなく、その到達目標が新たな到達目標を自ら見出し解決へと向かわしめるような、発展の契機を含む本質的なものへの具体的・現実的接近を授業では目指す。これこそが、真に授業の到達目標となりうる。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 春学期期末試験(最終授業時間内に実施)、学習到達度調査小テスト(実施日未定)、およびこれらの試験結果に平常点を加えて評価を決する。また、正当な理由なくして追試験等は実施できない。なお、レポートによる救済措置は予定していない。詳細は次の通りである。
 (1)この授業の評価は、春学期期末試験(70%)、学習到達度調査小テスト(15%)、および平常点(15%)により総合的になされる。但し、この基準は授業の進行状況によって若干変更することがある。
 (2)授業に顔を出すだけの学生は授業の到達目標までの過程に自ら関与しない以上、単位取得は困難である。授業の開始前と終了後に毎回行う出欠調査は、出席点の機械的算定のために行うのではない。選択科目たる本授業への出席は学生の権利であり、その権利の行使がいかに主体的に行われるかが重要である。権利の行使には責任が伴うのである。学生には積極的な勉学の姿勢が強く求められるのであって、かかる姿勢が見受けられた時にのみ出席を実質あるものとして認め、これを平常点として積極的に評価する。この趣旨において出席調査は厳格に行われる。よって、出席するに値する授業を私は心掛けねばならない。
 (3)平常点は、授業時の質疑応答の態様および予習復習の達成度等によって積算する。授業の要点は、毎回、これを聞き逃してはならない。まずもって授業を虚心坦懐に聞き、その内容をノートに記さなければならないのである。また、ノートの内容は自ら更新を重ねていかねばならない。その際、思考の過程が、いわば知的成長記録として記されているのが良い。このような手順と平行して、授業の要点が各自で分析され、これを総合するために数多の書籍に向き合う知的熱意が求められる。もとより、授業の内容と形式は担当教員の能力と人間性に制約されるであろうから、この限界を突破すべく学生は発展の契機をまずは授業から得るべきである。ここから先が「自分流」を発揮すべき自学自習の領域となるが、そこに至る第一歩は生き生きとして授業に加わろうとする姿勢そのものに存する。平常点は、そのような意味での「自分流」の姿勢が学生に見出せた時にこそ付与される。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 テキストは使用しない。参考書類は、それらすべての購入を義務づけるものではない。私自身が用意した教材を、日本経済史の一般的なテキストに替えて、授業開始時にほぼ毎回配布する。テキストの替わりに使用する教材は、授業を全体として見渡した結果に基づいて選ばれる。学生諸君は帝京大学メディアライブラリーセンターに日参し、日本経済史についての知識を深めることを期待する。なお、授業で取り上げる書籍の内容は多岐にわたり、その数は少なくない。
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 総合基礎教育科目の「経済史Ⅰ・Ⅱ」と「経済学Ⅰ・Ⅱ」とを履修し、それらの内容を良く理解していることが望ましい。そのことが、「日本経済史Ⅰ」の授業理解を容易にするであろう。また、歴史について深く真摯な関心を持つことは、授業の準備として何より幸いである。併せて、哲学や心理学にも学問的関心を持って、それらの関係書物を渉猟してもらいたい。
 また、新聞各紙の経済面を重点的に欠かさず読み通し、これを要約すること。同時に、日々の経済生活に関心を持つよう心掛けること。これらのことは、経済事象にかかわる正確な知識を自ら広く求め、現行の金銭文化とその構成要素間の相互作用を深く理解する必要を、学生諸君に知らしめるであろう。また、このような準備学習は、日本経済史以外の諸分野についても多方面から総合的な思索を重ねるべき必要性を、学生諸君に得心させるであろう。学生諸君は授業本体を離れて、かかる準備学習の過程を通じて日本経済の歴史のみならず、より幅広い歴史、哲学および心理学などで構成される体系的教養の涵養に向かってゆくことであろう。また、そのように努めてもらいたい。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 言うまでもなく、この「日本経済史Ⅰ」は通年で内容的に完結する選択必須科目のうちの春期充当科目であるけれども、「日本経済史Ⅱ」(秋期)の履修を強制するものではない。また、事情の如何によっては、「日本経済史Ⅱ」を単独で受講することができる。さらに、「日本経済史Ⅱ」を履修後、「日本経済史Ⅰ」の単位取得に向かう事例も皆無ではなかろう。けれども、こうした科目選択あるいは学習パターンは推奨できるものではない。本学のカリキュラム編成と指導要領は全体を展望したうえで出来ており、またこの授業科目は学生諸君が学問を発展させてゆくための基礎的支援を一貫して行うものだからである。
 日本経済の歴史を理解することは、先人が歩み築いてきた経験と知識および文化に対して尊敬の念を深めるに違いない。学生諸君は授業に臨んでは、歴史的および経済学的なものの考え方を押し進めるような気持ちで聴講し、読み書きすることを望む。授業時間内とそれ以外の時間を充てて行うべき日々の勉学は、この授業が学生諸君に対して最も欲するところである。そのことが結局、学生生活を実りあるものにする一助となる、と確信するからである。人生で何か望むことがあるとするならば、そのために努力しなければならない。
 学生諸君は、日本経済史の理解に有用な理論的、実証的および政策的課題の自発的研究に向かって欲しい。そうすることによって、学生諸君は現代の経済問題に関して批判的に理解するようになるはずである。そこで初めて、各自がそれらについての建設的意見を自家薬籠中のものとしうるであろう。この授業が、日本経済の果たしてきた歴史的重要性、日本経済の累積的変化および現代の世界におけるその位置づけを、学生諸君が自ら学ぶ手助けの契機となることを願う次第である。
 なお、毎回の授業に際して学生諸君は勉学のための秩序を乱すことのないよう、まず要望する。また、一貫した知的環境のなかで授業が進展するよう、併せて要望する。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 授業の課題と日本経済史の研究方法
 ―シラバスの解説を中心として―
【第2回】
 経済の歴史と経済学の歴史
 ―「経済学の三部門」をめぐって―
【第3回】
 ソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)の所説 ①『有閑階級の理論』
 ―制度とその累積的因果関係の原理―
【第4回】
 ソースタイン・ヴェブレンの所説 ②進化論的経済学
 ―文化の発展段階説と日本経済の歴史―
【第5回】
 原始共同体時代とその生活史
 ―共同体の共有財産としての技術知識―
【第6回】
 所有権制度の発生と資本主義経済社会
 ―掠奪的思考習慣とその展開―
【第7回】
 縄文生活とその交流のネットワーク
 ―縄文人たちによる交易とその範囲―
【第8回】
 弥生時代と戦争の始期
 ―稲作と戦争の文化―
【第9回】
 日本列島における稲作の本格的開始
 ―稲作の生産性とその経済的効果―
【第10回】
 律令国家の経済構造
 ―大土木工事の展開と農業―
【第11回】
 荘園制度とその崩壊
 ―貴族と武士の経済生活―
【第12回】
 中世社会と産業の発展
 ―商品経済の発達と貨幣需要の増大―
【第13回】
 貨幣経済の興隆
 ―平清盛の経済政策と中国銭―
【第14回】
 武士の貴族化と鎌倉政権の経済政策
 ―金融制度の発達―
【第15回】
 春期試験
 ―複数の設問(4題)のある論述式問題―