Web Syllabus(講義概要)

平成25年度

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西洋文明論 II 小山 郁夫
選択  2単位
【外国語】 13-1-1410-0225-12

1. 授業の内容(Course Description)
 世界史的に見て、西洋文明あるいはヨーロッパ文化において固有のかつ普遍性をもった「美の世界」のいくつかを取り上げ、講義します。
 具体的には、
  1)「教育芸術としてのシュタイナー教育学」
  2)「モーツアルトの音楽」
  3)「数学と微分積分学」
の3つの分野を取り上げ、これらを「芸術と自己教育」の観点からタテにつなげて、お話します。
 ヨーロッパでは、固有の「教育」および「教育学」が誕生したといわれますが、それはなぜでしょうか?ヨーロッパ人の考えでは、教育を受けるのは「集団」ではなく、「個人(das Individuum)」です。そして「個」は、古典ギリシャにおいて史上初めて生まれました。たとえば、アジア圏では「家」あるいは「共同体」が優先される社会的傾向がありますが、ヨーロッパでは「個」が強く尊重されます。「美輪明宏」と「William Shakespeare」という2つの名前を比べてみると、日本名は家族名が先に来て、英語名では個人名が先に来ることから、アジア圏ではヨーロッパほど「個」の意識が展開していないことが分ります。
 ヨーロッパ的にいうと、教育を受けるのは「個」であって、「集団」ではありません。そこにヨーロッパ的な「教育」の特徴があります。ギリシャ、中世、ルネッサンス、近代、を経てこれが「シュタイナー教育」に結実しています。シュタイナー教育の特色を一言でいうと、「芸術と自己教育の融合」です。
 次に、「モーツアルトの音楽」。
 ヨーロッパ中世では、「音楽」は「数論」「幾何学」「天文学」と並ぶ高等学問の1つでした。なぜ「音楽」が学問=自己教育の1つだったのでしょうか?それは、当時の人たちが、次のように考えていたからです。「音楽」の中には宇宙の神秘が内蔵されている。そして、それを聞きまた瞑想することにより宇宙と個としての人間が互いに共鳴し合い、一体化する。このとき、宇宙の秩序が人間の中にダイレクトに注ぎ込まれるのだ、と。シュタイナー教育的にいいますと、「音楽」は、「感情」の側面からの自己教育です。モーツアルトは、そうした音楽の頂点に立つ教育芸術といえます。
 次に、「数学」。
 学生から「数学は好きなんですが、できません」「数学はこりごりです」、という話しをよく聞きます。なぜなんでしょうか?1つの原因は、あえて申し上げますと、教え方に問題があったと思います。いうまでもなく「数」は、水や空気と同様、ヨーロッパに限らず世界中に浸透しています。どんな民族も「1、2、3」までの数は使用しているといわれています。カラスもそのぐらいは数えられます。また、全てのヨーロッパ語は、名詞の単数形と複数形の区別をもっています(私の知る限り)。Without water or numbers, man could not live. 水や「数」が無ければ、現代人は生きていけない、といえるんじゃないでしょうか?その日常生活に欠かせない「数」を精密に扱う「数学」が、なぜこれほど嫌われているのでしょうか?
 数学の本質は、宇宙の法則に身をゆだねるところにあります。怒らないで聞いて下さい、「我」の強い人には数学は門を閉ざします。そして数学の出発は、「驚き」です。たとえば、3の「3乗と」、4の「3乗」と、5の「3乗」を全て足してみましょう。するとその結果がある数の「3乗」になっているんです!なぜ驚きがあるかというと、「数」の中にやはり広大な宇宙が内蔵されているからです。数学の問題に取り組むということは、手のひらにそっと星のかけらをのせ、宇宙の彼方からそれをしみじみと眺めてみるようなものです。シュタイナー教育的にいいますと、数学を学ぶということは、感情から自分を「独立(孤立ではない)」させ、思考の力で自分自身を成長させていくことです。「分からないな・・・」というところに、あなたを成長させる秘密の扉があり、それを自力で少しずつ開けてみると、無限の彼方から鳥のさえずりと共に光が差し込んで来ます。
 「美」を円の中心に置き、あなたがあなたの先生になります。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 1.授業に出て努力した受講者全員が、合格点を取ること。
 2.モーツアルトの音楽から1つ好きな曲ができること。
 3.授業で扱った数学の問題が一人で解けるようになること。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 やさしい期末テスト
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
 テキストはすべて、プリントを配布します。
 参考書:
 1.シュタイナー『一般人間学』(イザラ書房)
 2.バルト『モーツアルト』(新教出版社)
 3.モレ『神モーツァルトと小鳥たちの世界』(東京書籍)
 4.小林秀雄・岡潔『人間の建設』(新潮文庫)
 5.レイコフ/ヌーニェス『数学の認知科学』(丸善)
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 1.授業にコンスタントに出られるような体調作りをすること。
 2.練習問題の予習復習をすること。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 ・プレセミナーとセミナーのメンバーは、この授業をなるべくとるようにして下さい。
 1.授業中の私語を控え、集中して聴いてください。(これが最も大切です)
 2.遅刻はしないで、早めに着席すること。(これも同じくらい大切です)
 3.私が話しをしているときは、その前は横切らずほかの所を通ってください。(「赤い糸」が途切れてしまうから)
 4.第1回目の授業が最も大切ですから、第1回目の授業には必ず出席してください。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】
 イントロダクション(最も大切なことを講義するので、必ず出席してください)
【第2回】
 1-1.人間の3つの成長段階―「nosce te ipsum(汝自身を知れ)」
【第3回】
 1-2.思考と感情と意志の形成―どうしたら、英単語が覚えられるのか 
【第4回】
 1-3.「12感覚の理論」―赤ちゃんをどのように育てるか 
【第5回】
 1-4.大学生のための心理学 
【第6回】
 2-1.(1)モーツアルトの生き方と、音楽語/音楽理論 (2)「ピアノ・ソナタ 11番 イ長調 K331.第1楽章アンダンテ・グラツィオーソの主題と6つの変奏曲:ピアノ ダニエル・バレンボイム:14分6秒」を聴く
【第7回】
 2-2.(1)モーツアルトを語るマルセル・モレに耳を傾ける(和訳とフランス語原文) (2)「フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K299.第1楽章アレグロ:フルート ジャン・ピエ-ル・ランパル:10分37秒」を聴く
【第8回】
 2-3.(1)モーツアルトを語るカール・バルトに耳を傾ける(和訳とドイツ語原文) (2)「Eine Kleine Nachtmusik ト長調 K525 セレナーデ 13番 第1楽章アレグロ:指揮者 ブルーノ・ヴァルター:4分6秒」「クラリネット五重奏曲 イ長調 K581 第1楽章アレグロ:クラリネット アルフレート・プリンツ:9分30秒」 を聴く
【第9回】
 2-4.(1)モーツアルトの手紙を読む(和訳とドイツ語原文) (2)「ピアノ協奏曲 23番 イ長調 K488 第3楽章アレグロ・アッサイ:ピアノ ダニエル・バレンボイム:8分11秒」を聴く
【第10回】
 2-5.(1)モーツアルトの本質を語る試み、なぜモーツアルトはシェイクスピアと同様全ての人に愛されるのか (2)「シンフォニー41番 ハ長調 K551 第1楽章アレグロ:指揮者 カール・ベーム (ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団):7分38秒」を聴く
【第11回】
 3-1.<集合>の話し:ヨーロッパ人によるヨーロッパ文化の欠点を補う試み
【第12回】
 3-2.<関数>の話し:「共通なもの」をもつことの新しい喜び
【第13回】
 3-3.<導関数>の話し:「割り算」の神秘の扉を通ることにより、自分を超越する試み
【第14回】
 3-4.<合成関数の微分法則>の話し:人と人が交わり伝え合い、本当に新しいものが生まれるということ
【第15回】
 まとめと期末小テスト