Web Syllabus(講義概要)

平成25年度

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外国史 I 柿沼 陽平
選択  2単位
【教育】 13-1-1340-3482-15A

1. 授業の内容(Course Description)
 人と人が何かを交わすという意味での広義の交換(communication)は、太古よりつづく人類の営為のひとつである。人びとは言葉を取り交わし、こころをくみ交わすのであり、それによって社会というものが形成される。それゆえ、ある時代・地域の歴史を解明しようとするばあいには、そこに存在する個別具体的な交換のあり方を検討せねばならない。このような歴史の見方を「コミュニケーション・ヒストリー」とよぶ。
 では、このような観点から中国古代史をみると、一体どのような歴史像がみえてくるであろうか。本講義では、このように最先端の歴史学的手法の一つである「コミュニケーション・ヒストリー」を駆使し、新しい中国古代史像を模索する。とくに殷周時代から魏晋南北朝時代までの通史を扱い、貨幣・爵位・家族・任侠等の時代を彩る要素について検討する。ちなみに本講義では、ヴィジュアルな授業を心がけ、中国古代の遺跡や遺物の写真を数多く紹介する。また経済学・文化人類学・社会学の成果を隨時援用する。これらを通じて学生の皆さんには、中国古代通史を学習するのみならず、ものごとを多角的に考察する目も養ってもらいたい。
 なお前期はおもに殷周時代から前漢時代中期までを扱い、後期はおもに前漢後期から魏晋南北朝までを扱う。できれば前期・後期の講義を両方受講することが望ましいが、どちらか一方のみを受講しても内容が理解できるように配慮するつもりである。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
・「コミュニケーション・ヒストリー」の基本的な考え方を理解する。
・中国古代史の概略を理解する。
・殷周時代・秦漢時代・魏晋南北朝時代それぞれの時代的特質を理解する。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
・平常点30%(出席率、授業中の態度等)。
・試験70%(授業中に説明する基本的用語について、穴埋め問題や論述問題を課す)。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
松丸道雄等編『中国史』(山川出版社、1996年)
西嶋定生『秦漢帝国 : 中国古代帝国の興亡』(講談社, 1997年)
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
授業で説明した内容の理解に努める。授業中に紹介した論文・書籍を適宜読む。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
私語厳禁。まじめな学生を歓迎します。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
第1回:オリエンテーション(本講義の目的と概要)
本講義の目的と概要について説明する。またコミュニケーション・ヒストリーの基本的な考え方を説明する。

第2回:伝説の夏王朝と謎の殷王朝
前回に続いて、コミュニケーション・ヒストリーの基本的な考え方を再確認した上で、伝説の夏王朝から検討を始める。つぎに、鄭州商城・偃師商城・二里崗遺跡等に関する基本的知見を紹介し、最後に、殷代甲骨文・殷代金文について解説する。

第3回:殷王朝の基本構造
当時の自然環境を概観した上で、甲骨文よりみた殷王朝の基本構造を説明する。とくに家族構造・人間関係・対外関係を中心的に検討し、当時のコミュニケーションのあり方をみてゆく。

第4回:殷周革命と周王朝
殷周革命の実態に関する諸説を紹介した上で、殷王朝と周王朝の違いを説明する。つぎに、周代研究でもっとも重要となる金文とその読み方を説明し、代表的な青銅器を紹介する。その上で、封建制等を媒介とした周王朝固有のコミュニケーションのあり方について検討する。

第5回:殷周宝貝文化と貨幣誕生の「記憶」
殷周時代に通底するコミュニケーション・メディアたる宝貝について検討する。宝貝とは巻貝の一種で、一般にアジア最古の貨幣とされるが、その通説を批判し、「生命と再生のシンボル」であったことを論じる。

第6回:春秋五覇と霸者体制
春秋時代のコミュニケーションについて概観する。春秋五霸を軸とする政治的交流関係のほか、当時の家族制度、封建制度、さらには「袂を分かつ」習俗や、贈与交換の習俗、爵位制度などに言及し、当時の多様なコミュニケーションのあり方を説明する。

第7回:戦国七雄とその社会
戦国時代のコミュニケーションについて概観する。戦国七雄を軸とする新しい政治的交流関係のほか、当時の家族制度、封建制度、爵位制度、さらには市場原理の成長に言及する。それらを通して、当時の多様なコミュニケーションのあり方を説明する。

第8回:合従連衡と秦の強大化
戦国諸国間の外交状況を確認する。

第9回:秦の始皇帝
秦の始皇帝を「残虐」とみる『史記』以来の通説や、始皇帝の出生譚等を紹介した上で、改めて出土文字資料をふまえて再検討する。その上で、戦国末期のコミュニケーションのあり方について論じる。

第10回:秦帝国と漢帝国
始皇帝が死ぬと、再び世は乱れ、群雄が出現した。そして最終的には項羽と劉邦が対立し、劉邦の勝利に終わった。かくて漢王朝が出現した。このいわゆる秦末漢初の歴史については、近年出土文字資料が急増した結果、非常に多くのことが明らかになっている。その最先端の研究内容を紹介する。

第11回:前漢帝国の成立
前漢高祖の死後、その妻である呂后が実権を握る。この当時の歴史的状況について、近年の出土文字資料をふまえ、丁寧に説明する。

第12回:秦漢帝国の任侠的秩序
前漢時代の「任侠」について説明する。「任侠」とは、いわゆる現代的なヤクザとは異なる特殊な人間関係をさす。そのありようを説明する。

第13回:前漢前半期の国家と家族
戦国秦漢時代の国家と家族の関係について説明する。

第14回:前漢前半期の爵位制度
前漢時代にはおもに四つのコミュニケーション原理が存在した。家族・爵位・任侠・貨幣である。前回までの授業内容をふまえ、これら四原理について包括的に説明する。

第15回:まとめ・試験