Web Syllabus(講義概要)

平成25年度

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イギリス文化論 I 郷 健治
選択  2単位
【教育】 13-1-1410-0204-15A

1. 授業の内容(Course Description)
 今年1月のアルジェリアのサハラ砂漠の果て地イナメナスにおける天然ガス施設襲撃・人質事件は、世界中を震撼させた大事件でした。10名もの日本人が犠牲となったこの理不尽なテロ事件はなぜ起きたのでしょうか?実行犯であるアルカイダ系のイスラム武装勢力とはいったい何者なのでしょうか?アメリカにおける「9・11同時多発テロ事件」を理解することなしに、我々はもはや現代世界を理解することはできないのですが、9・11テロ事件の背景を理解するためには、イギリスを筆頭とするヨーロッパ諸国(そして、日本)が多くの非ヨーロッパ諸国を植民地化し、帝国主義に走った過去の時代、そして、その旧植民地が独立した後の「ポストコロニアル(Postcolonial)」な現代の理解が不可欠です。
 春学期の『イギリス文化論』は、こうしたポストコロニアルな我々の世界を理解する重要なカギとなり、英米文学研究で近年注目されている、Postcolonialism(ポストコロニアル批評=植民地主義や帝国主義の文化的遺産・影響を扱った文芸作品を対象とする批評理論)の入門コースです。
 イギリスが「大英帝国」として世界中に植民地を有する「日の沈まない国」だった過去のコロニアリズム(植民地主義、植民地支配)と帝国主義を反映するイギリスの2つの重要な文芸作品(シェイクスピアの戯曲『テンペスト』とE.M.フォースターの小説『インドへの道』)および、その映画を取り上げ、ポストコロニアルな視点からこの2つの文芸作品のテクストとその映画化された作品を考察することにより、コロニアリズムとポストコロニアリズムについて学びます。
 コロニアリズムの言説においては、しばしば植民地支配を受ける側が「黒い肌」のレイピスト(rapist)として表象され、非白人のレイピストがヨーロッパの白人女性を凌辱する、というイメージが登場します。このような植民地主義的なステレオタイプ(固定観念)を代表するもっとも早い例が(ポストコロニアル批評のキー・テクストである)『テンペスト』のキャリバンです。このレイプのイメージにより、支配者であるヨーロッパ人は、自分たちは被植民者・植民地の「文明化」の義務を担っているのだ、と植民地支配を正当化できるわけですが、この非白人男性による白人女性のレイプのイメージがフォースターの『インドへの道』においてもカギになっている事実に注目します。
2.
授業の到達目標(Course Objectives)
 シェイクスピアの『テンペスト』とE.M.フォースターの『インドへの道』の原作とその映画化された作品を読み・観賞し、はたして、原作と映画が植民地支配に賛成しているのか反対しているのか?ヨーロッパと非ヨーロッパ、白人と非白人、植民者と被植民者、支配者と被支配者、<自己>と<他者>、といった二項対立を解体する、というポストコロニアルな視点からこの2つの作品を読み解くことができるかどうかを考察します。
 シェイクスピアの戯曲『テンペスト』とE.M.フォースターの小説『インドへの道』の原作は、翻訳で読んでもらいますが、授業中に、重要な個所の英語の原文をコピーして配布し、解説しますので、シェイクスピアとフォースターの原文テクストの味読・考察も行います。
3.
成績評価方法(Grading Policy)
 期末テスト。
4.
テキスト・参考文献(Textbooks)
1.ウィリアム・シェイクスピア『テンペスト』(松岡和子訳、ちくま文庫)
2.E.M.フォースター『インドへの道』(瀬尾 裕訳、ちくま文庫)
5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)
 シェイクスピアの戯曲『テンペスト』とE.M.フォースターの小説『インドへの道』の原作2冊を各自翻訳で読んでもらいます。英文学作品の翻訳をじっくり読むいいチャンスです。
6.
学生への要望・その他(Class Requirements)
 授業にはほぼ毎回出席していないとついてこれないと思います。
 秋学期の『イギリス文化論』は内容がガラッと変わり、毎週、イギリスBBCの最新のテレビニュースから注目すべきニュースを選び、視聴して、現代英国社会と文化、そして、イギリスの旧植民地諸国のポストコロニアルな現状を学びます。
7.
授業の計画(Course Syllabus)
【第1回】 
 今学期の授業内容の説明
【第2回】 
 コロニアリズムと帝国主義について
【第3回】・【第4回】 
 ポストコロニアリズムについて
【第5回】・【第6回】 
 映画版『テンペスト』鑑賞と考察
【第7回】~【第9回】 
 シェイクスピアの原作『テンペスト』を読む
【第10回】・【第11回】
 映画版『インドへの道』(原題:A Passage to India。1984年英米合作映画。デヴィッド・リーン監督。アカデミー(助演女優・作曲)賞受賞作品。)鑑賞と考察
【第12回】~【第14回】
 フォースターの原作『インドへの道』を読む
【第15回】
 まとめ