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授業の内容(Course Description) |
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人と人が何かを交わすという意味での広義の交換(communication)は、太古よりつづく人類の営為のひとつである。人びとは言葉を取り交わし、こころをくみ交わすのであり、それによって社会というものが形成される。それゆえ、ある時代・地域の歴史を解明しようとするばあいには、そこに存在する個別具体的な交換のあり方を検討せねばならない。このような歴史の見方を「コミュニケーション・ヒストリー」とよぶ。 では、このような観点から中国古代史をみると、一体どのような歴史像がみえてくるであろうか。本講義では、このように最先端の歴史学的手法の一つである「コミュニケーション・ヒストリー」を駆使し、新しい中国古代史像を模索する。とくに殷周時代から魏晋南北朝時代までの通史を扱い、貨幣・爵位・家族・任侠等の時代を彩る要素について検討する。ちなみに本講義では、ヴィジュアルな授業を心がけ、中国古代の遺跡や遺物の写真を数多く紹介する。また経済学・文化人類学・社会学の成果を隨時援用する。これらを通じて学生の皆さんには、中国古代通史を学習するのみならず、ものごとを多角的に考察する目も養ってもらいたい。 なお前期はおもに殷周時代から前漢時代中期までを扱い、後期はおもに前漢後期から魏晋南北朝までを扱う。できれば前期・後期の講義を両方受講することが望ましいが、どちらか一方のみを受講しても内容が理解できるように配慮するつもりである。
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授業の到達目標(Course Objectives) |
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・「コミュニケーション・ヒストリー」の基本的な考え方を理解する。 ・中国古代史の概略を理解する。 ・殷周時代・秦漢時代・魏晋南北朝時代それぞれの時代的特質を理解する。
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成績評価方法(Grading Policy) |
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・平常点30%(出席率、授業中の態度等)。 ・試験70%(授業中に説明する基本的用語について、穴埋め問題や論述問題を課す)。
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テキスト・参考文献(Textbooks) |
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松丸道雄等編『中国史』(山川出版社、1996年) 西嶋定生『秦漢帝国 : 中国古代帝国の興亡』(講談社, 1997年)
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授業時間外の学習《準備学習》(Assignments) |
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授業で説明した内容の理解に努める。授業中に紹介した論文・書籍を適宜読む。
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学生への要望・その他(Class Requirements) |
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私語厳禁。まじめな学生を歓迎します。
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授業の計画(Course Syllabus) |
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第1回:オリエンテーション(本講義の目的と概要) 本講義の目的と概要について説明する。またコミュニケーション・ヒストリーの基本的な考え方を説明する。 第2回:前漢武帝の対外遠征と諸政策 前漢成立以来、前漢は北方の匈奴の侵攻に悩まされていた。この前漢と匈奴との対立を説明する。その上で、前漢武帝が匈奴遠征を行い、前漢最大の版図を築くに至った過程について論じる。そしてその一方で、そのような遠征を支えた当時の内政政策に言及する。 第3回:前漢後半期の政治状況 武帝の死後も、なお前漢王朝は続いた。その時の政治状況について、外戚の動向をふまえながら説明する。 第4回:王莽の改革 前漢末に権力を握った王莽は、次々と新しい政策を打ち出す。だがその後、王莽は帝位を簒奪するのに一旦は成功したものの、彼の政権は長続きしなかった。ではそこには一体いかなる理由があったのか。この点について、当時のコミュニケーションのあり方をふまえつつ検討する。 第5回:漢代辺境社会における日常社会 前漢・後漢の地域社会の一つである「居延」を例とし、出土文字資料を駆使して、当時の民と屯田兵の日常生活を描く。その過程で、当時の人々の日常的なコミュニケーションのあり方を説明する。 第6回:後漢時代 後漢時代を概観する。後漢時代には、前漢時代同様に、おもに四つのコミュニケーション原理が存在した。家族・爵位・任侠・貨幣である。ただしそれらには、前漢時代とは異なる特徴もあった。前期の授業内容を紹介しつつ、この点について論じる。
第7回:反逆の西羌 後漢時代は西方異民族の「西羌」に長らく悩まされてきた。西羌は後漢とは異なる経済的・政治的・家族的構造を有しており、独特のコミュニケーション・システムを構成していた。そのことについて論じる。 第8回:三国時代①―群雄割拠の時代 小説『三国志演義』や、それを参考にした映画「レッドクリフ」は、本来後漢末より始まる三国時代を描いたものとして著名であるが、創作部分を多く含む。今回はその大まかな歴史を史料に即して説明する。 第9回:三国時代②―曹魏政権 曹魏は、黄河流域の中原地帯を支配した三国一の大国である。その実態について検討する。とくに漢代の爵制・貨幣・家族・任侠がどのように変質したのかを中心に議論する。
第10回:三国時代③―蜀漢政権 蜀漢は、現在の四川省周辺を基盤とする小国で、従来は君主劉備や軍師諸葛亮といった人々のもとで善政が布いたと理解されてきた。だが実際に史料をよくみると、蜀漢の実態を「素晴らしい国」と断ずることには疑問も残る。このことを詳細に議論する。また漢代の爵制・貨幣・家族・任侠がどのように変質したのかを中心に議論する。 第11回:三国時代④―孫呉政権 孫呉は、現在の長江中下流域を支配した国である。その実態については従来不明な点が多かった。だが今世紀に入り、「走馬楼呉簡」という名前の出土文字資料が公開され、一挙に孫呉政権のことがわかるようになってきた。このような研究の最前線を紹介する。
第12回:晉王朝と八王の乱 三国統一をはたした司馬一族は晉王朝を建国する。それが八王の乱によって滅亡するまでの過程について論じる。 第13回:魏晋貴族制研究の現状 これまでに論じてきた後漢末・魏晉時代は一般に貴族制の時代、もしくはその前哨とされる。では「貴族」とは一体何者か。戦後中国史学最大の論点の一つともなった「貴族制」に関する諸論点を紹介するとともに、現在の研究状況について説明する。
第14回:魏晉時代のコミュニケーション 魏晉時代の時代的特質を「貴族制社会」としてではなく、「コミュニケーション・ヒストリー」の一部として理解しなおす。とくに当時の爵制・貨幣・家族間人間関係・非家族間関係について説明し、漢代社会との相違点について議論する。
第15回:まとめ まとめをする。
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