Web Syllabus(講義概要)

平成26年度

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余暇論 倉品 康夫
選択必修  2単位
【観光経営】 14-1-1501-1734-03

1. 授業の内容(Course Description)

 余暇・生涯スポーツと現代の抱える課題を理解する
 行動目標(つけたい力):
 「デフレ脱出はインフレに誘導するような大胆な政策を実行すること」と威勢はよいが、実は誰の目にもかつての高度成長やバブルは再来しないことは明らかなのです。
 米国の市民は疲弊の臨界域に達していると思われます。米国ではダウンシフターという「MOTTAINAI」を信仰するヒトが増えてはいるそうです。しかし、この「勿体無い」は江戸時代人のモラルでした。江戸時代は一日四時間労働で、兎に角、260年間平和でした。
 江戸時代の余暇にあった「文化」「社会との因果関係性」「社会及び家族連帯関係性」は社会資本でした。これらが「貨幣」の代わりに流通して、別に経済成長もしませんでしたが、内需でお金が廻っていました。
 余暇文化という江戸時代にあったソーシャルキャピタル(社会関連資本)は、現在の日本が抱える閉塞感デフレ下り坂経済下の課題解決のためにも「通貨」になると考えます。
 今の日本経済の処方には「休む力」「仕事をサボる力」「暇を盗む力」「二週間家族で旅をする」等の余暇享受能力が求められています。早い話が、血みどろの努力をして働いて余計なブランド品を買ってTDLやリゾートに行くだけの人生は絶対に救われないということです。
 将来、人々のレジャーに関わるビジネスパーソンとして、自分自身の超自分流オリジナルの余暇生活を持つこと、高度な楽しむ力(余暇享受能力)が求められます。自分自身の余暇享受能力の高さは、この業界人で、高い能力を発揮している高業績者の行動特性(コア・コンピテンシー)でもあります。本来はすべての国民が義務教育のレベルで余暇教育を受けるべきと考えます。皆さんも余暇教育のあり方についても検討してください。
 以上の内容を《クリティカル・シンキング》【建設的批評critical thinking以下クリシン】をモットーに進めます。

2.
授業の到達目標(Course Objectives)

 Ⅰ 余暇・生涯スポーツと現代の社会
 ①目標:余暇・生涯スポーツと現代の抱える課題を理解する
 ②行動目標(つけたい力):現在の日本が抱えるデフレ経済下の課題解決のために余暇の必要性を理解することができる。弱肉強食社会にコミットしない生き方を選択できる。
 Ⅱ 現代社会における余暇・生涯スポーツの機能とは
 ①目標:余暇・生涯スポーツの機能について理解する
 ②行動目標(つけたい力):
 日常的に余暇・生涯スポーツの時間を持つことができる。
 一人で自分と向き合う時間が持つことができる。
 家族の余暇・生涯スポーツを持つ意義が説明できる。
 地域の仲間と行事等をする意義が理解できる。
 Ⅲ 現代社会において自分の余暇・生涯スポーツを選び取る
 ①目標:自分にあった余暇・生涯スポーツを追求する
 ②行動目標(つけたい力):メディアの意図に左右されず、自分にあった多様な余暇・生涯スポーツを選び取ることができる。
 損得や何かのために行動するのではなく、自分のやるべきこと、やりたいことをやり、その行為を楽しむことができる。
 Ⅳ 日本の自然と余暇・生涯スポーツ
 ①目標:余暇・生涯スポーツを通して日本の国土、風土を愛する心を養う
 ②行動目標(つけたい力):
 四季を通じて日本の自然を楽しむことができる。
 国土保全、農業の必要性と余暇・生涯スポーツ活動の関連について理解することができる。
 自然災害等の際、仲間、家族、自分の命を守ることを想定できる。
 環境に配慮して責任をもって行動することができる。
 欧米の哲学では地球環境問題は解決しません。
 「草木国土悉皆成仏」(植物も動物も、山や川、海といった国土をも含めて共に生きる)態度を考えることができる。
 Ⅴ 余暇教育を考える
 ①目標:余暇教育によってすべての国民が損得や何かのために行動するのではなく、自分のやるべきこと、やりたいことをやり、その行為を楽しめることができる。
 ②行動目標(つけたい力):
 余暇享受能力の構成・構造ついて述べることができる
 余暇享受能力の必要性について説明できる。
 余暇教育のカリキュラムを考える。
 その他のつけたい力
 ①「生のエネルギー」を情報産業(メディア)に吸い取られない建設的批判思考
 ②メディアの提供する「癒し物語」に心の迷いの背後から無関連に潜入されない主体的ライフスタイル
 ③心の影の部分を共有する居酒屋的友人ではなく、心身の成長が期待できるスポーツ公共圏「新しい公共」の中での友人獲得
 ④『牛後』や《万骨》を募る「夢をあきらめない」トップアスリート《功成った一将・巨大サル山ボス》やメディア(トップアスリート代理人)の常套句を疑い、小さいながらも自分のスポーツ社交資本(小スポーツ猿山)を持ち『鶏口』となってスポーツを発信し、仲間(セーフティネット)を作れる
 ⑤スポーツの文化としてのお金で買えない価値を尊重して、心から楽しめる
 ⑥プロスポーツから夢や勇気を貰わず、贔屓チームの活躍に一喜一憂して自らの生を仮託せず(福田和也、2006)、個人的・固有な「欲望」の実現としてスポーツを主体的に実施できる。
 ⑦依存症的な余暇(パチンコ・風俗・遊園地等)からは遠ざかることができる。
 ⑧真実(まこと)がない心の表象にすぎない虚妄の世界において、苦しみ、悩み、悲しみと向かいあう、もう一人の自分とむきあう一人の時間をもつことができる。
 ⑨手をかえ品をかえて要らないものまで買わせ、消費(蕩尽)させようとするステータス競争にまきこまれない。
 ⑩米国流「グローバリゼーション」の後の人間らしい文化的な生活を共有する社会のしくみを構想することができる。

3.
成績評価方法(Grading Policy)

 リアクションペーパーにおける毎時間の行動目標に対する達成度及び関心・意欲・態度を評価します。
 試験、レポート、平常点等の成績を総合して最終的に評価します。
 GPA的100点満点評価。RP記入に基づいて4段階で評価し、この累積15回の講義として、4×15回は60点(60%)になります。その他の40点(40%)は発言とレポートですが、問題解決型能力・特性を評価します。

4.
テキスト・参考文献(Textbooks)

 参考文献
 ジュリエット・B、ショア(2011)『浪費するアメリカ人』岩波文庫
 稲垣正浩(2001)『スポーツ文化の脱構築』叢文社
 松下竜一(1985)『潮風の町』講談社
 森田浩之(2009)『メディアスポーツ解体―"見えない権力"をあぶり出す』NHKブックス
 ミヒャエル・エンデ(1976)『モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語』岩波書店
 道田泰司、秋月りす(1999)『クリティカル進化(シンカー)論―「OL進化論」で学ぶ思考の技法』北大路書房:京都
 鴨長明『方丈記』上述「余暇論」サイトからダウンロードする。
 (余暇に関する古典・グレートブックス.WEBの読書可)
 [ SupplementaryMaterials ]
 薗田碩哉(2009)『余暇の論理』叢文社(最新の余暇を考える手立て)
 福田和也(2006)『大丈夫な日本』文芸春秋(他人に自己実現を投げない生き方としての余暇)
 野村浩也(2005)『無意識の植民地主義―日本人の米軍基地と沖縄人』御茶の水書房(モノカルチャー沖縄観光への提案)
 上村愛子(2008)『スキーがうまくなるカラダのつくり方』実業之日本社(女性に適した身体の研ぎ澄まし方)
 松下竜一(1985)『潮風の町』(講談社文庫)(余暇の機能について示唆に富んだ作品)
 戸部良一(1991)『失敗の本質』中央公論社(戦争を選んだ「空気」の研究)

5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)

 【事前学習】事前に参考図書等の短い要約を作ることが求められます。それを前提にすすめてまいります。
 次の授業で、シェアリングをいたします。
 【事後学習】ノートおよび授業中に配布された資料を基に、授業内容をふりかえる。次回の授業において質問ができること。常に《今思っている感想》、《意見》、《質問》等の前述「クリシン」が求められます。

6.
学生への要望・その他(Class Requirements)

 ブラックなチェーンで飲み会をすることとは。正しい飲み会とは。正しいBBQとは。等について検討します。

7.
授業の計画(Course Syllabus)

【第1回】
 「長時間労働という生産性の低さ」:エンデ『モモ』の時間泥棒の正体とは。(ラットレース:rat race)とは
 時間泥棒はどこに住んでいるか。余暇における病理への対応。堆積する不幸な余暇。学生がブラックな居酒屋で飲むという不自然さ。
【第2回】
 最高の家族旅行・最低の家族旅行:沖縄北端の民宿-自然の中の大不自然リゾートから人と自然の観光へ-正体不明の「南の島」というステレオタイプ(思い込み)からの解放。
【第3回】
 余暇的メディアリテラシー-民族の祭典(プロスポーツ)の世話にならない、夢を貰わない人生-
 東京オリンピックのあり方-お祭り騒ぎではいけない- 
 新しい「見る」スポーツとスポーツ・メディアリテラシー教育
 嘉納治五郎「見世物体育」《ひいきチームの活躍に自らの生を仮託して勇気や感動を貰うライフスタイル》から《日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画して内面の充実に取り組み、自らの生を主体的に楽しむスポーツ文化探求生活》への転換・部活スポーツ批判《隠された中世》出家アスリート至上の「小乗」スポーツを脱構築して、スポーツを「大乗化」してノーマライズする。
【第4回】
 余暇と空間(自閉症と遠くを見る余暇空間、白球を追う 西を拝む 夕日を拝むリゾート)
 『潮風の町』から考える。彼岸の西日を拝む習慣。お彼岸ということ。
【第5回】
 余暇の享受能力(余暇の構成要素から余暇力について考える)仕事をサボれる力、「俺がいないと...」という仕事の囲い込みが万病の元、脱モノカルチャー、脱混雑、脱渋滞、脱集中、脱過疎、「穴場情報」という形容矛盾。
【第6回】
 3.11と余暇《自然・農林水産の恵みに感謝できる生活》江戸時代の余暇生活の検討(江戸時代礼賛を疑いつつ、デイライトセイビング・陰暦と二十四節季)
【第7回】
 『方丈記』を読む-危機における余暇的生活-平安末期・鎌倉初期とそっくりの現代。
【第8回】
 余暇と《サバイバル・防災・リスクマネジメント》自助力 日常にサバイバルを取り入れる。
【第9回】
 余暇と依存 国破れて街道にパチンコ屋乱立-東北の復興のお金の集金装置としてのパチンコ-
レジャーと依存を考える。レジャーとエイズ。
【第10回】
 余暇と地域コミュニティの再創造-「寄らば大樹」の終焉:NPO・コミュニティビジネス・ソーシャルビジネス-余暇とジェンダー(金曜日に機嫌がいい母・家族サービスという言葉)公共圏(社会を揺り動かす余暇とは)、コミュニティービジネスと余暇
【第11回】
 余暇と健康(身体は自然の一部。身体の持続可能性・生涯発達と余暇 アフタースポーツの機能(スポーツ婚活)スポーツの後の語らいがあってスポーツは完結する。
【第12回】
 余暇と日本の伝統(日本のクレオール主義-謡の稽古-)
【第13回】
 余暇教育を考える。中学二年のカリキュラムとして。
【第14回】
 試験
【第15回】
 まとめ及び補遺・余暇をふりかえる