1. |
授業の内容(Course Description) |
|
世界の歴史の中でヨーロッパ文化の成り立ちを見たとき、そこでしか生まれていない、固有のかつ普遍性をもったいつくかの現象があります。その1つがヨーロッパ文化特有の「美の世界」です。それを3つの角度から講義します。 具体的には、 1)「教育芸術としてのシュタイナー教育学」 2)「モーツアルトの音楽」 3)「数学」 の各分野を取り上げ、これらを「芸術と自己教育」の観点からタテにつなげて、お話します。 さてまず始めに、ヨーロッパでは、固有の「教育」および「教育学」が誕生したといわれますが、それはなぜでしょうか?ヨーロッパ人の考えでは、教育を受けるのは「集団」ではなく、本質的に「個人(das Individuum)」です。そして本格的な「個」は、古典ギリシャにおいて史上初めて生まれました。たとえば、アジア圏では「家」あるいは「共同体」が優先される社会的傾向がありますが、ヨーロッパでは「個」が強く尊重されます。「鈴木まこと」と「Michael Brown」という2つの名前を比較した場合、日本名は家族名が先に来て、英語名では個人名が先に来ることから、アジア圏ではヨーロッパほど「個」の意識が展開していないことが分ります。 ヨーロッパ的にいうと、教育を受けるのは「個」であって、「集団」ではありません。そこにヨーロッパ的な「教育」の特徴があります。ギリシャ、中世、ルネッサンス、近代、を経てこれが「シュタイナー教育」に結実しています。シュタイナー教育の特色を一言でいうと、「芸術と自己教育の融合」です。 次に、「モーツアルトの音楽」。 ヨーロッパ中世では、「音楽」は「数論」「幾何学」「天文学」と並ぶ高等学問の1つでした。なぜ「音楽」が学問=自己教育の1つだったのでしょうか?それは、当時の人たちが、次のように考えていたからです。「音楽」の中には宇宙の神秘が内蔵されている。そして、それを聞きまた瞑想することにより宇宙と個としての人間が互いに共鳴し合い、一体化する。このとき、宇宙の秩序が人間の中にダイレクトに注ぎ込まれるのだ、と。シュタイナー教育的にいいますと、「音楽」は、「感情/感性」の側面からの自己教育です。モーツアルトは、そうした音楽の頂点に立つ教育芸術といえます。 次に、「数学」。 学生から、「数学は好きなんですが、できません」、「数学はこりごりです」、という話しをよく聞きます。なぜでしょうか?1つの原因は、あえて申し上げますと、教え方に問題があったと思います。いうまでもなく「数」は、水や空気と同様、ヨーロッパに限らず世界中に浸透しています。どんな民族も「1、2、3」までの数は使用しているといわれています。カラスもそのぐらいは数えられます。また、全てのヨーロッパ語は、名詞の単数形と複数形の区別をもっています(私の知る限り)。Without water or numbers, man could not live. 水や「数」が無ければ、現代人は生きていけない、といえるんじゃないでしょうか?その日常生活に欠かせない「数」を精密に扱う「数学」が、なぜこれほど嫌われているのでしょうか? 数学の本質は、宇宙の法則に身をゆだねるところにあります。怒らないで聞いて下さい、「我」の強い人には数学は門を閉ざします。そして数学の出発は、「驚き/das Staunen」です。たとえば、3の「3乗と」、4の「3乗」と、5の「3乗」を全て足してみましょう。するとその結果がある数の「3乗」になっているんです!なぜ驚きがあるかというと、「数」の中にやはり広大な宇宙が内蔵されているからです。数学の問題に取り組むということは、手のひらへ静かに星のかけらをのせ、宇宙の彼方からそれをしみじみと眺めてみるようなものです。シュタイナー教育的にいいますと、数学を学ぶということは、感情から自分を「独立(孤立ではない)」させつつ同時それと調和し、意志と思考の力で自分自身を成長させていくことです。「どうもよく分からないな...」というところに、あなたを成長させる秘密の扉があり、それを教師の助けを得つつ自力で少しずつ開けてみると、無限の彼方からモーツアルトの音楽のような鳥のさえずりと共に、あなたを強化する光が差し込んで来ます。そのことを、この講義でリアルに体験してください。
|
2. |
授業の到達目標(Course Objectives) |
|
1.授業に出て努力した受講者全員が、合格点を取ること。 2.自己教育の観点と、一人で学ぶ習慣を得ること。 3.授業で扱った数学の問題が一人で解けるようになること。
|
3. |
成績評価方法(Grading Policy) |
|
最後の授業に行う期末テスト
|
4. |
テキスト・参考文献(Textbooks) |
|
テキストは開講時に提示します。 参考書: 1.シュタイナー『一般人間学』(イザラ書房) 2.バルト『モーツアルト』(新教出版社) 3.モレ『神モーツァルトと小鳥たちの世界』(東京書籍) 4.小林秀雄・岡潔『人間の建設』(新潮文庫) 5.矢野健太郎『エレガントな解答』(ちくま学芸文庫)
|
5. |
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments) |
|
1.授業にコンスタントに出られるような体調作りをすること。 2.練習問題の予習復習をすること。
|
6. |
学生への要望・その他(Class Requirements) |
|
1.授業中の私語を控え、集中して聴いてください。(これが最も大切です) 2.遅刻はしないで、早めに着席すること。(これも同じくらい大切です) 3.私が話しをしているときは、その前は横切らずほかの所を通ってください。(「赤い糸」が途切れてしまうから) 4.第1回目の授業が最も大切ですから、第1回目の授業には必ず出席してください。
|
7. |
授業の計画(Course Syllabus) |
|
【第1回】 イントロダクションと、初回レポートの提出(このレポートは、この時間内にのみ提出可)。最も大切なことを講義するので、受講を希望する人は必ず出席してください。 【第2回】 初めての「人間学」と、人間の3部構造論―人間の3つの成長段階を中心に 【第3回】 思考と感情と意志の形成―どうしたら、英単語が覚えられるのか(次回以降も引き続き、シュタイナー教育の観点から授業を進めていきます) 【第4回】 (1)モーツアルトを語る小林秀雄と、マルセル・モレに耳を傾ける(和訳とフランス語原文) (2)「フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K299.第1楽章アレグロ:10分37秒(フルートの演奏者は、ジャン・ピエ-ル・ランパル)」を聴き、レポートを書く(次回以降も、「音楽」の観点も取り入れながら授業を進めていきます) 【第5回】 ユークリッド幾何学と、射影幾何学―物質体と「エーテル体」の話し(この回及び次回以降の全ての授業に、30センチの定規を持参すること) 【第6回】 ユークリッドによる、ピタゴラスの定理の証明―運動感覚と、平衡感覚の体験 【第7回】 パップスの定理―射影幾何学の体験と、「無限」の実体験 【第8回】 射影と切断 【第9回】 デザルグの定理 【第10回】 双対原理 【第11回】 完全4点形と、完全4線形 【第12回】 調和点列 【第13回】 6点定理、および射影平面と射影座標 【第14回】 パスカルの定理と、3次曲線の微分幾何学 【第15回】 まとめと期末テスト(この回も、30センチの定規を持参すること)
|