Web Syllabus(講義概要)

平成26年度

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日本の財政 I 古市 将人
選択  2単位
【観光経営】 14-1-1110-1939-35A

1. 授業の内容(Course Description)

 あるAさんが貴方に次のような質問をしたとしよう。「この道路・橋をつくる時の税金を君は払っていない。だって、その時君は生まれていなかった。だから、君はこの道路・橋を通ることが許されない」。この議論に答えるためには、サービスと負担の関係について考える必要がある。
 コンビニなどで150円の価格を持つジュース1本を買うことは、「150円」と「ジュース1本」が対応関係にあることを意味している。つまり、ジュース2本が欲しければ、300円をお店に支払わなければならない。買い逃げ、食い逃げは違法である。Aさんの上記の質問は、通常の取引における「買い逃げ、食い逃げ」を念頭に置いているのが分かるだろう。さて、生まれる前に作られた施設を私たちが利用することは、何を意味しているのだろうか。
 私たちが日々享受している公共サービスの世界には、ジュースとお金の関係が必ずしも当てはまらない。例えば、あるBさんが、「私は、隣のCさんよりも、20倍税金を納めている。だから、Cさんの20倍の公共サービスを受け取るべきだ。または、私の子どもはCさんの子どもの20倍の教育サービスを受けるべきだ」と発言したとしよう。おそらく、多くの人はこの発言に違和感を覚えるであろう。実際、公共サービスの世界においてBさんの論理は成立しない。
 結論から言えば、支払った税金の額と個別の公共サービス量は一対一の対応関係をもっていないのだ。しかし、公共サービスの財源は税金ではないのか、という疑問が生まれてくるだろう。この問題に答えるためには、政府が毎年度作成する「予算」について、学ばなければならない。
 政府は税金を財源に公共サービスを私たちに供給する。よく私たちは、サービスから得られる「嬉しさ」とその負担について議論をする。しかし、公共サービスに関する「嬉しさ」と「負担」の関係に目を向けると、日常生活の延長線上として考えることができない事例を発見できるであろう。
 政府サービスを賄うお金の徴収と分配の実態を明らかにし、社会の秩序安定を図る政府の活動を分析する学問のことを財政学という。本講義では、この財政学という視点から、日本財政を理解するのに必要な制度・理論・歴史から現状の財政問題にわたる幅広いテーマを扱う。

2.
授業の到達目標(Course Objectives)

 本講義の到達目標は以下の通りである。
 (1)基本的な財政用語を理解し、その意味を説明できる。
 (2)予算の編成過程を理解し、租税と政府サービスの関係を説明できる。
 (3)基本的な社会保障制度の役割を理解し、その意味を予算との関わりで説明できる。
 (4)予算編成の役割と現実の財政運営の関係を制度に則して説明できる。

3.
成績評価方法(Grading Policy)

 基本的に試験の成績で評価するが、以下の加点措置を実施する。
 ・出席回数が規定回数を満たせば加点レポート(最大25点)を提出できる。
 成績評価・試験方法に関する詳細は第1回の授業時に説明するので、可能な限り出席すること。

4.
テキスト・参考文献(Textbooks)

 基本的に毎回の講義において、講義ノート(キーワード等が空欄になっている)を配布する。
 講義に関係する参考文献として、以下の文献を挙げておく。参考文献と講義の内容との関係については、第1回目の講義で説明する。他の参考文献は、講義にて適宜紹介する。
 参考文献
 日本財政の基本的なデータ・制度について知りたい方には、次の文献を推奨する。
 市川 健太 『図説 日本の財政〈平成25年度版〉』東洋経済新報社。
 現代の財政問題を予算論(この言葉の意味は本講義で詳しく解説します)の観点から歴史的に学ぶには、次の文献が適している。本講義では、この文献を主に参照する予定である。
 井手英策『財政赤字の淵源 寛容な社会の条件を考える』有斐閣。

5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)

 取り上げるトピックは豊富なので、配布するプリント・資料を活用して積極的に復習をおこなってほしい。

6.
学生への要望・その他(Class Requirements)

 (1)予備知識ゼロの学生にも理解できるように講義するので、安心して受講してください。
 (2)財政学Ⅱと併せて履修することが望ましい。
 (3)授業に出席して私語をせずに勉強する学生の履修を希望する。

7.
授業の計画(Course Syllabus)

【第1回】
 イントロダクション:講義運営について、財政学とはなにか
【第2回】
 日本の財政の基本的問題
【第3回】
 予算と財政民主主義(1):予算論の基本概念
【第4回】
 予算と財政民主主義(2):日本の予算編成の特徴
【第5回】
 財政民主主義と特別会計
【第6回】
 財政民主主義と財政投融資
【第7回】
 租税の理論入門(1):租税の基本用語について
【第8回】
 租税の理論入門(2):戦後の租税政策と日本の財政
【第9回】
 公債論と公共投資論:公共投資を正当化する論理について
【第10回】
 1990年代の日本の予算編成と人々のニーズ:土建国家論と日本財政
【第11回】
 2000年代の日本の予算編成と人々のニーズ:変化するニーズと硬直化する予算
【第12回】
 これまでの講義内容の復習
 日本財政と社会保障(1):社会全体の負担とニーズの関係、社会保障制度の基本用語について
【第13回】
 日本財政と社会保障(2):生活保護制度と日本財政
【第14回】
 日本財政と社会保障(3):生活保護制度に関する近年の議論
【第15回】
 これまでの講義内容のまとめ
 ※ 進度などの関係で、講義内容は一部変更する場合がある。