Web Syllabus(講義概要)

平成26年度

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レジャー産業論 倉品 康夫
選択必修  2単位
【観光経営】 14-1-1501-1734-02

1. 授業の内容(Course Description)

 【嘉納曰く「野球は見世物体育だ」】
 将来の東京オリンピック開催に向けた嘉納治五郎JOC初代会長の発言(1910『帝国教育』No.332)「怒るかもしれぬが野球は見世物体育だ!九人の選手の体力が増すが他の見物人の体力が増すか」を吟味する必要がある。東京オリンピックをお祭り騒ぎにしてはいけない▲今、スポーツ立国を実現することは「二十一世紀の我が国の発展のために不可欠な重要課題」となり、国民にはスポーツに対するパラダイム(解の求め方)変更が求められている。その変換とは《ひいきチームの活躍に自らの生を仮託して勇気や感動を貰うライフスタイル》から《日常的にスポーツに親しみ、スポーツ三昧(サマディ)の境地を楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画して内面の充実に取り組み、自らの生を主体的に楽しむスポーツ文化探求生活》への転換である。
 ▲今、生涯スポーツ持続態度として次の事が求められる。失敗した市場メカニズム及び景気さえよくなれば大丈夫という妄想にコミットしない▲エコノミストの田村秀男(2009)は「デフレ脱出はインフレに誘導するような大胆な政策を実行すること」と素人は簡単に云うが直感として、閉塞感のど真ん中で(スポーツ)文化や生活スタイルの見直し、失地回復を始めるべき。社会関連資本(ソーシャルキャピタル)としての余暇・スポーツ文化は通貨に通じる、という。この考えからスポーツ・レジャー(余暇)関連産業を論じます▲米国スポーツ商学の権威は説く「子供に何もかも忘れて興じることができるスポーツイベントを与えれば、いじめをする暇」はない▲「君ら人間ときたら、自分の余暇の何たるかを知らない!だが、我々は知っていて、君達の時間をとことんまでしゃぶりつくす」(「灰色の紳士」の言葉)エンデ『モモ』▲この二つの共通点は「大衆は自分の余暇の意義に無知だ。故に我を忘れて興じるスポーツイベントで余暇を善用させよう」という権力的思い込み(イデオロギー)だ▲ここに幸福を求める国民には、グローバリゼーションだからと言って強要される米国スタンダード「合理的に富を占有するシステム」としてのプロスポーツと、その論理に寄り添う「感動トリクルダウン」スポーツメディアに対して距離をおく必要があります。米国由来のスポーツマネジメント論ではなく、レジャー(余暇)、スポーツ関連産業を社会関連資本の通貨ととらえて、うつ状態の日本社会の浮揚を検討します。これは米国流グローバリズムの次にくる人間らしい文化的な生活を支えるスポーツレジャー産業を考えるということです。

2.
授業の到達目標(Course Objectives)

 ①米国市場の失敗を手本としない生涯スポーツマネジメントの追求
 ②レジャー産業人として「生のエネルギー」を文化産業(メディア)に吸い取られない建設的批判思考を持てる。
 ③レジャー産業人としてメディアの提供する「癒し物語」に心の迷いの背後から無関連に潜入されない主体的ライフスタイルを持つことができる。(※これは、春期「余暇論」の越境ですが)
 ④心の影の部分を共有する居酒屋的友人ではなく、心身の成長が期待できるスポーツ公共圏「新しい公共」の中での友人獲得が可能なフィットネス産業のあり方について構想できる。
 ⑤『牛後』や《万骨》を募る「夢をあきらめない」トップアスリート《功成った一将・巨大サル山ボス》やメディア(トップアスリート代理人)の常套句を疑い、小さいながらも自分のスポーツ社交資本(小スポーツ猿山)を持ち『鶏口』となってスポーツを発信し、仲間(セーフティネット)を作るというスポーツ・レジャー産業の枠組を理解できる。
 ⑥レジャー産業人としてスポーツレジャーの文化としてのお金で買えない価値を尊重して、心から楽しめることができる。
 ⑦プロスポーツから夢や勇気を貰わず、贔屓チームの活躍に一喜一憂して自らの生を仮託せず(福田和也、2006)、個人的・固有な「欲望」の実現としてスポーツを主体的に実施できるというスポーツ・レジャー産業の枠組を理解できる。

3.
成績評価方法(Grading Policy)

 リアクションペーパーにおける毎時間の行動目標に対する達成度及び関心・意欲・態度を評価します。
 試験、レポート、平常点等の成績を総合して最終的に評価します。
 GPA的100点満点評価。RP記入に基づいて4段階で評価し、この累積15回の講義として、4×15回は60点(60%)になります。その他の40点(40%)は発言とレポートですが、問題解決型能力・特性を評価します。

4.
テキスト・参考文献(Textbooks)

 テキスト:黒田次郎、倉品康夫ら(2012)『スポーツビジネス概論』叢文社

5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)

 教員と学生の相互作用によってなされ共に成長する授業がモットーです。教師を乗り越えるクリティカルシンキング的答え・質問と出会える枠組みを作ります。【リアクション・ペーパー(以下RPと略す)】の《質問》を尊重します。メールでのやり取りも重視。RPに応じて、授業計画変更あり。最終的にレポート提出。

6.
学生への要望・その他(Class Requirements)

7.
授業の計画(Course Syllabus)

【第1回】・【第2回】
 チャンピオンスポーツは産業か興行か。
  「ナショナルパスタイム(米国・国民的娯楽)」と民族の祭典(ベルリンオリンピック)
  相撲力士と比べた野球選手の当事者能力(主権力・主催力)のなさ
 中心テーマ:レジャー産業と社会のニーズ
  ∴トピック(論題):観光・行楽関連産業(テーマパーク)ステータスグッズとしての観光をやめる。
  テーマパークに勝てるビジネスの特性、持続可能な発展について
  「持続可能な」の視点で、レジャー産業を点検し、その消長を予測して記述する。
【第3回】・【第4回】
 フィットネス産業 ※ヨーガ等の演習含む
  中心テーマ:消費社会と健康・スポーツ「フィットネスクラブビジネスの実際」
  ∴トピック(論題):「寝ながら百科事典を読む練習」ベンチプレス
  若いインストラクターの新陳代謝が激しい生涯スポーツの現場の矛盾、消費される身体
  マメネージメントができる人材が育たない、フィットネスの発展
  スポーツを優勝劣敗から解放するニュースポーツを興す
  スポーツは「夢をあきらめない」勝者が生き残る弱肉強食ピラミッドを作る「他者を合理的に蹴落とす訓練のための、すぐれた文化装置」(稲垣、2001)となっている。
  しかし、オルタナティブ・スポーツの改善課題は「弱肉強食的サバイバル」ではなく前述「国民的連帯とサバイバル」である。この文化装置に近寄らずに、以下の持続可能性を意識した多様な身体文化探求が求められる。
  1)加齢を受け入れる。2)「癒し」のスポーツ3)「自然」と一体化するスポーツ4)「気」エネルギーを覚醒するスポーツによる心身一元論の実践等であるが、その他に、体幹を意識したヨーガ(倉品、2008)、フリーウェイトトレーニング、古武道的動作を取り入れた有酸素運動、自然の中で行う体幹トレーニング(倉品、2009)これらのスポーツの敷衍も市場拡大を意味すると考える。これは、身体という自然の持続可能性の追求とも考えられる。
 急がれるスポーツ実践による社会の枠組変更
  以上、スポーツビジネスのミッション、国家の「生き残り」を賭けた改造「身体及び社会の持続可能性追及」「体力・イベント力・ネットワーク力・自助力を持ち、耐性ある国民の造就」の体制作り着手に時間的猶予はない。なぜなら、旧文明の「現状維持」という選択肢は命脈が尽きつつあるからである。
【第5回】・【第6回】
 マスコミ産業(情報マスメディア)
  学習課題:レジャーとしてのスポーツのテレビ観戦の仕組みについて理解し、メディアリテラシー(情報を見極め、判断する能力、媒体への基本的姿勢)を身につける。
  ∴トピック(論題):見るスポーツを作る新聞社と放送局、嘉納治五郎の見世物スポーツ論
  広告代理店(イベント、興行)のしくみ「夢をあきらめない人たち」「王選手と飯をくったことがある」人にすぎないスポーツ記者
  学習課題:観るスポーツを支える広告代理店について理解し、イベントのプロデュースあるいは運営、コーディネーション(統合力)について学習する。
  ∴トピック(論題):サッカーJリーグの立役者と箱根駅伝を国民的イベントにしたのは同一人物(帝京の表3広告、東京農業大学OBの広告)、さまざまなエージェントの介在、大リーグ中継の漢字の看板、スポーツイベントと経済効果、スポーツを学校から解放する、相撲は江戸時代、能楽と同じ芸能ジャンル、「スポーツの芸能化、アスリートの芸能人化」
  スタジアムビジネス、スポーツの聖地国立競技場、国立代々木競技場
  到達目標:自分の考えるイベントのプロデュースあるいは運営、コーディネーション(統合力)について夢を言語化して形(企画書)にできる。
【第7回】
 ギャンブル産業について
  中心テーマ:ギャンブルの社会貢献
  公営のギャンブル:寄付された浄財の社会貢献について理解し、公営のギャンブルへの基本的判断及び姿勢を身につける。
  パチンコ産業について復興途上の東北被災地の街道沿いに乱立。オリンピック招致のスポンサーの意図は?
【第8回】
 地域を活性化させるレジャー産業
  中心テーマ:リゾート産業としての民宿
  ∴トピック(論題):熱海初島、西湖民宿村、不況をレジャー資源つくりで克服した米国民間国土保全隊の事例
  農業体験という驕り「田植えしか来てくれない」(思い込み) 
  耕作放置された棚田を守る青年の可能性
  地域社会を創るための中間システムの研究
  「よそ者信仰」「よそ者・ばか者・若者」という言葉
  アウトドアビジネスの実際
  「みんなで生き残るシステム」野外活動はビジネスチャンス
  防災・減災・サバイバル・冒険キャンプは楽しく・安全な体験でないと実際の役にたたない。学校ではなく、スポーツ共同体において、専門性を持った指導者のスーパービジョン(参与観察・見守り)で、子どもらは当事者として、ロジスティックス(兵站・裏方)から全ての過程を実践する(倉品ら、2009)。また、冒険キャンプにおける、自分や家族を守るために危機を先駆的に知るイメージ力(想定力)を養うチャレンジは最良の災害時の自助シュミレーションである。
  伝えるべき良質体験を持った指導者による、「環境負荷が大きい物質的な生活」を諦め、「地球環境・社会及び身体の持続可能性」を追求する、野外活動・キャンプ的ライフスタイルの提示が要件となる。生涯スポーツ共同体を災害時の市民「生き残り」システム、として機能させる自治体と補完させる仕組み作り(倉品、2011)も喫緊の課題である。この実現には弱肉強食サバイバルに陥らない「みんなが連帯して生きる(生き残ることができる)」精神的豊かさを選択する社会を希求することが前提となる。
  中心テーマ:オートキャンプ場、山岳(スキー場など)、農林水産体験、マリンリゾートビジネスの実際
  レジャー産業におけるリスクマネジメント
  「自然に対する畏敬の念・正常化の偏見から自由であること」
  個人のリスク(問題)発見能力を高め、全員で何が危険で何が安全なのかを考え、伝える。問題点は、即、その場でプロセスを改善して全員で共有する。
【第9回】
 アウトドア用品(災害対応)・キャンピングカー・RV車
  中心テーマ:スポーツ用品・用具ビジネスの実際
  ∴トピック(論題):スキー産業「神保町の奇跡」、燕三条・江戸時代キセル・近代洋食器・平成アウトドア用品への変遷、釣具、銃砲、自転車、カーニバル的消費スタイル、モノ語り消費者、「手段の目的化」これぞ正に趣味の本質、「民藝」的道具の追求
【第10回】
 部活の代替機能を担うトレーナーとスポーツビジネス
 行政主導から地域主導へ地域の若者を雇用する。
【第11回】・【第12回】
 テキストのレジュメ作成及び発表
【第13回】・【第14回】
 『事業計画書』作成
 斬新なアイデアから再度アイデアを鍛えて、計画性と情熱を練り込む。自分の夢と可能性の具現化をシュミレーションする。これは、一度書いておけばポータブル(移植・移動可能)で使い回しができます。
 大樹に寄る就活レジュメや面接の武器になると考えます。
【第15回】
 まとめ