Web Syllabus(講義概要)

平成26年度

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経済史 II 佐藤 光宣
【Ⅳ】  2単位
【Ⅳ 社会と経済のしくみを学ぶ】 14-2-2120-0258-02

1. 授業の内容(Course Description)

 経済史は、経済現象が歴史的にどのように生起してきたのかを問う学問である。この経済史に関する本授業は、ソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)――『有閑階級の理論』(The Theory of the Leisure Class, 1899)などの著者である異端のアメリカの経済学者――の制度的接近方法に依拠しながら、イギリス、ドイツおよびアメリカにおける経済社会の進化とそれが含む諸問題に関する種々の論題を取り上げる。授業では、帝政ドイツと産業革命の様相と、植民地時代から現在に至るアメリカ経済史の最も重要な諸局面に焦点を当てる。とりわけ、アメリカ経済の歴史に対して大不況が持つ意味合いに留意する。
 なお、この授業は「経済史Ⅰ」の主たる授業内容に立脚して開始される。すなわち、我々はまず、ヴェブレンの基本的見地を再確認しつつ、文化変化の理論への接近として経済生活の歴史的概括をさらに押し進めるのである。こうして本授業は、資本主義経済制度の発展とその変容についての論議をめぐって具体的に展開していく。この過程で資本主義経済制度の概念に次々に規定性が加えられ、かかる制度の限界の究明に向かう。
 それゆえ本授業は、現今の経済社会の実情を歴史的視点から再検討することをもって、その内容とする。

2.
授業の到達目標(Course Objectives)

 本授業において私は学生諸君とともに、資本主義という金銭文化段階(pecuniary stages of culture)において極めて不安定な様相を呈するに至った昨今の経済社会の性質と機能について、先入観を排除しながら歴史的思索を重ねる。このこと自体が授業の到達目標への道標となる。また、この道標に導かれつつ現今の経済社会について批判能力と建設的意見とが養われるであろう。これこそが本授業の到達目標となる。さらに、このような一連の知的経験を通じて、「人間力」醸成の足掛かりを学生諸君は得られるであろう。このことも、授業の到達目標に含まれる。

3.
成績評価方法(Grading Policy)

 秋学期期末試験(最終授業時間内に実施予定)、学習到達度調査小テスト(実施日未定)、およびこれらの試験結果に平常点を加えて評価を決する。また、正当な理由なく追試験等を実施することは制度的にできない。なお、レポートによる救済措置は予定していない。詳細は次の通りである。
 (1)この授業の評価は、秋学期期末試験(70%)、学習到達度調査小テスト(15%)、および平常点(15%)により総合的になされる。但し、この基準は授業の進捗状況によって若干変更することがある。
 (2)授業に顔を出すだけの学生諸君は授業の到達目標までの過程に自ら関与しない以上、単位取得は困難である。授業の開始前と終了後に毎回行う出欠調査は、出席点の機械的算定のために行うのではない。選択科目たる本授業への出席は学生諸君の権利であり、その権利の行使がいかに主体的に行われるかが重要である。権利の行使には責任が伴うのである。学生諸君には積極的な勉学の姿勢が強く求められるのであって、かかる姿勢が見受けられた時にのみ出席を実質あるものとして認め、これを平常点として積極的に評価する。この趣旨において出席調査は厳格に行われる。よって、出席するに値する授業を私は心掛けねばならない。
 (3)平常点は、授業時の質疑応答の態様および予習復習の達成度等によって積算する。授業の要点は、毎回、これを聞き逃してはならない。まずもって授業を虚心坦懐に聞き、その内容をノートに記すこと。また、ノートの内容は自ら更新を重ねていかねばならない。その際、思考の過程が、いわば知的成長記録として順次記されるのが良い。このような手順と平行して、授業の要点が各自で分析され、これを総合するために数多の書籍に向き合う知的熱意が求められる。かくして、自分の意見を形成し、これを明瞭に表明できるようになることが最も望まれる。もとより、授業の内容と形式は担当教員の能力と人間性に制約されるであろうから、この限界を突破すべく学生諸君は発展の契機をまずは授業から得るべきである。ここから先が「自分流」を発揮すべき自学自習の領域となるが、そこに至る第一歩は、実は、生き生きとして授業に加わろうとする姿勢そのものに存する。平常点は、そのような意味での「自分流」の姿勢が学生諸君に見出せた時にこそ付与される。

4.
テキスト・参考文献(Textbooks)

 テキストは使用しない。参考書類は、それらすべての購入を義務づけるものではない。私自身が用意した教材を、経済史の概説書に替えて、授業開始時にほぼ毎回配布する。テキストの替わりに使用する教材は、授業を全体として見渡した見地に基づいて選ばれる。全学生諸君は帝京大学メディアライブラリーセンターに日参し、経済史についての知識を深めることを期待する。なお、参考文献は多岐にわたる。その一端は次の通りである。
 Thorstein Veblen, The Theory of the Leisure Class (New York: The Macmillan Company, 1899).〔小原敬士訳『有閑階級の理論』岩波書店、昭和36年刊〕。Thorstein Veblen, Imperial Germany and the Industrial Revolution (New York: Macmillan, 1915); Fernand Braudel, La dynamique du capitalisme (Paris: Arthaud, 1985).〔金塚貞文訳『歴史入門』中央公論新社、平成21年刊〕。藤瀬浩司著『資本主義世界の成立』ミネルヴァ書房、昭和55年刊〕。Rober Heilbroner & William Milberg, The Making of Economic Society, 12th Edition(New Jersey: Prentice Hall, 2007).〔菅原 歩訳『経済社会の形成』ピアソン桐原、平成21年刊〕。Rondo Cameron; Larry Neal, A Concise Economic History of the World: From Paleolithic Times to the Present(USA: Oxford University Press, 2002).〔ロンド・キャメロン, ラリー・ニール著/速水融訳『概説 世界経済史〈1〉旧石器時代から工業化の始動まで』東洋経済新報社、平成25年刊〕。Rondo Cameron; Larry Neal, A Concise Economic History of the World: From Paleolithic Times to the Present(USA: Oxford University Press, 2002).〔ロンド・キャメロン, ラリー・ニール著/速水融訳『概説 世界経済史〈2〉工業化の展開から現代まで』東洋経済新報社、平成25年刊〕。

5.
授業時間外の学習《準備学習》(Assignments)

 総合基礎教育科目の「経済学Ⅰ」を履修後に「経済学Ⅱ」を引き続いて履修し、それらの内容を的確に理解することが望ましい。また、歴史について深く真摯な関心を持つことは、授業の準備として何より幸いである。
 また、新聞各紙の経済面を重点的に欠かさず読み通し、この要約作業を反復すること。同時に、日々の経済生活に関心を持つよう心掛けること。これらのことは、経済事象にかかわる正確な知識を自ら広く求め、現行の金銭文化とその構成要素間の相互作用を深く理解する必要を、学生諸君に知らしめるであろう。また、このような準備学習は、経済史以外の諸分野についても多方面から総合的な思索を重ねるべき必要性を、学生諸君に得心させるであろう。学生諸君は授業本体を離れて、かかる準備学習の過程を通じて経済の歴史のみならず、より幅広い歴史、哲学および心理学などで構成される体系的教養の涵養に向かっていくことであろう。また、そのように努めてもらいたい。
 なお、授業2単位週90分間の授業については、週180分以上の授業時間以外の学習時間が必要である。本授業も、その例外ではない。

6.
学生への要望・その他(Class Requirements)

 経済生活の歴史を理解することは、先人が歩み築いてきた経験と知識および文化に対して尊敬の念を深めるに違いない。学生諸君は授業に臨んでは、歴史的および経済学的なものの考え方を押し進めるような気持ちで聴講し、読み書きすることを望む。授業の内外を通じて行われるであろう勉学は、この授業が学生諸君に対して最も欲するところである。そのことが結局、学生生活を実りあるものにする一助となる。人生で何か望むことがあるとするならば、そのために努力しなければならない。
 学生諸君は経済史に関する理論、実証および政策の自発的研究に向かって欲しい。そうすることによって、学生諸君は現代の経済問題に関して批判的に理解するようになるはずである。そこで初めて、各自がそれらについての建設的意見を自家薬籠中のものとしうるであろう。この授業が、連綿として続いてきた経済生活の性質と機能、その累積的変化および現代の世界におけるその位置づけを、学生諸君が自ら学ぶ手助けの契機となることを願う次第である。
 なお、毎回の授業に際して学生諸君は勉学のための秩序を乱すことのないよう、まず要望する。また、一貫した知的環境のなかで授業が進展するよう、併せて要望する。

7.
授業の計画(Course Syllabus)

【第1回】
 自己紹介。授業の課題と予定
  ―シラバスの内容の解説―
【第2回】
 経済生活の史的概観
  ―「経済史Ⅰ」の若干の復習―
【第3回】
 経済生活と貨幣の歴史 ①分業と交換
  ―物品貨幣から秤量貨幣へ―
【第4回】
 経済生活と貨幣の歴史 ②貨幣と国家の形成
  ―鋳造貨幣から紙幣へ―
【第5回】
 イギリス産業革命の成立要因
  ―食とその流通支配をめぐって―
【第6回】
 イギリス産業革命前夜とアダム・スミス(Adam Smith)
  ―『道徳情操論』と『諸国民の富』との内面的関係―
【第7回】
 イギリス産業革命とその展開
  ―フィリス・ディーン(Phyllis Deane)の所説に基づいて―
【第8回】
 西洋民主主義諸国家と王朝国家
  ―その経済的性質と命運について―
【第9回】
 ジャン・カルヴァン(Jean Calvin)と宗教改革思想
  ―二重予定説とアメリカ資本主義の興隆―
【第10回】
 アメリカの資本主義 ①
  ―アメリカ移民と「資本主義の精神」の変容―
【第11回】
 アメリカの資本主義 ②
  ―南北戦争から第一次世界大戦まで―
【第12回】
 アメリカの資本主義 ③
  ―独占の運動と金融資本の出現―
【第13回】
 アメリカの資本主義 ④
  ―経済的破局とニューディール、第二次世界大戦後の財政支出―
【第14回】
 現今における経済生活の文化的要因
  ―「金銭的競争」と「効率の意識的撤収」―
【第15回】
 まとめと秋期試験
  ―論述式の解答を要する問題―