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授業の内容(Course Description) |
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「皆さん、この授業では、シェイクスピア(William Shakespeare/1564~1616)の悲劇『マクベス』の前半を読みます。」 こう言いますとあなたの中に、まずこんな疑問が生まれるでしょうね。「なぜ今、本を、しかも400年も前の本を読むんですか、最新の音楽やケータイ小説がいくらでも楽しめるというのに?なぜ今、悲劇なんか読むんですか、こんなに世の中が暗い時に?」。これらの疑問に、まずお答えしましょう。 あるとき学生がこんなふうにいいました、「本が私の教師です」と。聞いてみると、彼女は人生の節目節目で素晴らしい本に出会い、それを読むことで色々な困難を乗り越えて来たそうです。そういうことが実際あるのです。一方、ある年のこの授業で統計を取ってみたところ、100人中3分の1の学生は読書に興味があるが、3分の2は全く興味がない、と結果が出ました。しかし更に聞いてみると、その3分の2の学生は今までほとんど本当の読書をしたことがないとのことでした。体験してみなければ、それがいいかどうかなんて分らないのが当然です。ですから授業ではまず、本の読み方を練習しましょう、特に人間の「心理」の理解の仕方を中心に。「本」からどうやって心の栄養を得るか、実際の人生に活用できる力(持続力、思考力など)をどのように得るか、その具体的な方法を身に付けて下さい。本を読むことで、色々なことが具体的に可能になるのです。 次はどの本を読むのか、の疑問です。 またあるとき別の学生がいいました、「先生、家でできることは授業でやらないでください」と。全部の理はないが、「一理ある」と思いました。では、なぜシェイクスピアを授業で扱うのでしょうか?それは、シェイクスピアはおそろしく濃密だからです。井上ひさしは、「シェイクスピアは海である」といいました。全ての心の栄養分が入っている、ということです。しかしそれは、エッセンシャル・オイルのように水で薄めて使う必要があります。専門家の説明が必要です。そうすればあなたはそこから、おそらく、あなたのどんな「悩み」や「問いかけ」にも応じてくれる「本当の力」を得ることができるでしょう。そして普通作品は、その作者が死ぬと、急速に読まれなくなります。「古く」なり力がなくなるからです。ところがシェイクスピアは、400年後の今も世界のいたるところで、上演され読まれ続けています。それは、シェイクスピアが未だに「新しい」、「効力がある」ことの1つの証明です。「時間」は全ての裁判官ですね。ある詩人が言っています、「別れはすべての存在を語る」と。貴重な時間とお金を使うのですから、出来たら確実に見返りのある本を読みたいものです。 ではなぜ、この暗い時代に「悲劇」なのか? 『マクベス』は、野望に燃えた女と男の、悪夢の実現と破局の物語です。そこには、黒い炎が美しく燃え盛っています。武人マクベスは、「殺す」ことを通じて、自分で考え決断し行動することを身につけました。もちろん、「殺す」ことによって様々な「悲しみ」の雨が地上に降り注ぎました。しかし、「喜び」が人間を強め成長させるように、「悲しみ」でしか強められない人間の深みがあります。音楽に、長調と短調があるのと同じです。悲劇は、悲しみがもたらす人間の心の成長を表現します。本当の希望は、そこから夜明けの光のように生まれてきます。 もうひとつシェイクスピアの素晴らしさは、「ことば」です。人からかけられたことばが人間を「作り」ますが、自分で作り出したことばも自分を形成します。また、何か心にひっかかっていることを「ことば」にできると、心のトラウマが癒される時があります。シェイクスピアのことばは、あなたが強い自分を作り、心の傷を癒すことばを生み出すための、手助けになるでしょう。「戦(いくさ)に勝って負けたとき(When the battle's lost and won)」、「おれにはアーメンといえなかった(I could not say,'Amen')」、「おれのこころはサソリでいっぱいだ(full of scorpions is my mind)」。シェイクスピアの生の声の録音は残っていませんが、シェイクスピアの生の声の響きは聞くことができます。これは「文学」がもたらす1つの奇跡です。ある人いわく「努力が奇跡を生み、奇跡が努力を生む」。文学こそ最強の学問です。 これらすべてを、みんなで体験しましょう。
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授業の到達目標(Course Objectives) |
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1.努力した受講者全員が、合格点を取ること。 2.「コトバ」の力を実感すること。 3.『マクベス』のことを自分の言葉で話せるようになること。
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成績評価方法(Grading Policy) |
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最後の授業で行う期末テスト
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テキスト・参考文献(Textbooks) |
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教科書:①シェイクスピア『マクベス』(小田島雄志訳、白水Uブックス) ②Shakespeare, "Macbeth" (Bantam Classic) (必ず2つともそろえてください) 参考書:1)バフチーン『フランソワラブレーの作品と中世ルネッサンスの民衆文化』(せりか書房) 2)グレーヴィチ『中世文化のカテゴリー』(岩波書店) 3)阿部謹也『ヨーロッパを見る視角』(岩波書店) 4)ブルーノ『英雄的狂気』(東信堂) 5)シュタイナー『メルヘン論』(風の薔薇)
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授業時間外の学習《準備学習》(Assignments) |
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1.『マクベス』を1回は通読すること。 2.毎回少しずつ読みますので、当日の講義の部分は、授業前に読んでおくこと。 3.翻訳で通読した後、黒沢明の『蜘蛛の巣城』を、DVDで見てみること。(これは、メリックに所蔵されています。) 4.参考書の5つの本の中から1つを選び、1つの章だけでもよいので読んでおくように。
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学生への要望・その他(Class Requirements) |
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1.授業中の私語を控え、授業に集中してください。また、教室内でのケータイ使用は禁止です。 (この1.が最も大切です) 2.遅刻はしないで、早めに着席すること。(これも同じくらい大切です) 3.私が話しをしているときは、その前は横切らずほかの所を通ってください。(「赤い糸」が途切れてしまうから) 4.第1回目の授業が最も大切ですから、第1回目の授業には必ず出席してください。 5.授業には続けて出ること(テストのときだけ来るのはいけません)。
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授業の計画(Course Syllabus) |
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【第1回】 イントロダクションと、初回レポートの提出 (このレポートは、この時間内にのみ提出可) 【第2回】 シェイクスピアの生きた時代と作品 【第3回】 『マクベス』1幕1場の、音読と解説 【第4回】 『マクベス』1幕2場の、音読と解説 【第5回】 『マクベス』1幕3場の、音読と解説 【第6回】 シェイクスピアの劇場論 【第7回】 『マクベス』1幕4場の、音読と解説 【第8回】 『マクベス』1幕5場の、音読と解説 【第9回】 『マクベス』1幕6場の、音読と解説 【第10回】 『マクベス』1幕7場の、音読と解説 【第11回】 『マクベス』2幕1場の、音読と解説 【第12回】 『マクベス』2幕2場の、音読と解説 【第13回】 『マクベス』2幕3場の、音読と解説 【第14回】 『マクベス』2幕4場の、音読と解説/および、全体の振り返り 【第15回】 まとめと期末テスト
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