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授業の内容(Course Description) |
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なぜ、税金は割り勘ではないのだろうか。国の歳出に必要な税額を一人当たりに換算すれば、租税法という講義はずいぶん簡単になる。しかし、現実はそうなっていない。現実の租税制度は複数の税金の集まりである。この問題をどう説明すべきだろか。 その上で、「なぜ、私たちは政府に税金を支払うのだろうか」という質問を考えてみてほしい。この疑問に対して、憲法に書かれている「納税の義務」を持ち出すのが簡単な答え方であろう。つまり、「なぜ、このルールに従わないといけないのか」という質問に対して、「それが義務だから」と答えることになる。さて、どう答えるべきだろうか。 以上の問題に対して、政府による公共サービスの財源調達のために税金が存在すると説明する人もいるかもしれない。実際、私たちが日々利用する道路・公園・保育園・小中学校・介護施設は、国や地方自治体が建設・整備しており、その財源は租税によって調達される。 しかし、よくよく考えてみると私たちは税金を支払った見返りとして特定の政府のサービスを受け取ってはいない。個別の公共サービスを利用するたびに、税金を支払うことはない。つまり、お店では商品とお金が一対一の対応関係をもつが、納税額と納税者の受け取る公共サービス量は一対一の対応関係をもっていないのである。 この税と公共サービスの関係を出発点として、税制を理解するために必要な基本的な制度・理論・歴史を本講義では扱っていく。特に本講義では、日本の税制を租税の理論(租税論)の観点から理解することを一つの目標とする。実定税法の諸規定や税制改革の動向は租税論の成果を基礎としている場合が多く、日本の税法を理解するのに租税論の学習は必要不可欠である。もちろん「理論」と「現実」との間には大きな乖離があり、理論のみならず税制史の流れについても触れていく。
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授業の到達目標(Course Objectives) |
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国や地方自治体が供給する公共サービスは私たちの生活に大きな影響を与え続けている。税金はその公共サービスの財源である。租税の理論・制度・歴史について受講生に一定の知識をもってもらうことで、税制をめぐる議論を複眼的な視点で理解できるようになることが、本講義の目標である。具体的に以下の点が本講義の到達目標である。 (1)基本的な租税原則の意義を理解し、説明できる。 (2)超過累進税率と単純累進税率の違いを理解する。 (3)課税単位の各方式の違いを理解し、それを説明できる。 (4)現行所得税の基本的な仕組みを理解し、税額を計算できる。
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成績評価方法(Grading Policy) |
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講義中に提出してもらうリアクションペーパー(10%)、小テストの点数(20%)、試験の点数(70%)によって基本的に評価する。ただし、以下の加点措置を実施する。 (1)加点レポートを提出することができる。提出者にはレポート分の点数が上記の点数に加点される。 *このレポートの提出は任意である。未提出であっても減点はされない。 (2)講義中の教員の質問に答えることで、加点される場合がある。
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テキスト・参考文献(Textbooks) |
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特に指定はしない。毎回の講義において、講義ノートを配布する。講義に関係する基本的な参考文献として、以下の文献を挙げておく。適宜参考文献は紹介する。 参考文献 (1)住澤 整編『図説 日本の税制 平成26年度版』財経詳報社。 (2)神野直彦『税金 常識のウソ』文藝春秋。 (3)諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか 租税の経済思想史』新潮社。
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授業時間外の学習《準備学習》(Assignments) |
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取り上げるトピックは豊富なので、配布するプリント・資料を活用して積極的に復習をおこなってほしい。細かい制度の記述よりも、税制度の歴史的な流れを把握して欲しい。
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学生への要望・その他(Class Requirements) |
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予備知識ゼロの学生にも理解できるように説明する。 租税法Ⅱと併せて履修することが望ましい。 授業に出席して私語をせずに勉強する学生の履修を希望する。
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授業の計画(Course Syllabus) |
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【第1回】 イントロダクション:講義運営について、租税とは何か 【第2回】 租税の正当性と租税原則論 【第3回】 租税の理論:総論(1) 【第4回】 租税の理論:総論(2) 【第5回】 個人所得税の理論と制度(1):所得税とは何か 【第6回】 個人所得税の理論と制度(2):所得税と控除制度 【第7回】 個人所得税の理論と制度(3):所得税負担の求め方 【第8回】 個人所得税の理論と制度(4):課税単位と所得税 【第9回】 税制と社会保障制度:課税最低限をめぐる議論 【第10回】 消費税の理論と制度(1) 【第11回】 消費税の理論と制度(2) 【第12回】 これまでの講義の復習 日本税制史の概観(1) 【第13回】 日本税制史の概観(2) 【第14回】 租税構造の国際比較 【第15回】 まとめ ※進度などの関係で、講義内容は一部変更する場合がある。
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