Web Syllabus(講義概要)

平成28年度

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日本の財政 II 古市 将人
選択必修  2単位
【経済】 16-1-1110-1939-08A

1. 授業の概要(ねらい)

 あるAさんが貴方に次のような質問をしたとしよう。「この道路・橋をつくる時の税金を君は払っていない。だって、その時君は生まれていなかった。だから、君はこの道路・橋を通ることが許されない」。この議論に答えるためには、サービスと負担の関係について考える必要がある。
 コンビニなどで150円の価格を持つジュース1本を買うことは、「150円」と「ジュース1本」が対応関係にあることを意味している。つまり、ジュース2本が欲しければ、300円をお店に支払わなければならない。買い逃げ、食い逃げは違法である。Aさんの上記の質問は、通常の取引における「買い逃げ、食い逃げ」を念頭に置いているのが分かるだろう。さて、生まれる前に作られた施設を私たちが利用することは、何を意味しているのだろうか。
 私たちが日々享受している公共サービスの世界には、ジュースとお金の関係が必ずしも当てはまらない。例えば、あるBさんが、「私は、隣のCさんよりも、20倍税金を納めている。だから、Cさんの20倍の公共サービスを受け取るべきだ。または、私の子どもはCさんの子どもの20倍の教育サービスを受けるべきだ」と発言したとしよう。おそらく、多くの人はこの発言に違和感を覚えるであろう。実際、公共サービスの世界においてBさんの論理は成立しない。
 結論から言えば、支払った税金の額と個別の公共サービス量は一対一の対応関係をもっていないのだ。しかし、公共サービスの財源は税金ではないのか、という疑問が生まれてくるだろう。この問題に答えるためには、政府が毎年度作成する「予算」について、学ばなければならない。
 よく私たちは、サービスから得られる「嬉しさ」とその負担について議論をする。しかし、公共サービスに関する「嬉しさ」と「負担」の関係に目を向けると、日常生活の延長線上として考えることができない事例を発見できるであろう。
 政府サービスを賄うお金の徴収と分配の実態を明らかにし、社会の秩序安定を図る政府の活動を分析する学問のことを財政学という。本講義では、この財政学という視点から、日本財政を理解するのに必要な制度・理論・歴史から現状の財政問題にわたる幅広いテーマを扱う。
 本講義では、社会保障政策、政府間財政関係論の基本的知識を扱う。最終的には、近年の諸改革を理解・検討するのに必要な知識・考え方を履修者に提供したい。

2.
授業の到達目標

 本講義の到達目標は以下の通りである。
 (1)基本的な財政用語を理解し、その意味を説明できる。
 (2)公的年金制度の役割を理解し、それを説明できる。
 (3)租税論の基本用語を理解し、その意味を説明できる。
 (4)地方交付税の役割を説明できる。

3.
成績評価の方法および基準

 講義中に提出してもらうリアクションペーパー(20%)、小テストの点数(30%)、LMSによる課題(10%)、試験の点数(40%)によって基本的に評価する。ただし、以下の加点措置を実施する。
 (1)加点レポートを提出することができる。提出者にはレポート分の点数が上記の点数に加点される。
 (2)講義中の教員の質問に答えることで、加点される場合がある。

4.
教科書・参考書

 基本的に毎回の講義において講義ノートを配布する。講義に関係する参考文献として、以下の文献を挙げておく。参考文献と講義の内容との関係については、第1回の講義にて説明する。
 参考文献
 日本の財政問題を予算論(この言葉の意味は本講義で解説する)の観点から学ぶには、次の文献が適している。
 ・井手英策『財政赤字の淵源 寛容な社会の条件を考える』有斐閣。
 日本の財政制度を学びたい人には、次の文献を推奨する。
 ・大矢俊雄編『図説 日本の財政 平成27年度版』東洋経済新報社。
 本講義では、適宜、財政史の観点から財政学を学ぶ。そのための参考文献として、『日本財政の現代史』を挙げておく。この文献は、図書館の担当教員の指定図書コーナーに揃えられているので、適宜参照すること。
 ・井手英策編『日本財政の現代史Ⅰ 土建国家の時代 一九六〇~八五年』有斐閣。
 ・諸富徹編『日本財政の現代史Ⅱ バブルとその崩壊 一九八六~二〇〇〇年』有斐閣。
 ・小西砂千夫編『日本財政の現代史Ⅲ 構造改革とその行き詰まり 二〇〇一年~』有斐閣。

5.
準備学修の内容

 取り上げるトピックは豊富なので、配布するプリント・資料を活用して積極的に復習をおこなってほしい。制度の細かな規定よりも、財政史の大枠を把握するようにしてほしい。

6.
その他履修上の注意事項

 (1)財政学Ⅰを履修していない学生にも理解できるように講義する
 (2)財政学Ⅰを履修している学生は、本講義で知識を深めることができる。
 (3)授業に出席して私語をせずに勉強する学生の履修を希望する。

7.
各回の授業内容
【第1回】
授業のガイダンス、財政学の基本用語について
【第2回】
再分配政策:効率性と公平性について
【第3回】
再分配政策と公共選択
【第4回】
教育政策と政府の役割について(1)
【第5回】
教育政策と政府の役割について(2)
【第6回】
再分配政策と租税制度(1):租税制度の仕組みについて
【第7回】
再分配政策と租税制度(2):所得課税
【第8回】
再分配政策と租税制度(3):消費課税
【第9回】
再分配政策と租税制度(4):資産課税
【第10回】
生活保護制度の役割とその仕組み
【第11回】
公的年金制度の役割とその仕組み(1)
【第12回】
公的年金制度の役割とその仕組み(2)
【第13回】
医療保険制度と介護保険制度について
【第14回】
地方財政の理論と実際(1):日本財政における地方財政の重要性
【第15回】
地方財政の理論と実際(2):地方交付税の役割とその仕組み
※ 進度などの関係で、一部変更する場合がある。