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授業の概要(ねらい) |
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あるAさんが貴方に次のような質問をしたとしよう。「この道路・橋をつくる時の税金を君は払っていない。だって、その時君は生まれていなかった。だから、君はこの道路・橋を通ることが許されない」。この議論に答えるためには、サービスと負担の関係について考える必要がある。 コンビニなどで150円の価格を持つジュース1本を買うことは、「150円」と「ジュース1本」が対応関係にあることを意味している。つまり、ジュース2本が欲しければ、300円をお店に支払わなければならない。Aさんの質問は、通常の取引における「買い逃げ、食い逃げ」を念頭に置いているのが分かるだろう。さて、生まれる前に作られた施設を私たちが利用することは、何を意味しているのだろうか。 私たちが日々享受している公共サービスの世界には、ジュースとお金の関係が必ずしも当てはまらない。例えば、あるBさんが、「私は、隣のCさんよりも、20倍税金を納めている。だから、Cさんの20倍の公共サービスを受け取るべきだ。または、私の子どもはCさんの子どもの20倍の教育サービスを受けるべきだ」と発言したとしよう。おそらく、多くの人はこの発言に違和感を覚えるであろう。実際、公共サービスの世界においてBさんの論理は成立しない。 結論から言えば、支払った税金の額と個別の公共サービス量は一対一の対応関係をもっていないのだ。しかし、公共サービスの財源は税金ではないのか、という疑問が生まれてくるだろう。この問題に答えるためには、政府が毎年度作成する「予算」について学ばなければならない。 よく私たちは、サービスから得られる「嬉しさ」とその負担について議論をする。しかし、公共サービスに関する「嬉しさ」と「負担」の関係に目を向けると、日常生活の延長線上として考えることができない事例を発見できるであろう。 政府サービスを賄うお金の徴収と分配の実態を明らかにし、社会の秩序安定を図る政府の活動を分析する学問のことを財政学という。本講義では、この財政学という視点から、日本財政を理解するのに必要な制度・理論・歴史から現状の財政問題にわたる幅広いテーマを扱う。
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2. |
授業の到達目標 |
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本講義の到達目標は以下の通りである。 (1)基本的な財政用語を理解し、それを用いて政府の役割を説明できる。 (2)財政史を念頭に建設公債と特例公債の役割の違いを説明できる。 (3)マクロ的予算編成とミクロ的予算編成の役割を理解し、その意味を説明できる。 (4)普遍主義と選別主義の利点と欠点を説明できる。
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3. |
成績評価の方法および基準 |
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講義中に提出してもらうリアクションペーパー(20%)、小テストの点数(20%)、試験の点数(60%)によって基本的に評価する。ただし、以下の加点措置を実施する。 (1)加点レポートを提出することができる。提出者にはレポート分の点数が上記の点数に加点される。 (2)講義中の教員の質問に答えることで、加点される場合がある。
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4. |
教科書・参考書 |
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基本的に毎回の講義において講義ノートを配布する。講義に関係する参考文献として、以下の文献を挙げておく。参考文献と講義の内容との関係については、第1回の講義にて説明する。 参考文献 日本の財政問題を予算論(この言葉の意味は本講義で解説する)の観点から学ぶには、次の文献が適している。 ・井手英策『財政赤字の淵源 寛容な社会の条件を考える』有斐閣。 日本の財政制度を学びたい人には、次の文献を推奨する。 ・大矢俊雄編『図説 日本の財政 平成27年度版』東洋経済新報社。 本講義では、適宜、財政史の観点から財政学を学ぶ。そのための参考文献として、『日本財政の現代史』を挙げておく。この文献は、図書館の担当教員の指定図書コーナーに揃えられているので、適宜参照すること。 ・井手英策編『日本財政の現代史Ⅰ 土建国家の時代 一九六〇~八五年』有斐閣。 ・諸富徹編『日本財政の現代史Ⅱ バブルとその崩壊 一九八六~二〇〇〇年』有斐閣。 ・小西砂千夫編『日本財政の現代史Ⅲ 構造改革とその行き詰まり 二〇〇一年~』有斐閣。
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5. |
準備学修の内容 |
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取り上げるトピックは豊富なので、配布するプリント・資料を活用して積極的に復習をおこなってほしい。
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6. |
その他履修上の注意事項 |
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(1)予備知識ゼロの学生にも理解できるように講義する。 (2)財政学Ⅱと併せて履修することが望ましい。 (3)授業に出席して私語をせずに勉強する学生の履修を希望する。
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各回の授業内容 |
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【第1回】 |
イントロダクション:講義運営について、財政学とは何か |
【第2回】 |
財政の3機能について |
【第3回】 |
日本財政の概観 |
【第4回】 |
公共財の理論 |
【第5回】 |
予算と財政民主主義(1):予算論の基本概念 |
【第6回】 |
予算と財政民主主義(2):日本の予算編成の特徴 |
【第7回】 |
財政民主主義と特別会計 |
【第8回】 |
租税の理論入門(1):租税制度の仕組みと租税原則論 |
【第9回】 |
租税の理論入門(2):所得税と消費税 |
【第10回】 |
公債論入門 |
【第11回】 |
財政政策入門:経済安定化機能について |
【第12回】 |
日本財政と社会保障(1):なぜ、社会保障制度が必要なのか |
【第13回】 |
日本財政と社会保障(2):普遍主義と選別主義 |
【第14回】 |
1990年代の日本の予算編成と人々のニーズ:土建国家論と日本財政 |
【第15回】 |
2000年代の日本の予算編成と人々のニーズ:変化するニーズと硬直化する予算 ※ 進度などの関係で、講義内容は一部変更する場合がある。 |
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