Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

ひとつ前のページへ戻る 教授名で検索

 
哲学(Philosophy) 江口 建
1年 後期 総合基礎科目選択 2単位
【地域・後】 17-1-1513-4447

1.
授業の概要(ねらい)

「道徳」をめぐる哲学的思考の冒険――パターナリズムvs.リバタリアニズム

 道徳をテーマに、「哲学的思考」の訓練を積みます。いくつかのテーマを設定し、哲学的に「問い」、「考え」、「語る」仕方を学びます。
 A君にとっては「善い」と思える事柄が、B君には「悪い」ことのように思える。きみにとっては「正しい」と思える判断が、私には「間違っている」ように思える。ならば、「本当のこと」って、いったい何だろう? 「正しい」とか「間違い」とか、「ほんとう」とか「うそ」といった線引きは、どこで成立するの?
 世の中には、じつに多くの「よくない」とされていることがあります。「嘘をつくことはよくない」、「自殺をすることはよくない」、「未成年者の飲酒や喫煙はよくない」、「売春や援助交際はよくない」、「電車内で化粧をするのはよくない」、「生徒がスカートの丈を短くするのはよくない」等々。
 しかし、「なぜそれがいけないのか」と改めて問われると、うまく答えられないことが多いです。それどころか、「よくない」とされる本当の理由を知らないままに、一方的に「ダメ」と言っている場合も少なくありません。例えば、「嘘をつくことは、よくないことだ」と学校の先生や親から教わるけれど、ならばどうして大人は、ときと場合により平気で「嘘」と「ほんとう」を使い分けるのか? そのときの「よくない」ってどういう意味?
 何かを禁止しようとするとき、「よくない」理由が正確に解かっていなければ、人にそれを本当の意味でやめさせることはできません。禁止されたほうは、理由が解からないから、「なんでダメなの? 私の勝手でしょう。ほっといて!」と言う。それでも無理やり禁止しようとすれば、それはただの「強制」です。根拠のない強制に、子どもは基本的に従いません。一見、おとなしく従っているように見えるとしたら、それは単に大人が「恐い」からか、そうでなければ、おとなしく従っているフリをしていたほうが自分にとって都合がよいからです。一方的に禁止された子供は、大人の前では“よい子”を演じて、隠れて悪いことをするようになる。そうして、どんどん大人の目の届かないところに行ってしまう。
 自分が将来、親になったときのために、今から一緒に考えておきませんか?
 この講義では、「自由」と「抑圧」の対立構造をめぐって、“分かったつもりになっているが、じつのところよく分からない”さまざまな問題を、もう一度最初から根本的に考え直し、学生たちと一緒に「道徳の根拠」を探ってゆきます。

2.
授業の到達目標

 自分たちが普段「あたりまえ」だと思っている規範の多くが、じつはそれほど自明ではないことを改めて知り、自己の思い込みを相対化する視点を獲得することができる。
 表層的な価値観に囚われずに物事の「本質」を洞察する力を養うことができる。
 自分とは違うものについての理解を深め、「他者」の存在を承認する寛容の精神を培うことができる。
 各自がみずからの動機に応じて主体的に「問い」を発見し、それについて自分の頭でねばり強く「考え」、それを自分の言葉で他者に「伝える」ことができるようになる。
 分野を問わず、社会に出てから本当に必要となる論理的・批判的思考力、判断力、言語運用能力を培うことができる。

3.
成績評価の方法および基準

・期末レポート:60%
・小レポート:20%
・受講態度(積極的な発言、意欲的に取り組む姿勢、授業への貢献度):20%
※意欲的な発言、議論への積極的な参加を高く評価します。

4.
教科書・参考書

 使用しません。必要に応じて、プリント等の資料を配布します。
 参考文献については、議論の内容や展開に応じて、そのつど授業中に紹介します。

5.
準備学修の内容

 配布したプリントに事前に目を通して、自分なりに問題意識を所有して授業に臨んでください。授業中に考えたこと、疑問に思ったことを、できるだけ克明にノートに記しておき、自宅で、あるいは通学・下校の途中など時間のあるときに、絶えず考える習慣を身につけるとよいです。絶えずアンテナを張り巡らせて、時事的・社会的・政治的な問題に敏感になっておくことをお勧めします。普段からいろいろなことに疑問を持ち、それについて考えておくと、レポートを執筆するときに必ず役に立ちます。

6.
その他履修上の注意事項

◆各回の授業内容の題目は、一例です。できれば受講者自身にトピックを決めてもらい、自分たちで主体的に「問い」を立てるところから始めて、全員で討論するのが望ましいです。
◆内容が関連しているので、後期開講科目の「倫理学」とあわせて受講することが望ましいです(必須条件ではありません)。
◆人数が多い場合は講義形式で授業を進めますが、少人数の場合は、討論形式にします。いずれの場合も、積極的な発言を高く評価します。講義形式の場合も、絶えず対話をしながら議論を進めます。
◆授業中は、必要に応じて、歴史上の優れた哲学者の考え方を紹介したり、学生たちと一緒にそれらを吟味したりしますが、いわゆる「哲学史」に登場する学派や潮流、学説それ自体を時系列的に教えることはしません。性急に「答え」を知ることよりも、各自がみずからの動機に応じて「問い」を発見し、それについて粘り強く「考える」ことを第一目的としますので、そのつもりで参加してください。簡単に「答えが出る」問題よりも、簡単に「答えが出ない」問題を辛抱強く考えてゆきましょう。

7.
各回の授業内容
【第1回】
導入――「道徳を哲学する」とはどういうことか/「道徳」と「倫理」の違い
【第2回】
嘘をつくのは悪いこと?――正直者vs.嘘つき
【第3回】
スカートの丈を短くして何が悪い?――教師vs.女子高生
【第4回】
授業中に居眠りしている人を起こすべき?――教師vs.生徒
【第5回】
友達のカンニングを発見したら、先生に報告する?――真面目な友達vs.ずるい友達
【第6回】
進路や結婚相手は誰が選ぶ?――親vs.子ども
【第7回】
バレなければ浮気してもいい?――おせっかいな親友vs.浮気男
【第8回】
電車内でのお化粧は、みっともないからやめなさい?――マダムvs.OL
【第9回】
煙草を吸うのは私の勝手でしょう?――嫌煙者vs.喫煙者
【第10回】
家の中で全裸でいて何が悪い?――貴族vs.裸族
【第11回】
「死なせてくれ」なんて許しません――医者vs.患者
【第12回】
旅先でテロリストに捕まったら、自己責任?――国家vs.国民
【第13回】
「ヘルメット着用義務」は余計なお世話?――警察vs.運転手
【第14回】
同性結婚に何か問題でも?――異性愛者vs.同性愛者
【第15回】
まとめ