Web Syllabus(講義概要)

平成30年度

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科目ナンバリング:
学力論・評価方法と実践研究 赤堀 博行
選択  2単位
【教職大学院】 18-1-1331-4668-010

1. 授業の概要(ねらい)

 授業は、複数の教員によるチーム・ティーチングで行う。
 「学力」は、ある客観的事実を示す事実コトバではなく、学校の授業で、一人ひとりの子どもが身につけるべき能力の知的側面の総体(「学ぶ力」や「学んだ結果得られた力」)を指し示す価値コトバである。「学力」が、多様な定義を許容する価値コトバであることを、具体例で示す。論者によって「学力」の定義や見方が異なるのは、学校における授業の果たすべき役割をどのように限定するのかという問題(学校観、授業観)と密接に絡んでいることを、資料をもとに提示する。2000年代に入って注目されるに至ったPISA、TIMSSや全国学力調査等での、いわゆる「学力低下」「論理性や創造性」、あるいは「関心・意欲」の低下問題等も取り上げ、議論を深める。「子どもが身につけるべき学力とは何か」の問いを中核にすえながら、子どもの生活場面で有機的に働く「生きた学力」を育てる指導方法とその評価方法について多面的に考察し、実践的に活用できる力を養う。

2.
授業の到達目標

 学校で「子どもが身につけるべき学力とは何か」の問いを中核にしながら、時代背景によって、学校の果たすべき役割期待が異なり、そこに学力観の違いが生じる理由があることを理解し、戦後初期から現代に至る学力論争や実践記録等の資料を通して、社会の構造的な変化と学力観の変遷を理解し、自分のコトバで説明する力を身につける。その上で、「現代社会を生きる上で必要な学力とは何か」を構想し、21世紀の学校をリードする学力観をデザインし、指導と実践のできる発信力を修得する。
 ○A類学生―社会の変化と学力観の変遷が密接に絡み合っていることを理解し、現代において求められる学力観を説明し、それを授業において自ら実践する力を身につける。
 ○B類学生―戦後の学力観の変遷を概括した上で、現代において求められる学力観を提示し、教育委員会及び学校等において、カリキュラム編成や授業づくりの場面で、指導的役割を果たす力と発信力を身につける。

3.
成績評価の方法および基準

 授業への参加度(30%)、発言や発表内容(30%)、レポート(40%)、等の結果によって、総合的に判断する。

4.
教科書・参考書

 テキスト:教室で指示する。
 参考文献:
  佐藤学編『揺れる世界の学力マップ』明石書店、2010年
  佐伯胖『〈学び〉を問い続けて―― 授業改革の原点』小学館、2004年
  国立教育政策研究所編『PISAの問題とけるかな』明石書店
  志水宏吉『学力を育てる』岩波新書、2005年
  苅谷剛彦・志水宏吉『学力の社会学』岩波書店、2004年

5.
準備学修の内容

 教養、知識・技能、基礎学力、学力の基礎、基礎・基本、PISA型学力、リテラシー、キー・コンピテンシーといった「学力」問題に深く関わる教育用語の一つ一つを自分のコトバで正確に説明できるように、教育雑誌や新聞の教育欄には日頃から目を通すようにして下さい。

6.
その他履修上の注意事項

 事前に配布する資料、文献等を読んで授業に出席すること。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 子どもが獲得すべき学力とは何か
 資料をもとに、知識・技能、教養、情報、学力の概念の違いがどのように議論されているかをグループで話し合い、学力に関わっての論点を整理する。
【第2回】
 PISA型学力とは何か
 PISAの具体的な問題を考察する中で、そのねらいと特徴を情報化とグローバル化の時代に求められる「リテラシー」としての学力との関係で理解する。
【第3回】
 TIMSS型学力とは何か
 TIMSSの具体的な問題を考察する中で、そのねらいと特徴を情報化とグローバル化の時代に求められる基礎的「学力」の捉え方について理解する。
【第4回】
 全国学力調査にみる「学力」とは何か
 全国学力調査の具体的な問題を考察する中で、そのねらいと調査結果を検討する。その際、都道府県による結果の特質に留意して検討を進める。
【第5回】
 PISA・TIMSS・全国学力調査にみる「学力」に込められた概念整理
 前回までにとり上げてきた、PISA・TIMSS・全国学力調査にみる「学力」に込められた概念の相違点、その調査結果の意味と課題等についての議論を行う。その中で、現代の学校教育において留意すべき、児童・生徒の理解と評価の在り方について考える。
【第6回】
 学力は子どもが生きていく上で、どのような支えとなるのかを考える。中教審答申での「生きる力」の説明を丁寧に読み解き、その社会的背景について考察する。
 ○A類学生は、第15期中教審答申における「生きる力」の記述を調べ、それは、教科指導、特別活動、道徳の時間、総合的な学習の時間の内容をどう組みかえることになるのかを発表する。
 ○B類学生は、教科指導、特別活動、道徳の時間、総合的な学習の時間の各々において、「生きる力」を育てる指導上のポイントを発表する。
【第7回】
 中教審答申(第197号)での「学力」規定について丁寧に読み解き、その社会的背景について考察する。
 ○A類学生は、第197号中教審答申における「学力」の記述を調べ、それは、教科指導、特別活動、道徳の時間、総合的な学習の時間の内容をどう組みかえることになるのかを発表する。
 ○B類学生は、教科指導、特別活動、道徳の時間、総合的な学習の時間の各々において、「生きる力」を育てる指導上のポイントを発表する。
【第8回】
 近年の学力規定の変遷を探る。
 1990年前後からの「学力」の捉え方の変化を整理し、何が、どう変わってきたのかを明らかにする。その作業とともに、そこで問われ、変更されてきている「学力」の捉え方について、議論する。
【第9回】
 総合的学習の実践事例分析を通して「学力」と「評価」を考える①
 小学校における総合的学習の時間の実践報告を分析し、そこに見られる子どもの学びの深度をどう意味づけるかをグループで検討し、発表する。
【第10回】
 総合学習の時間の実践事例分析を通して「学力」と「評価」を考える②
 中学校における総合的学習の時間の実践報告を分析し、そこに見られる青年の学びの深度をどう意味づけるかをグループで検討し、発表する。
【第11回】
 道徳の実践事例分析を通して「学力」と「評価」を考える③
 道徳の実践報告を分析し、そこに見られる子ども・青年の学びの深度をどう意味づけるかをグループで検討し、発表する。
【第12回】
 ある教科の実践事例分析を通して「学力」と「評価」を考える⓸
 小・中学校におけるある教科の実践報告を分析し、そこに見られる子ども・青年の学びの深度をどう意味づけるかをグループで検討し、発表する。
【第13回】
 「学力低下」問題
 1990年代末から強まった「学力低下」問題は、ポスト近代化型の学校(自ら学び自ら考える子どもを育成する学校)にシフトしようとする流れを是正する機能を果たしたと見られるが、「学力低下」と言われるときの「学力」観を吟味し、意見交換を行う。
 ○A学生は、1990年代末からの「学力低下問題」の論争点を調べ、発表する。
 ○B学生は、新学習指導要領に見られる「学力」の意味づけを調べ、発表する
【第14回】
 戦後日本の学力論争を調べ、検討する。
 ①勝田守一の学力規定:習得の度合が客観的に測定可能な知識体系に限定
 ○A類学生は、勝田、梅根、上田の学力観を分担して調べ、比較対象の一覧表を作り、発表する。
 ○B類学生は、上記3者の学力観は、どのような社会観を背景としているかを分担して調べ、発表する。
【第15回】
 これからの時代に求められる学力観と評価
 これまでの授業内容を踏まえて、受講生自身が「これからの時代に求められる学力観と評価」をレポートにまとめ、発表する。
 ○A学生は、自己の実践を高度化する視点からレポートをまとめ、発表する。
 ○B学生は、学力の向上を総合的にデザインする指導者の視点から、レポートをまとめ、発表する。