Web Syllabus(講義概要)

平成30年度

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科目ナンバリング:PHE-104
行動規範論 II 宇多 浩
【Ⅱ】  2単位
【Ⅱ 人の心と思想を学ぶ】 18-1-1500-0738-006

1. 授業の概要(ねらい)

 前期の行動規範論Ⅰでは、人間のもつ道徳性とその根底にあるものを探究しましたが、後期の行動規範論Ⅱではおもに、1970年代以降に展開された、正義論にかかわる諸問題を考察していきます。
 倫理的な問いかけは、個々の人間の性格や行為に対して問いうるだけでなく、私たちの生活を支えている「社会のあり方」に対しても問うことができます。「公正な社会」「正義にかなった社会」とはどのようなものか、それはどのような原理に立脚しているのか。こうした問いが正義論の中心にある問いであるといえます。
 講義の前半では、ロールズをはじめとする正義論の代表的な立場を紹介しながら、基本財(さしあたり所得や財産などの物質的な財)の分配における不平等・格差の問題を考察していきます。講義の後半では、現在、グローバルな規模で起きている貧困・不平等の問題に焦点をあて、「私たちは貧困者に対して援助する道徳的義務はあるのか」という問題を、いくつかの異なる立場から検討していく予定です。
 なお後期の授業では、ただ知識を覚えるのではなく、与えられた問題を皆さんが自分自身の問題として考察することを目標しますので、評価は定期試験ではなく、小論文形式の試験とします。

2.
授業の到達目標

 ・正義論の主要な学説について、そのエッセンスを自分の言葉で簡潔にまとめることができる。
 ・授業で紹介した学説を踏まえながら、不平等や格差の問題に対して、自分なりの議論を論理的に展開することができる。

3.
成績評価の方法および基準

 ・平常点(約20%)、授業内小論文(計2回 約80%)によって総合的に評価する予定。
 ・平常点は数回に1回の割合で課す小課題によって評価する。
 ・授業内小論文は2回とも受験する必要がある。どちらか1つでも受験しなかった場合は、原則として失格扱いとなる。
 ・評価は厳正に行うため、普段から授業に出席し、授業内容を理解していることが前提となる。

4.
教科書・参考書

 教 科 書:特になし
 参考文献:品川哲彦 『倫理学の話』 (ナカニシヤ出版 2015年)
      M・サンデル 『これからの「正義」の話をしよう』 (早川書房 2010年)
      その他の参考文献は、授業時に適宜、紹介します。

5.
準備学修の内容

 ・授業で課した課題は、必ず自宅で行ってくること。
 ・授業を受ける前に、参考文献の該当箇所をあらかじめ読んでくることが望ましい。

6.
その他履修上の注意事項

 上述のように、この授業では学習内容をただ覚えるのではなく、学習内容を踏まえながら自分自身で考え、議論を展開できることを重視します。したがって評価は小論文形式で行いますが、文章の書き方が分からない方は、「レポート作成講座」を受講するか、もしくは「ライフデザイン演習」の教科書を読んで、文章の書き方を事前に学習しておいてください。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 講義の概要
【第2回】
 正義論の系譜 ― おもにアリストテレスの議論に沿いながら、「正義」とはどのようなことを意味するのか、について考察する。
【第3回】
 ロールズの正義論(1) ロールズの功利主義批判を踏まえながら、彼が正義論においてどのような問題を探究しようとしているのか、について見ていく。
【第4回】
 ロールズの正義論(2) 「原初状態」、「無知のベール」といったロールズの基本概念を紹介しながら、彼が「正義の原理」をどのような仕方で導こうとしたのか、について見ていく。
【第5回】
 ロールズの正義論(3) ロールズ正義論の中心にある「格差原理」に焦点をあて、その原理がどのような背景に支えられているのか、について見ていく。
【第6回】
 リバタリアニズム(1) リバタリアニズムの基本的な考え方を紹介するとともに、彼の「最小国家論」の特色とその問題点について考察する。
【第7回】
 リバタリアニズム(2) リバタリアニズムの中心にある「正義の権限理論」の内容を確認するとともに、「課税は強制労働である」という学説について検討する。
【第8回】
 リバタリアニズム(3) リバタリアニズムの問題点を、とりわけ「移転の正義(移転の自由)」という考え方の問題に焦点をあてながら検討していく。
【第9回】
 センの正義論 ― アマルティア・センの「ケイパビリティ・アプローチ」の特徴を見ていく。
【第10回】
 授業内小論文(第1回)
【第11回】
 貧困と援助の倫理学(1) グローバルな規模での貧困・不平等の現状を確認するとともに、その背景をとりわけ「世界のグローバル化」という現象に焦点をあてながら見ていく。
【第12回】
 貧困と援助の倫理学(2) グローバルな規模での貧困・不平等の問題について、「救命ボートの倫理」やリバタリアニズム、近親者優先倫理の立場から考察する。
【第13回】
 貧困と援助の倫理学(3) グローバルな規模での貧困・不平等の問題について、功利主義やカント義務論の立場から考察する。
【第14回】
 貧困と援助の倫理学(4) グローバルな規模での貧困・不平等の問題について、グローバル正義論やケイパビリティ・アプローチの立場から考察する。
【第15回】
 授業内小論文(第2回)