Web Syllabus(講義概要)

平成30年度

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科目ナンバリング:SNE-304
障害児の医学 木村 理夫
選択  2単位
【こども教育】 18-1-1333-2176-003A

1. 授業の概要(ねらい)

 発達障害には自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠如多動症(ADHD)・限局性学習症(LD)などがあり、2004年に法律上でも発達障害が定義され、その支援が国の施策として進められてきた。発達障害は基本的に脳機能の異常を基盤としているが、その詳細な病態に関しては未だ不明な点も多く、これらの疾患概念や呼称も数年ごとの診断基準の改定のたびに変遷している。一方、現状では疾患・障害を正しく理解し、適切な治療・療育を行っている医療施設自体が限られている。また、世間には「発達障害」に関する科学的根拠のないさまざまな誤解や民間療法も広まっている。
 授業は、現時点での最新の知見を踏まえ、疾患や障害を健常(定型)発達と比較しながら、これらの障害(視覚障害、聴覚障害、運動障害、ダウン症なども含め)について医学的観点から理解できるように構成した。これらの「障害」は自身を定型発達として捉えている我々にとっても決して特別なものではなく、いわゆる「個性」とされる個人間のバリエーションの観点からも捉える必要がある。また乳児期からの成長・発達過程を通じて、我々の自己・他者認識(身体観・世界観)とも深く関わっていることを学習する。

2.
授業の到達目標

 多様な発達障害における疾患の特徴や疫学・診断・治療について、医学的な観点から多面的に理解できるようにする。
 また、実際の教育現場で障害児に対して適切な配慮を行うための、実践的な療育・支援の基本的概念と各種アプローチ法についても修得する。

3.
成績評価の方法および基準

 評価は、課題図書のレポート(20%)、講義中の小テストの成績(70%)、講義中の積極的な学習態度(10%)などを総合して行う。テストは6割以上の獲得が単位取得に必要であり、その合格者に対してのみ評価を行う。
 10分以上の遅刻は欠席扱いとし、4回以上欠席の場合は単位を付与しない。
 実習は公休扱いにするが、欠席回数が多い場合は、別途、課題提出などを指示する。
 課題レポート用の指定図書は図書館にも購入されているので、提出期限に間に合うように準備すること。

4.
教科書・参考書

 特定のテキストは使用しない。講義ごとにレジュメをLMSに掲載し、また講義時に配布する。
 発達障害や脳機能に関する書籍は多数出版されているので、以下の参考図書などをできるだけ多く読んで自己学習し、理解を深めるよう務めること。図書館の医学コーナーも積極的に利用してください。
 参考図書:
  1.『自閉っ子、こういう風にできてます!』ニキ・リンコ×藤家寛子 花風社
  2.『怠けてなんかいない!-ディスレクシア』品川裕香 岩崎書店
  3.『つながりの作法-同じでもなく違うでもなく』綾屋紗月、熊谷晋一郎 NHK出版
  4.『自閉症と感覚過敏−特有な世界はなぜ生まれ、どう支援すべきか?』熊谷高幸 新曜社
  5.『自閉症は津軽弁を話さない−自閉スペクトラム症のことばの謎を読み解く』松本敏治 福村出版
  6.『発達障害のリハビリテーション−多職種アプローチの実際』宮尾、橋本編 医学書院
  7.『発達障害の子どもたち』杉山登志郎 講談社現代新書
  8.『発達障害のいま』杉山登志郎 講談社現代新書
  9.『自閉症スペクトラム障害-療育と対応を考える』平岩幹男 岩波新書
  10.『自閉症スペクトラムとは何か-ひとの「関わり」の謎に挑む』千住淳 ちくま新書
  11.『発達障害』岩波明 文春新書
  12.『自閉症という謎に迫る-研究最前線報告』小学館新書
  13.『発達障害と感覚・知覚の世界』佐藤幹夫編著 日本評論社
  14.『自閉症の脳を読み解く』テンプル・グランディン、リチャード・パネク NHK出版
  15.『自閉症だったわたしへ』ドナ・ウィリアムズ 新潮文庫
  16.『ディスレクシア入門』加藤醇子 日本評論社
  17.『片づけられない女たち』サリ・ソルデン WAVE出版
  18.『障害学-理論形成と射程』杉野昭博 東京大学出版会 
  19.『10代の脳−反抗期と思春期の子どもにどう対処するか』フランシス・ジェンセン 文藝春秋
  20.『天才の脳科学-創造性はいかに作られるか』ナンシー・C・アンドリアセン 青土社
  21.『日本人の9割が知らない遺伝の真実』安藤寿康 SB新書
  22.『エピゲノムと生命-DNAだけでない「遺伝」のしくみ』大田邦史 ブルーバックス
  23.『個性は遺伝子で決まるのかー行動遺伝学からわかってきたこと』小出剛 ペレ出版
  24.『子ども虐待への新たなケア』杉山登志郎 学研
  25.『ミラーニューロン』ジャコモ・リゾラッティほか 紀伊國屋書店
  26.『視覚障害教育入門』青柳真弓ほか編著 ジアース教育新社
  27.『聴覚障害教育の基本と実際』中野善達ほか編著 田研出版株式会社
  28.『ダウン症ハンドブック』菅野、玉井ほか編 日本文化科学社
  29.『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス 早川書房
  30.『発達障害の子どもの心と行動がわかる本』田中康夫 西東社
  31.『ソーシャルブレインズ入門-<社会脳>って何だろう』藤井直敬 講談社現代新書 
  32.『脳の中の身体地図』サンドラ・ブレイクスリーほか インターシフト
  33.『脳が壊れた』鈴木大介 新潮新書
  34.『目の見えない人は世界をどう見ているのか』伊藤亜紗 光文社新書
  35.『学力の経済学』中室牧子 ディスカバー・トゥエンティワン

5.
準備学修の内容

 LMS上に毎講義の事前学習課題やレジュメ等を掲載するので、必ず事前に確認し自己学習し、講義中に簡潔にプレゼンテーション出来るように準備しておくこと。
 課題図書のレポートや小テストの連絡も、LMSに掲示する。
 講義資料の内容を理解している前提で、講義をすすめる。

6.
その他履修上の注意事項

 「障害」の意味を、自身や身近な家族・友人の問題としてもとらえ、理解を深めていくことが重要である。
 講義内容の質問などは、木曜10時~13時、ソラティオスクエア1F診療所で、あるいはメールにて対応する。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 発達障害総論:歴史的背景、「障害」とは?、脳神経系の発達、発達障害の原因と種類
【第2回】
 発達障害の診断:いつ・どこで疑うか?、発達のマイルストーン、共同注意
【第3回】
 自閉スペクトラム症(ASD)1:言語・非言語コミュニケーションの特徴、アスペルガー症候群、こだわりと常同行動
【第4回】
 自閉スペクトラム症(ASD)2:感覚・運動・記憶異常、疾患概念の歴史的変遷、発生率と早期発見の重要性
【第5回】
 自閉スペクトラム症(ASD)3:併存しやすい精神・神経疾患、治療・教育的介入
【第6回】
 注意欠如多動症(ADHD)1:疫学と診断基準、特徴と病態、ADHDの神経伝達異常
【第7回】
 注意欠如多動症(ADHD)2:年齢別治療戦略、薬物療法、行動療法、ペアレント・トレーニング、物質使用障害
【第8回】
 限局性学習症(LD)とディスレクシア:学習障害とは?、言葉の獲得、読字障害(ディスレクシア)、治療
【第9回】
 聴覚障害:音を認識するしくみ、診断、教育法・手話、補聴器・人工内耳
【第10回】
 視覚障害:光を認識するしくみ、視力・色覚、点字と弱視レンズ、支援と歩行指導
【第11回】
 自閉スペクトラム症と遺伝:ASDの遺伝子異常、エピジェネティックス
【第12回】
 ダウン症候群:染色体異常と高齢出産、臨床像、出生前診断、親の障害受容の問題
【第13回】
 肢体不自由と運動障害:定義、からだの運動調節を行うしくみ、脳性麻痺、てんかん
【第14回】
 発達障害とトラウマ:虐待とトラウマの関係、解離性障害、反応性愛着障害、子育て困難
【第15回】
 ASDの療育:早期支援、いじめ問題への対処、教育的配慮とインクルージョン教育