Web Syllabus(講義概要)

平成30年度

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科目ナンバリング:EXP-203
学習心理学基礎論 廣中 直行
選択  2単位
【教育文化】 18-1-1360-4683-009A

1. 授業の概要(ねらい)

 この授業は「公認心理師養成カリキュラム」に定める「B群:心理学発展科目」のうち第1カテゴリー「基礎心理学」の一環をなすものです。したがって将来の資格試験にそなえ、「公認心理師カリキュラム等検討会報告書」で定められた内容を講義します。その内容は(1)人の行動が変化する過程、(2)言語の習得における機序、の2点とされています。これらを理解し、たとえば次のような行動が起こる過程や仕組みを説明する理論を解説します。
 ・幼児は熱い電気ポットに一度触っただけで、なぜ二度とそれに近づかなくなるのか?
 ・数学の文章題が解けるようになるのはなぜか?
 ・外国語を話したり読み書きができるようになったりするのはなぜか?
 ただし、具体的な講義内容は学問的に整合性の取れる形に適宜変更し、新しい研究の成果も盛り込む予定です。

2.
授業の到達目標

 「公認心理師カリキュラム等検討会報告書」に基づき、この授業の到達目標は以下の2点とします。
 (1)経験を通して人の行動が変化する過程を説明できること。
 (2)言語の習得における機序について概説できること。

3.
成績評価の方法および基準

 学期末試験で評価します。

4.
教科書・参考書

 以下を教科書に指定します。学習心理学の講義はこの教科書に沿って進めるため、履修登録者は必ず購入してください。
 ・実森正子・中島定彦,『学習の心理:行動のメカニズムを探る』,サイエンス社、コンパクト新心理学ライブラリ2(2002)

5.
準備学修の内容

 以下のような参考書で知識を補充しておくことが望ましいと考えます。
 (1)G・シュタイナー(塚野州一ほか訳)、新しい学習心理学、北大路書房(2005)
 (2)森敏昭・岡直樹・中條和光、学習心理学:理論と実践の統合をめざして、培風館(2011)
 (3)内田伸子、発達の心理:ことばの獲得と学び,サイエンス社、コンパクト新心理学ライブラリ4(2017)
 (4)針生悦子、言語心理学(2006)

6.
その他履修上の注意事項

 本講義は前半が学習心理学、後半が言語心理学に分かれています。学習心理学のうち最初の数回は系統的に話が進むため、連続して出席しなければ内容が理解できなくなるので注意してください。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 第1回から第9回までが学習心理学です。第1回目は学習心理学の歴史と内容の概要を示し、学習心理学の知識体系がどのような研究方法によって構築されてきたかを解説します。具体的には学習の定義、哲学から実験心理学に至る「連合」の観念の変遷、ダーウィンの進化論が心理学に与えた影響と簡潔性の原理、研究方法としての動物実験などについて述べます。
【第2回】
 レスポンデント条件づけの原理と関連する内容を講義します。反射の概念と条件反射への展開、パブロフの実験手続き、基礎概念と理論、パブロフ以後とくにレスコーラによる発展について述べます。また、レスポンデント条件づけによって形成されるヒトの行動とその臨床的意義などについて考察します。
【第3回】
 ソーンダイクの試行錯誤学習からスキナーによるオペラント条件づけの体系化までの発展の歴史をたどります。オペラント条件づけの基本的手続きと基礎概念、「強化スケジュール」の基本を解説し、「適切な行動を促進し、不適切な行動を減少させる」ことがいかにして可能なのかを考えます。
【第4回】
 環境刺激による行動のコントロールについて学びます。レスポンデント条件づけ、オペラント条件づけそれぞれに刺激統制のテクニックや概念、原理が集積されているため、それらを解説します。「頂点移動」、「マッチング法則」などヒトの行動理解に役立つ概念を整理します。
【第5回】
 人が行動へと動機づけられる仕組みを理解します。動機づけとは「行動を習得し、改善していこうという気持ち」とされていますが、生物学的にはこれでは不十分なので、根本的な概念を解説します。また、学習との関連で特に「嫌悪的な刺激」を行動の統制に用いることの問題点について述べます。
【第6回】
 「知識はどのように記憶され理解へと進むのか」という問題について、知性とは何かという根本的な問題をふまえ、概念の学習や「刺激等価性」の学習可能性について解説します。また、「経験したことのない新しい課題に直面したとき、それを解決する何らかの行動をとる」という「問題解決学習」をどのように理解したら良いかを考えます。
【第7回】
 記憶については認知心理学の講義で詳述されると思いますが、学習心理学においても「人が新しい行動を習得できるのは、過去の行動を記憶し、そのことを理解しているからである」とされているように、記憶に関する最低限の理解は必要です。そこで、実験心理学における記憶研究の歴史をたどり、いくつかの重要概念について解説します。
【第8回】
 「人は、運動(スポーツ)はもちろん、道具を使って物づくりをしたり、自動車等の機会を操作したりすることができる。これらを支えるのが技能学習である」と言われています。では技能学習は条件づけではないのでしょうか? 運動技能の学習と条件づけとの共通点は何か、技能学習にユニークな点は何かといった問題を考察します。
【第9回】
 「自分の所属集団のルールや価値観を学ぶこと」を支えるのが社会的学習とされています。具体的には模倣、観察による学習、協同学習、道徳性の学習などが挙げられています。このような行動を理解するためには、生物学的な基盤の知識や、条件づけの原理を再考することが有用です。ヒトとして社会に適応して行くことの意義について考えましょう。
【第10回】
 これ以後の内容が「言語心理学」です。言語は認知科学や神経科学の重要な研究テーマですが、「公認心理師養成カリキュラム」を見ると、この科目に期待されている内容は主に発達に関する事項であることがわかります。そのため言語の発達に重点を置きますが、まずは言語とは何かを生物学的な視点から考えます。
【第11回】
 ヒトの乳幼児が言語行動を獲得するためには、いくつかの前提条件を満たさなければならなりません。そのため今回は言語発達の前提として必要な運動機能の発達、認知機能の発達、社会性の発達について概観します。
【第12回】
 「人は誕生して一年を過ぎた頃から少しずつ大人と同じ言葉を発するようになる。その後、急速に話す能力が発達し、三歳になる頃には周りの子どもや大人と話しことばによるコミュニケーションがとれるようになる」と言われています。その過程を理解するために、まず話し言葉の獲得に必要な構音の発達と音声知覚の発達について述べます。次にヒト幼児の語彙発達の特徴を解説します。
【第13回】
 「人が『聞く』『話す』『読む』『書く』を通したコミュニケーション能力をより発達させるためには、言葉と言葉をつなぐルール、つまり文法を習得する必要がある」と言われています。その過程を理解するために、文法は学習して習得するものか、それともヒトは生得的に文法を処理する神経機構を持っているのかという問題を考えます。文章理解力、文章産出力についても触れます。
【第14回】
 言語を「行動」ととらえ、言語行動をコミュニケーションの一種であると捉えることによって見えてくる「言葉」の本質について考えます。また、コミュニケーションの発達について基礎知識を整理します。第二言語の獲得についてもこの回で簡単に触れます。
【第15回】
 「学習・言語心理学」の実際場面への適応について理解するため、行動療法の基本、言語発達のアセスメント法、発達段階に応じた言語行動の支援、応用行動分析の貢献などについて概説します。また、全期15回を通じた講義の要点を復習します。