Web Syllabus(講義概要)

2019年度

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技術業倫理(Engineering Ethics) 江口 建
2年 前期 専門科目選択 2単位
【情電・前期】 19-1-0464-4447

1.
授業の概要(ねらい)・ディプロマポリシーとの関連

 科学技術の発展過程と、現代の技術者が直面する問題を見つめながら、技術者に必要とされる倫理観について考えてゆきます。
 現代は、建築士による耐震強度偽装、食品メーカーによる表示偽装、自動車メーカーの排ガス不正など、技術者の倫理観が問われる事件が相次いでいます。また、PCや携帯電話、スマートフォンといった情報通信機器に体現されるネットワーク技術の発展に応じて、ハッキングや不正アクセス、違法ダウンロードなどのハイテク犯罪も目立ってきています。さらには、原子力技術の進歩によって、核燃料廃棄物や老朽化した原子炉など、いまや人間自身が処理に困るようなものまで生み出してしまっています。
 ここで問われるのが、「技術者はいかにあるべきか」という問題です。技術は、実験室や工場から「製品」という形で社会へと投げ出された瞬間、「社会性・公衆性」を持ち始めます。そのとき、技術者の「社会的責任」はどこまで問われるべきなのか。トラブルが起こったとき、「使う人」が悪いのか、それとも「作った人」が悪いのか、はたまた「道具があること」それ自体が悪なのか。そもそも、なぜ専門的技術者に倫理観が必要なのか。「技術」という、一見、中立的な知が、どうして「倫理」という人間学的・価値論的な問題と結びつくのか。
 〈技術/道具〉と〈それを用いる人間〉の倫理的な関わりを、社会人になる前に、一度、根本から考えておきましょう。その場合、他人事ではなく、“自分の”問題として考えてみることが大切です。世の中で観察される問題が、決して「対岸の火事」ではなく、まさに“われわれ”自身の問題なのだと気付くことから、本物の思考は立ち上がります。身の回りにある身近な事例から思考を立ち上げて、そこからさらに考察の輪を広げ、地球的な視野に立って、道具と暮らし、技術と環境、個人と社会などについて、多様な観点から考えてゆきましょう。そして、社会における技術者の役割と責任について議論しながら、「技術者のあるべき姿」について、一緒に模索してみましょう。
 なお、この科目は、DP1に関連する科目です。

2.
授業の到達目標

・科学技術の展開経緯と、その背景にある哲学的思想の関係を踏まえたうえで、技術者として考えるべき問題についての深い理解を獲得することができる。
・技術や産業の発展と共に生じた社会的問題・倫理的課題、および、これからの技術者が見据えるべき課題に言及しながら、現代の科学技術が抱えている問題について適切に説明することができるようになる。
・事故や企業不祥事などの具体的事例を取り上げて、判断に必要な情報を収集し、状況を客観的に分析し、問題点を精査し、改善点を具体的に指摘する、といった事故対応能力を身につけることができる。
・人としての道徳に加えて、技術者としての自覚と倫理観を身につけ、将来の日本の技術界・産業界を牽引しうる優れた人間性を養うことができる。

3.
成績評価の方法および基準・フィードバック方法

期末レポート:60%
プレゼンテーション:10%
リフレクションペーパーの充実度:15%
受講態度(積極的な発言、意欲的に取り組む姿勢、授業への貢献度):15%

※上記併せて100点満点で60点以上を合格とします。
※フィードバックとして、リフレクションペーパーを返却します。適宜、質疑応答の時間を設けます。
※授業中の意欲的な発言、議論への積極的な参加を高く評価します。

4.
教科書・参考書

使用しません。レジュメ等の資料を配布します。

5.
準備学修の内容・必要な時間

1.指定した課題を自宅でやってくること以外に、事前・事後に配布したプリントに目を通して、テーマや問題について正確に理解しておいてください。次週の議論にスムーズに参加できるように、下調べをして臨んでください。自分なりに疑問に思ったことや、その時点での自分の考えなどを、ノートにまとめてきてください(以上、1.5時間)。そのうえで、テキストの枠組みを超えて、自分なりに問題意識を所有して授業に臨んでくださることを期待します。
2.学習した内容をLMSに掲載しますので、閲覧したうえで、次週の授業にスムーズに参加できるように頭の中を整理しておいてください(1.5時間)
3.授業中に考えたこと、疑問に思ったことを、できるだけ克明にノートに記しておき、時間のあるとき(自宅で、または通学・下校の途中など)に考える習慣を身につけることをお勧めします。日頃から新聞などのニュースに目を通し、時事問題や社会問題に敏感になっておくと、レポートを執筆するときに必ず役に立ちます。

6.
その他履修上の注意事項

※情報電子工学科を対象とするクラスにおいて、この科目はJABEE対応プログラムの必修科目、学習・教育到達目標中項目1-4に対応する科目となります。
※後期の「倫理学」と問題意識が共通しているため、あわせて受講することが望ましい(必須条件ではありません)。
※基本的に講義形式ですが、対話をしながら進めます。適宜、グループワークやディスカッションを取り入れます。
※「知識」の授受よりも、各自がみずからの動機に応じて自分なりの「問い」を発見し、それについて粘り強く「考える」ことを第一目的としますので、そのつもりで参加してください。

7.
授業内容

【第1回】
技術業倫理とは何か/なぜ技術者に「倫理」が必要なのか
【第2回】
技術の発祥と科学革命――道具と人間
【第3回】
資本主義社会の発展と職業倫理の成立/ものづくりと職人の技
【第4回】
「物」が悪いのか、「使う人」が悪いのか/道具に「正しい使用法」はあるか
【第5回】
技術は何のためにあるか/技術は価値中立的か
【第6回】
技術者と環境破壊・戦争兵器・生命操作・情報管理(グループ討論)
【第7回】
プレゼンテーション(グループ発表)
【第8回】
工学の倫理綱領と倫理規範/リスク管理/テクノロジーアセスメント/予防原則
【第9回】
ヒューマンエラーとヒューマンファクター
【第10回】
ヒヤリハットとハインリッヒの法則/フェールセーフとフールプルーフ
【第11回】
製造物責任法/費用便益分析/内部告発と公益通報者保護法/インフォームド・コンセント
【第12回】
SHELモデル/イベントツリー解析とフォールトツリー解析
【第13回】
事例研究1――チャレンジャー号事故
【第14回】
事例研究2――フォード社ピント事件
【第15回】
まとめ