Web Syllabus(講義概要)

2019年度

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倫理学(Ethics) 江口 建
1年 後期 総合基礎科目選択 2単位
【地域・後期】 19-1-1508-4447

1.
授業の概要(ねらい)・ディプロマポリシーとの関連

究極の選択――「道徳的ジレンマ」をめぐる倫理学実験室

 いくつかの究極的な思考実験を通して、「哲学的」思考力と「倫理的」判断力を培います。

 「一人の大切な命」vs.「見知らぬ千人の命」、どっちが大事?
 私たちが何らかの行動を起こすとき、大別して二つの考え方があります。一つは、「他人のために自分が損をするのは馬鹿らしい」と考える立場、もう一つは、「たとえ自分が犠牲になっても、大多数の人の幸福を考えるべき」とする立場です。
 これを、社会心理学や数理経済学では、「個人的合理性」と「集団的合理性」という言葉で表します。例えば、友達と旅行の計画を立てるとき、誰でも自分の都合を優先させたいと思うでしょう。満員のエレベーターの中で、「他の人が降りてくれないかな・・・」と無意識のうちに願ったことはありませんか? 体育や部活動で試合をするとき、チーム全体のことを考えるのが大事だと頭では解かっていても、やっぱり自分が目立ちたいと思うのは自然な欲求です。
 しかし、これが「命」にかかわることである場合、その行動によって、あなたの倫理性が問われます。震災に巻き込まれたとき、自分が真っ先に逃げるのか、それとも、瓦礫の下に埋まっている人々を助けたいと思うか。船が沈没したときに、自分が真っ先にボートに乗るのか、それとも老人や子どもなど、体力のない人を先にボートに乗せるのか。他人を助けているあいだに、自分が命を落とすこともありえます。自分の命を捨ててまで他人を救う価値があると思えるか。たとえ自分の命を犠牲にしてでも、被害は「最小限」にとどめるべきだと考えるか。それとも、「自分以外の誰か」が犠牲になるように命じるか。その場合の「誰か」とは、誰なのか。あなたが総理大臣だったら、「自分の家族」の命と「国民全員」の命、どちらを優先するのか。
 こういったことが、じつは沖縄の米軍基地問題や、原発の立地場所をめぐる問題、放射性廃棄物の受け入れ問題にも深いところでつながっているのです。
 この講義では、自分がその立場に立たされたときに二者択一の決断を迫られる「究極の事例」を題材に、全員でディスカッションしながら、自分のふるまい方を再考し、「倫理的な行動」の可能性を探ってゆきます。
 この授業は、総合基礎科目の学修目標2、3に関連します。

2.
授業の到達目標

・多様な視点を獲得することによって、自分の中にある「あたりまえ」の判断基準を相対化し、表面的な価値観に囚われずに物事の「本質」を洞察することができる。
・雑多な情報が氾濫し、善悪の基準が多様化している現代において、倫理観と責任感の意味について理解し、自分のふるまいを批判的に吟味しながら、グローバルな視点から真に善悪の判断を下すことができる。
・自分とは異なるものについての理解を深め、他者に対する寛容の精神を培うことができる。
・みずからの動機に応じて主体的に「問い」を発見し、それについて自分の頭でねばり強く「考え」、それを自分の言葉で他者に「伝える」ことができる。
・分野を問わず、社会に出てから必要となる論理的思考力・批判的吟味力、状況判断能力、言語運用能力を身につけることができる。

3.
成績評価の方法および基準・フィードバック方法

・期末レポート:70%
・リフレクションペーパーの充実度:15%
・受講態度(積極的な発言、意欲的に取り組む姿勢、授業への貢献度):15%

※意欲的な発言、議論への積極的な参加を高く評価します。
※フィードバックとして、リフレクションペーパーを返却します。適宜、質疑応答の時間を設けます。

4.
教科書・参考書

 使用しません。必要に応じて、プリント等の資料を配布します。
 参考文献については、議論の展開に応じて、そのつど紹介します。

5.
準備学修の内容・必要な時間

1.事前・事後に配布したプリントに目を通して、テーマや問題について正確に理解しておいてください。次週の議論にスムーズに参加できるように、下調べをして臨んでください。自分なりに疑問に思ったこと、その時点での自分の考えなどを、ノートにまとめてきてください(1.5時間)。
2.学習した内容をLMSに掲載しますので、閲覧したうえで、次週の授業にスムーズに参加できるように頭の中を整理しておいてください(1.5時間)。
3.自分なりに問題意識を所有して授業に臨んでください。授業中に考えたこと、疑問に思ったことを、できるだけ克明にノートに記しておき、時間のあるとき(自宅で、あるいは通学・下校の途中など)に絶えず考える習慣を身につけることをお勧めします。普段からアンテナを張り巡らせて、時事的・社会的・政治的な問題に敏感になっておくと、レポートを執筆するときに必ず役に立ちます。

6.
その他履修上の注意事項

◆テーマが関連しているので、前期(または後期)開講科目の「哲学」とあわせて受講することが望ましい(必須条件ではありません)。
◆授業内容の各回のトピックに関して、進行状況や受講者の反応に応じて、講義題目の変更、順序の入れ替え等がありえます。
◆人数の多少にかかわらず、ディスカッション・対話形式で進めます。積極的な発言を高く評価します。
◆授業中は、必要に応じて歴史上の優れた哲学者や倫理学者の考え方を紹介しますが、いわゆる学派や潮流、学説自体を教えることはしません。「知識」の伝授よりも、各自がみずからの動機に応じて自分なりの「問い」を発見し、それについて粘り強く「考える」ことを第一目的としますので、そのつもりで参加してください。簡単に「答えが出る」問題よりも、「答えが出ない」問題を一緒に考えてみましょう。

7.
授業内容

【第1回】
導入――「哲学的・倫理学的に思考する」とはどういうことか
【第2回】
思考実験① 自己の生存のために、他人の命を犠牲にすることは許されるか:「カルネアデスの舟板」、「登山ロープの緊急避難」
【第3回】
思考実験② 目の前の強盗を撃ち殺せるか: 自分の命vs.強盗の命
【第4回】
思考実験③ 犠牲になる命を選べるか/最大多数の最大幸福: 「密室の爆弾」
【第5回】
思考実験④ はたして囚人の運命は?: 「囚人のジレンマ」
【第6回】
思考実験⑤〈1人の命〉vs.〈5人の命〉: 「トロッコ問題」、『冷たい方程式』
【第7回】
思考実験⑥ 問題の本当の所在: 「高架橋問題」
【第8回】
思考実験⑦ 公平な殺人は存在するか: 「臓器くじ」
【第9回】
思考実験⑧ 社会的正義のための殺人は許されるか: 『イキガミ』、『ギフト±』
【第10回】
思考実験⑨ 崇高な目的のためなら、道徳を踏み越えてもよいか: 『罪と罰』、『デスノート』
【第11回】
思考実験⑩〈犬の命〉vs.〈授業を受ける権利〉: 「教授と犬」の思考実験
【第12回】
思考実験⑪〈見知らぬ赤子〉vs.〈患者〉: 「外科医」の思考実験
【第13回】
応用問題  社会的ジレンマ: 沖縄普天間基地問題、福島原発問題
【第14回】
哲学レポートの書き方
【第15回】
まとめ