Web Syllabus(講義概要)

2019年度

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哲学(Philosophy) 江口 建
1年 後期 総合基礎科目選択 2単位
【地域・後期】 19-1-1513-4447

1.
授業の概要(ねらい)・ディプロマポリシーとの関連

「道徳」をめぐる哲学的思考の冒険――パターナリズムvs.リバタリアニズム

 いくつかの道徳的テーマを設定し、全員でディスカッションしながら、哲学的に「問い」、「考え」、「語り」、「聴く」仕方を身につけます。
 世の中には、じつに多くの「やってはいけない」とされていることが存在します。「嘘を吐いてはいけません」、「自殺をしてはいけません」、「未成年者が飲酒や喫煙をしてはいけません」、「売春や援助交際をしてはいけません」、「電車内で化粧をしてはいけません」、「授業中に居眠りをしてはいけません」、「女子生徒がスカートの丈を短くしてはいけません」等々。
 しかし、「なぜそれがいけないのか」と改めて問われると、うまく答えられないことも多いでしょう。それどころか、「よくない」とされる本当の理由を知らないままに、一方的に「ダメ」と言っている場合も少なくありません。例えば、「嘘をつくことは、よくないことだ」と学校の先生や親から教わるけれど、ならばどうして大人は、ときと場合により平気で「嘘」と「ほんとう」を使い分けるのか。「食事を残してはいけない」というわりに、どうしてスーパーの閉店時には大量の「売れ残り」があり、しかも「廃棄処分」にされるのか。一体、何がどう「よくない」のか。そもそも「よい」と「悪い」の境界線は、いつ、誰が引いたのか。
 親が口うるさく言えば言うほど、子どもは、「いちいちうるさい」と思います。「部屋を片付けなさい」、「遊んでいないで勉強しなさい」、「学校が終わったら寄り道しないで帰宅しなさい」、「夜更かししてないで早く寝なさい」、「食事は残さず食べなさい」等々。
 そういうとき、親がその理由を詳細に語ることは稀です。禁止されたほうは、理由が解からないから、「私の勝手でしょう。ほっといて!」と言う。禁止するほうは、「そういうわけにはいかない。あなたのためにならない」と言う。しかし、「あなたのためにならない」という理由で、子どもが納得することは、ほとんどありません。そもそも何かを禁止しようとするとき、「よくない」理由を正確に伝えられなければ、人にそれを本当の意味でやめさせることはできません。一方的に禁止しようとすれば、それはただの「強制」です。そして、根拠の不明な強制に、子どもは基本的に従いません。一見、おとなしく従っているように見えるとしたら、その理由は、単に大人が「恐い」からか、さもなくば、おとなしく従っている“フリ”をしたほうが自分にとって「都合が良い」からでしょう。一方的に禁止された子どもは、大人の前では“よい子”を演じ、隠れて悪いことをするようになります。そうして、どんどん大人の目の届かぬところに行ってしまいます。
 このような、思春期を通じて誰しも一度は経験する〈反抗期の子供〉と〈過保護な親〉という構図は、哲学的には、「自由」と「抑圧」をめぐる包括的な問題として扱われます。
 この講義では、“分かったつもりになっているが、じつのところよく分からない”道徳の根拠を、もう一度最初から、学生たちと一緒に探っていきます。
 この授業は、総合基礎科目の学修目標2、3に関連します。

2.
授業の到達目標

・自分たちが普段「あたりまえ」だと思っている規範の多くが、じつはそれほど自明ではないことを改めて知ることを通じて、自己の思い込みを相対化することができる(=視点の相対化)。
・表層的な価値観に囚われずに、物事の「本質」を洞察する力を養うことができる(=本質洞察)。
・自分とは異なる意見を承認し、「他者」に対して寛容の精神をもって応答することができる(=寛容精神)。
・他者の意見を通じて、多様な物の見方を獲得し、柔軟な発想をすることができる(=発想の柔軟性)
・簡単に答えの出ない問題に忍耐をもって取り組むことができる(=思考の忍耐力)
・みずからの動機に応じて主体的に「問い」、それについて自分の頭でねばり強く「考え」、それを自分の言葉で他者に「伝え」、他者の意見に真摯に「耳を傾ける」という対話的姿勢の意義を理解することができる(=対話力)。
・2年次以降の専門的学習において必要となる問題発見能力、論理的・批判的思考力、言語運用能力を獲得することができる(汎用的スキル)。
・分野を問わず、社会に出てから必要となる状況判断能力、コミュニケーション能力を身につけることができる(=社会的スキル)。

3.
成績評価の方法および基準・フィードバック方法

・期末レポート:70%
・リフレクションペーパーの充実度:15%
・受講態度(積極的な発言、意欲的に取り組む姿勢、授業への貢献度):15%
 ※意欲的な発言、議論への積極的な参加を高く評価します。
 ※フィードバックとして、リフレクションペーパーを返却します。適宜、質疑応答の時間を設けます。

4.
教科書・参考書

 使用しません。必要に応じて、プリント等の資料を配布します。
 参考文献については、議論の内容や展開に応じて、そのつど授業中に紹介します。

5.
準備学修の内容・必要な時間

1.事前・事後に配布したプリントに目を通して、テーマや問題について正確に理解しておいてください。次週の議論にスムーズに参加できるように、下調べをして臨んでください。自分なりに疑問に思ったこと、その時点での自分の考えなどを、ノートにまとめてきてください(1.5時間)。
2.学習した内容をLMSに掲載しますので、閲覧したうえで、次週の授業にスムーズに参加できるように頭の中を整理しておいてください(1.5時間) 
3.自分なりに問題意識を所有して授業に臨んでください。授業中に考えたこと、疑問に思ったことを、できるだけ克明にノートに記しておき、時間のあるとき(自宅で、あるいは通学・下校の途中など)に絶えず考える習慣を身につけることをお勧めします。普段からアンテナを張り巡らせて、時事的・社会的・政治的な問題に敏感になっておくと、レポートを執筆するときに必ず役に立ちます。

6.
その他履修上の注意事項

◆内容が関連しているので、後期開講の「倫理学」とあわせて受講することが望ましい(必須条件ではありません)。
◆授業内容の各回の題目は、一例です。できれば受講者自身にトピックを決めてもらい、自分たちで主体的に「問い」を立てるところから始めて、全員で討論するのが望ましいです(それが真の「能動的な学び」であるという理解に基づいて、この授業は成り立っています)。
◆人数の多少にかかわらず、ディスカッション・対話形式で進めます。積極的な発言を高く評価します。
◆「哲学史」の授業ではありません。必要に応じて、歴史上の優れた哲学者の考え方を紹介したり、学生たちと一緒にそれらを吟味したりしますが、哲学の歴史を時系列的に教えることはしません。単に「知識」を得て、手頃な「答え」を知ることよりも、各自がみずからの動機に応じて「問い」を発見し、それについて粘り強く「考える」ことを第一目的としますので、そのつもりで参加してください。簡単に「答えが出る」問題よりも、「答えが出ない」問題を一緒に辛抱強く考えてみましょう。

7.
授業内容

【第1回】
導入――「道徳を哲学する」とはどういうことか/「道徳」と「倫理」の違い
【第2回】
嘘をつくのは悪いこと?――正直者vs.嘘つき
【第3回】
バレなければ浮気してもいい?――おせっかいな親友vs.浮気男
【第4回】
授業中に居眠りしている人を起こすべき?――教師vs.生徒
【第5回】
友達のカンニングを発見したら、先生に報告する?――真面目な友達vs.ずるい友達
【第6回】
スカートの丈を短くして何が悪い?――教師vs.女子高生
【第7回】
進路や結婚相手は誰が選ぶ?――親vs.子ども
【第8回】
電車内でのお化粧は、みっともないからやめなさい?――貴婦人vs.OL
【第9回】
煙草を吸うのは私の勝手でしょう?――嫌煙者vs.喫煙者
【第10回】
「死なせてくれ」なんて許しません?――医者vs.患者
【第11回】
旅先でテロリストに捕まったら、自己責任?――国家vs.国民
【第12回】
「ヘルメット着用義務」は余計なお世話?――警察vs.運転手
【第13回】
同性結婚に何か問題でも?――異性愛者vs.同性愛者
【第14回】
自分の身体を商品にして何が悪い?――社会vs.娼婦
【第15回】
まとめ