Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

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学力論・評価方法と実践研究 赤堀 博行
選択  2単位
【教職大学院】 17-1-1331-4668-02

1. 授業の概要(ねらい)

 授業は、複数の教員によるチーム・ティーチングで行う。
 「学力」は、ある客観的事実を示す事実コトバではなく、学校の授業で、一人ひとりの子どもが身につけるべき能力の知的側面の総体(「学ぶ力」や「学んだ結果得られた力」)を指し示す価値コトバである。「学力」が、多様な定義を許容する価値コトバであることを、具体例で示す。論者によって「学力」の定義や見方が異なるのは、学校における授業の果たすべき役割をどのように限定するのかという問題(学校観、授業観)と密接に絡んでいることを、資料をもとに提示する。2000年代に入って注目されるに至ったPISA型学力の構造と、いわゆる「学力低下」問題等も取り上げ、議論を深める。「子どもが身につけるべき学力とは何か」の問いを中核にすえながら、子どもの生活場面で有機的に働く「生きた学力」を育てる指導方法とその評価方法について多面的に考察し、実践的に活用できる力を養う。

2.
授業の到達目標

 学校で「子どもが身につけるべき学力とは何か」の問いを中核にしながら、時代背景によって、学校の果たすべき役割期待が異なり、そこに学力観の違いが生じる理由があることを理解し、戦後初期から現代に至る学力論争や実践記録等の資料を通して、社会の構造的な変化と学力観の変遷を理解し、自分のコトバで説明する力を身につける。その上で、「現代社会を生きる上で必要な学力とは何か」を構想し、21世紀の学校をリードする学力観をデザインし、指導と実践のできる発信力を修得する。
 ○A類学生―社会の変化と学力観の変遷が密接に絡み合っていることを理解し、現代において求められる学力観を説明し、それを授業において自ら実践する力を身につける。
 ○B類学生―戦後の学力観の変遷を概括した上で、現代において求められる学力観を提示し、教育委員会及び学校等において、カリキュラム編成や授業づくりの場面で、指導的役割を果たす力と発信力を身につける。

3.
成績評価の方法および基準

 授業への参加度(30%)、発言や発表内容(30%)、レポート(40%)、等の結果によって、総合的に判断する。

4.
教科書・参考書

 テキスト:教室で指示する。
 参考文献:
  佐藤学編『揺れる世界の学力マップ』明石書店、2010年
  佐伯胖『〈学び〉を問い続けて―― 授業改革の原点』小学館、2004年
  国立教育政策研究所編『PISAの問題とけるかな』明石書店
  志水宏吉『学力を育てる』岩波新書、2005年
  苅谷剛彦・志水宏吉『学力の社会学』岩波書店、2004年

5.
準備学修の内容

 教養、知識・技能、基礎学力、学力の基礎、基礎・基本、PISA型学力、リテラシー、キー・コンピテンシーといった「学力」問題に深く関わる教育用語の一つ一つを自分のコトバで正確に説明できるように、教育雑誌や新聞の教育欄には日頃から目を通すようにして下さい。

6.
その他履修上の注意事項

 事前に配布する資料、文献等を読んで授業に出席すること。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 子どもが獲得すべき学力とは何か
 資料をもとに、知識・技能、教養、情報、学力の概念の違いをどう説明するかを、グループで話し合い、意見交換を行う。
【第2回】
 教養の系譜と知識・技能の系譜
 リベラル・アーツ的教養の系譜と近代の実学主義に由来する知識・技能の2つの系譜を説明し、「教養としての知識」(人文主義モデル)と「必要としての知識」(実学モデル)を統合する第3の知識論としてプラグマティズムの知識論(創生する知)を説明し、これについてグループで意見交換する。
【第3回】
 「基礎学力」と「学ぶ力の基礎」の違い
 実生活に必要な「知識・技能の定着」と「学ぶ力の基礎」はどこが異なるのかを検討する。創生する知識を支える「関心、意欲、態度」の問題を検討する。
 ○A類学生は、戦後初期社会科の学習指導要領などを調べ、その考え方の基本を説明する。
 ○B類学生は、戦後の学習指導要領において、「基礎学力」が重視されるようになった時期とその社会的背景を説明する。
【第4回】
 戦後日本の学力論争を調べ、検討する。(第4回、5回、6回)
 ①勝田守一の学力規定:習得の度合が客観的に測定可能な知識体系に限定
 ○A類学生は、勝田、梅根、上田の学力観を分担して調べ、比較対象の一覧表を作り、発表する。
 ○B類学生は、上記3者の学力観は、どのような社会観を背景としているかを分担して調べ、発表する。
【第5回】
 戦後日本の学力論争を調べ、検討する。
 ②梅根悟の学力構造論:生活主義の視点からの四領域三層構造論
 発表と意見交換
【第6回】
 戦後日本の学力論争を調べ、検討する。
 ③上田薫の動的相対主義:問題状況の中で個が生きる学力とは何か
 発表と意見交換
【第7回】
 状況的学習論――状況参加型学習
 J. デューイの教育哲学、認知心理学、文化人類学における知の創生と文脈依存性を説明し、意見交換した後で、状況的学習論の考え方に基づいた試験問題(小中学校、教科を問わない)を各自で作成し、発表する。
【第8回】
 PISA型学力とは何か
 情報化、とローバル化の時代に求められる「リテラシー」としての学力を説明し、理解する。
 ○A類学生は、PISA型学力で重視される「リテラシー」「キー・コンピテンシー」を調べ、旧来のリテラシー、学力概念と対比して発表する。
 ○B類学生は、PISA型学力の背景にある「知識基盤社会」と「グローバル化社会」とは何かを調べ、それに対する学力観、評価観のイノベーション・モデルをまとめる。
【第9回】
 「生きる力」と学力
 学力は子どもが生きていく上で、どのような支えとなるのかを考える。第15期中教審最終答申にみられる「生きる力」の説明を踏まえて、こうした考え方が提示された社会的背景を検討する。
 ○A類学生は、第15期中教審答申における「生きる力」の記述を調べ、それは、教科指導、特別活動、道徳の時間、総合的な学習の時間の内容をどう組みかえることになるのかを発表する。
 ○B類学生は、教科指導、特別活動、道徳の時間、総合的な学習の時間の各々において、「生きる力」を育てる指導上のポイントを発表する。
【第10回】
 子どもの生活経験と学力
 子どもと自然、他者、事物と〈関わり合う〉生活経験の豊かさは、学力をどう支えるのか。都市部と農村部の子どもが地域で活動する総合的な学習の実践事例を検討し、都市部と農村部でどのような違いがみられるか、意見交換を行う。
【第11回】
 「学力低下」問題
 1990年代末から強まった「学力低下」問題は、ポスト近代化型の学校(自ら学び自ら考える子どもを育成する学校)にシフトしようとする流れを是正する機能を果たしたと見られるが、「学力低下」と言われるときの「学力」観を吟味し、意見交換を行う。
 ○A学生は、1990年代末からの「学力低下問題」の論争点を調べ、発表する。
 ○B学生は、新学習指導要領に見られる「学力」の意味づけを調べ、発表する
【第12回】
 総合的学習の実践事例分析①
 小学校における総合的学習の時間の実践報告を分析し、そこに見られる子どもの学びの深度をどう意味づけるかをグループで検討し、発表する。
【第13回】
 総合学習の時間の実践事例分析②
 中学校における総合的学習の時間の実践報告を分析し、そこに見られる子どもの学びの深度をどう意味づけるかをグループで検討し、発表する。
【第14回】
 学力をどのように評価するか
  「新し能力」をどう捉えるか
 ○A学生は、教育評価の諸類型を調べ、発表する。
 ○B学生は、望ましい学力観に適合した評価の形式を考え、発表する。
【第15回】
 これからの時代に求められる学力観と評価
 これまでの授業内容を踏まえて、受講生自身が「これからの時代に求められる学力観と評価」をレポートにまとめ、発表する。
 ○A学生は、自己の実践を高度化する視点からレポートをまとめ、発表する。
 ○B学生は、学力の向上を総合的にデザインする指導者の視点から、レポートをまとめ、発表する。