Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

ひとつ前のページへ戻る 教授名で検索

 
行動規範論 II 宇多 浩
【Ⅱ】  2単位
【Ⅱ 人の心と思想を学ぶ】 17-1-1501-0738-04

1. 授業の概要(ねらい)

 前期の行動規範論Ⅰでは、人間のもつ道徳性とその基礎にあるものを探究しましたが、後期の行動規範論Ⅱでは、1970年代以降に展開された、正義論にかかわる諸問題を考察していきます。
 倫理的な善悪の問いかけは、個々の人間の性格や行為に対して問いうるだけでなく、私たちの生活を支えている社会制度のあり方に対しても問うことができます。「正しき社会」、「公正な社会」とはどのようなものか、それはどのような原理に支えられているのか。こうした問いが正義論の中心にある問いです。
 講義の前半では、ロールズをはじめとする正義論の代表的な立場を紹介しながら、富の分配における不平等・格差の問題を考察していきます。講義の後半は、グローバルな次元での富の不平等・格差の問題に焦点をあて、これについて論じた代表的な論者の立場(功利主義・グローバル正義論・ケイパビリティ論など)を見ていきます。
 なお後期の授業では、ただ知識を覚えるのではなく、与えられた問題を皆さんが自分自身の問題として考察することを目標しますので、評価は定期試験ではなく、小論文形式の試験とします。

2.
授業の到達目標

 ・正義論の主要な学説について、そのエッセンスを自分の言葉で簡潔にまとめることができる。
 ・授業で紹介した正義論の学説を踏まえながら、不平等や格差の問題に対して、論理的かつ説得的な論を展開することができる。

3.
成績評価の方法および基準

 ・平常点(約20%)、授業内小論文(計2回 約80%)によって総合的に評価する予定。
 ・平常点は数回に1回の割合で課す小課題によって評価する。
 ・授業内小論文は2回とも受験する必要がある。どちらか1つでも受験しなかった場合は、原則として失格扱いとなる。
 ・評価は厳正に行うため、普段から授業に出席し、授業内容を理解していることが前提となる。

4.
教科書・参考書

 教 科 書:特になし
 参考文献:品川哲彦 『倫理学の話』 (ナカニシヤ出版 2015年)
      M・サンデル 『これからの「正義」の話をしよう』 (早川書房 2010年)
      その他の参考文献は、授業時に適宜、紹介します。

5.
準備学修の内容

 ・授業で課した課題は、必ず自宅で行ってくること。
 ・授業を受ける前に、参考文献の該当箇所をあらかじめ読んでくることが望ましい。

6.
その他履修上の注意事項

 上述のように、この授業では学習内容をただ単に覚えるのではなく、学んだことを踏まえながら、皆さんが自分自身で考え、自分なりの議論を展開できることを重視します。したがって評価は小論文形式で行いますが、文章の書き方が分からない方は、「レポート作成講座」等を受講するか、もしくは「ライフデザイン演習」の教科書を読んで、あらかじめ文章の書き方を習得しておいてください。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 講義の概要
【第2回】
 正義論の系譜 ― おもにアリストテレスの議論に沿いながら、「正義」とは何を意味するのか、について考察する。
【第3回】
 ロールズの正義論(1) ロールズの功利主義批判を見るとともに、彼が「正義の原理」をどのように導出しようとしたのかを考察する。
【第4回】
 ロールズの正義論(2) ロールズ正義論の中心にある「格差原理」の意味を確認するとともに、それがどのような根拠から導かれたのか、を見ていく。
【第5回】
 リバタリアニズム(1) ノージックの議論に沿いながら、リバタリアニズムの基本的な特徴(自己所有権・最小国家論・権限理論)について見ていく。
【第6回】
 リバタリアニズム(2) リバタリアニズムの中心にある「正義の権限理論」を確認するとともに、その問題点を「自由市場の擁護」という点に焦点を当てながら検討していく。
【第7回】
 リバタリアニズム(3) リバタリアニズムの特徴である「自己所有権」について、その
問題点を具体的な事例を通して検討していく。
【第8回】
 センの正義論 ― アマルティア・センのロールズ批判を見るとともに、彼のケイパビリティ・アプローチの特徴を見ていく。
【第9回】
 授業内小論文(第1回)
【第10回】
 世界における格差と不平等(1) グローバルな富の不平等・格差の現状を確認するとともに、その背景をとりわけ「世界のグローバル化」という現象に焦点を当てながら見ていく。
【第11回】
 世界における格差と不平等(2) グローバルな富の不平等・格差の問題について、「救命ボートの倫理」やリバタリアニズム、近親者優先倫理の立場から考察する。
【第12回】
 世界における格差と不平等(3) グローバルな富の不平等・格差の問題について、功利主義やカントの義務論の立場から考察する。
【第13回】
 世界における格差と不平等(4) グローバルな富の不平等・格差の問題について、ポッゲのグローバル正義論の立場から考察する。
【第14回】
 世界における格差と不平等(5) グローバルな富の不平等・格差の問題について、ヌスバウムのケイパビリティ・アプローチの観点から考察する。
【第15回】
 授業内小論文(第2回)