Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

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経済学史 I 佐藤 光宣
選択  2単位
【経営】 17-2-2120-0258-01

1. 授業の概要(ねらい)

 経済生活に関する知識は経済現象の分析と総合を通じて生み出され、またその反省を積み重ねることによって発展し、遂に学問としての経済学に結実した。その後、経済学の学派(school of Economics)が少なからず形成されてきた。経済学とその学派に対して系統的に行われる理論的研究は、これを経済学史と称する。この経済学史は経済学の分析手段の理論的変遷を問題とする。したがって、経済学史は経済分析の歴史でもある。
 経済生活に関する知識が確固とした学問として体系化されるに至った時期は、さほど古い昔ではない。それは今から250年ほど前のことである。その後今日に至るまで経済生活に関する知識をめぐる知的運動は連綿と続いたが、その知識の体系化がイギリス産業革命の前夜にスコットランド生まれの道徳哲学者によってなされたのであった。その後に輩出した多くの優れた人々により、各時代の社会が直面する経済問題との格闘を通じて、経済学の知識に対して次々に知的酵母が加えられていった。
 たとえば、株式仲買人から出発した人物によって、また元来は牧師であった人物によって、あるいは東インド会社に奉職した人物によって、そしてようやく専門的な職業人としての経済学者たちによって、先行する経済思想の継承と批判とを織り成しながら経済学の知識が累積された。それは洗練され、かくして経済学という学問の一層の自立的発展に向かっていった。なおまた後続の人々によって幾多の理論的成果は彫琢され一層精緻な形式を備えるに至ったが、それに呼応して、国家や社会の大局を論ずる学問として経済学は「社会科学の女王」ではなくなった。むしろ現行の経済学は、内面的な論理のみで成り立つことでその棲息領域を確保したようである。それゆえ、現行の経済学は、これをその出自から辿って反省する契機が訪れていると思い知るべきであろう。かくして、この授業が意義を有するとすれば、学生が経済学の学問としての流れを現今の経済社会において学び取る知的努力のうちに見出すことができよう。
 いかなる演繹的な理論の体系でも、その前提に基礎付けられているから、経済学の理論が依って立つ前提の精査を授業では避けて通れない。とりわけ、歴史に名を刻んだ聖哲や極めて有能かつ多才な人々は人間をどのように捉えたのか、そして中心問題を何に求めたのかについての論議が、授業における最大の要点となる。これを聞き逃すことなく学生は授業に集中してもらいたい。このことは経営学を学ぶ学生にとっても極めて重要であり、授業のねらいもこの点にある。なお授業は、ソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)の制度主義(Institutionalism)の思想的立場に立脚して展開する。

2.
授業の到達目標

 現今の資本主義という金銭文化段階(pecuniary stages of culture)にある諸社会は、極めて不安定な様相を呈している。学生には、この経済社会のなかで生き抜く力が以前にも増して求められている。加えて、学生のみならず私自身も、問題解決能力を涵養することはもとより、何が問題なのかを見極める能力そのものが問われている。それゆえ授業の到達目標は、経済学の学問としての流れを学ぶ過程において、各時代の経済問題を的確に摘出し、その処方箋をともかくも提示した先人たちから生きる姿勢を学び取ることである。この学修過程を通り抜けることなくしては、幾多の経済学説の理解は表層的なものに留まるであろう。学生は、想像力を活発に働かせて歴代の経済学者たちに寄り添うこと、すなわち自分自身を彼らと同じ境遇に置き換えて深い思索を行ってもらいたい。そのうえで問題の所在に自ら気づくことが肝要なのである。学問も何事も、知的好奇心なくして長続きはしない。経済学史という学問分野に知的好奇心が触発されるならば幸いである。
 ここで授業の到達目標を整序するならば、それは次のようになろう。
 (1)学生は、経済学の学問としての流れを説明できる。
 (2)学生は、経済学の主要な学派同士の連関を理解できる。
 (3)学生は、経済学の根底に置かれた特定の人間性と中心問題を理解できる。
 (4)学生は、現今の経済社会について、批判的かつ建設的観点を得ることができる。
 (5)学生は、アダム・スミスの生涯と著作について、深く知ることができる。
 (6)学生は、ノート作成の重要性を体得できるようになる。

3.
成績評価の方法および基準

 春学期期末試験(定期試験期間内に実施する予定)、学習到達度調査小テスト(実施日と回数は未定)、およびこれらの試験結果に平常点を加えて評価を決する。また、正当な理由なく追試験等を実施することは制度的にできない。レポートによる救済措置は予定していない。詳細は(1)~(3)の通りである。
 なお、春期期末試験および学習到達度調査小テストの問題は、経済学史Ⅰが基礎科目のうえに展開される専門性を有する科目であるという観点に基づいて作成する。また、経済学Ⅰはノートを取るという知的訓練を促しながら毎回の授業を行うので、試験は授業内容の再現を求めるべく広範な出題範囲から精選される。学生は、この観点からノートを取る努力を継続しなければならない。知識と情報を自ら求め、これを随時整理して利用できるように備えることは、ビジネス社会の一員となる学生の責務と言ってもよい。そのビジネス社会で活躍できるための技能の一端を学ぶことは、ノートを適切に取ることによって可能となろう。
 (1)この授業の評価は、春学期期末試験(60%)、学習到達度調査小テスト(30%)、および平常点(10%)により総合的になされる。但し、この基準は授業の進捗状況によって若干変更することがある。学習到達度調査小テストは、複数回、必ず実施する。レポートは課さない。レポート課題に替えて、直筆ノートの作成状況を把握し、指導を行う。この結果は平常点に算入する。但し、このノート調査は強制的に行うものではない。これは学生の自主的なノートの開示を待って行う。学生は個々に、「自分流」のノートの作成に向かって欲しい。その途上で意見を求めようとする学生の積極性を評価する。
 (2)授業に顔を出すだけの学生は授業の到達目標までの過程に自ら関与しない以上、単位取得は困難である。授業の開始前と終了後に毎回行う出欠調査は、出席点の機械的算定のために行うのではない。選択科目である本授業への出席は学生の権利であり、その権利の行使がいかに主体的に行われるかが重要である。権利の行使には責任が伴うのである。学生には積極的な勉学の姿勢が強く求められるのであって、かかる姿勢が見受けられた時にのみ出席を実質あるものとして認め、これを平常点として適正に評価する。この趣旨において出席調査は厳格に行われる。よって、出席するに値する授業を私は心掛ける。
 (3)平常点は、ノート調査の他、授業時の質疑応答の態様および予習復習の達成度等によって積算する。授業の要点は、毎回、これを聞き逃してはならない。まずもって授業を虚心坦懐に聞き、その内容をノートに記さなければならない。また、ノートの内容は自ら更新を重ねていかねばならない。その際、思考の過程が、いわば知的成長記録として記されているのが良い。このような手順と平行して、授業の要点が各自で分析され、これを総合するために数多の書籍に向き合う知的熱意が継続して求められる。かくして学生は、自分の意見を形成し、これを明瞭に表明できるようになることが最も望まれる。もとより授業の内容と形式は担当教員の能力と人間性に制約されるであろうから、この限界を突破すべく、学生は自己の発展の契機を、批判的精神をもって授業に臨むことを通じて獲得してもらいたい。ここから先が「自分流」を発揮すべき自学自習の領域となるが、そこに至る第一歩は、実は、生き生きとして授業に加わろうとする姿勢そのものに存する。平常点は、そのような意味での「自分流」の姿勢が学生に見出せた時にこそ付与できる。

4.
教科書・参考書

 テキストは使用しない。参考書類は、それらすべての購入を義務づけるものではない。私自身が用意した教材を、経済思想史の概説書に替えて、授業開始時に配布する。テキストの替わりに使用する教材は、授業を全体として見渡した見地に基づいて選ばれる。学生は帝京大学メディアライブラリーセンターに日参し、経済学史についての知識を深めることを期待する。なお、参考文献は多岐にわたる。その一端は次の通りである。
 Eric Roll, A History of Economic Thought (London: Faber & Faber, 1954).〔隅谷三喜男訳『経済学説史』上下巻、有斐閣、平成14年刊〕。 Jacob Oser, The Evolution of Economic Thought (New York: Harcourt Brace & World, 1963); William J. Barber, A History of Economic Thought (London: Penguin Books, 1977).〔 稲毛満春、大西高明訳『経済思想史入門』至誠堂、昭和48年刊〕。 Thorstein Veblen, The Theory of the Leisure Class (New York: The Macmillan Company, 1899).〔小原敬士訳『有閑階級の理論』岩波書店、1999〕。Thorstein Veblen, Imperial Germany and the Industrial Revolution (New York: Macmillan, 1915); Thorstein Veblen, The Theory of Business Enterprise (New York: Charles Scribner's Sons, 1904).〔小原敬士訳『営利企業の理論』岩波書店、平成8年刊〕。佐藤光宣著『制度主義者たちと限界主義経済理論』多賀出版、昭和63年刊。

5.
準備学修の内容

 総合基礎教育科目の「経済学」を履修し、その内容を的確に理解していることが望ましい。同様に、「経済思想史」は必須の授業科目と言わねばならない。また、歴史について深く真摯な関心を持つことは、この授業の準備として何より幸いである。さらに、世界史を既に学び、経済史を学びつつあることも準備学習となる。なお、「経済学史Ⅰ」の履修は、そのまま「経済学史Ⅱ」の履修準備となることは言うまでもない。
 また、新聞各紙の経済面を重点的に欠かさず読み通し、これを要約すること。同時に、日々の経済生活に関心を持つよう心掛けること。これらのことは、経済事象にかかわる正確な知識を自ら広く求め、現行の金銭文化とその構成要素間の相互作用を深く理解する必要を学生に知らしめ、本授業の準備および復習となる。また、このような授業時間外の学習は、経済学史以外の学問分野についても、多方面からの妥当な思索を重ねるべき必要性を学生に得心させるであろう。学生は授業本体を離れて、かかる学習の過程を通じて経済思想史のみならず、より幅広い歴史、哲学および心理学などで構成される体系的教養の涵養に向かって鋭意努力していただきたい。
 なお、授業2単位週90分間の授業については、週180分以上の授業時間以外の学習時間が必要である。本授業も、その例外ではない。

6.
その他履修上の注意事項

 経済学の学問としての歴史を理解することは、先人たちの知的格闘を通じて建設された経済学に対して畏敬の念を深めるに違いない。学生は授業に臨んでは、経済学的および歴史的なものの考え方を押し進めるような気持ちで聴講し、読み書きすることを望む。授業の内外を通じて行われるであろう勉学は、この授業が学生に対して最も欲するところである。そのことが結局、学生生活を実りあるものにする一助となる。人生で何か望むことがあるとするならば、そのために努力しなければならない。
 学生は経済学史に関する探求を継続して行って欲しい。そうすることによって、学生は現代の経済問題に関して批判的に理解するようになるはずである。そこで初めて、各自がそれらについての建設的意見を自家薬籠中のものとなしうるであろう。この授業が、連綿として続いてきた経済学史の理解という点で学生に資するよう、私は授業を行う。そして、現代の経済社会に対する認識を学生が確立する手助けとなるよう願う次第である。
 なお、毎回の授業に際して学生は勉学のための秩序を乱すことのないよう、まず要望する。また、一貫した知的環境のなかで授業が成立するよう、併せて要望する。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 自己紹介。春期授業の内容と予定
 ―シラバスの解説を中心として―
【第2回】
 経済思想の淵源
 ―プラトンの「理想的社会」とアリストテレスの「クレマティスティケ」―
【第3回】
 中世キリスト教神学と経済思想
 ―トマス・アクィナス(Thomas Aquinas)の社会経済思想―
【第4回】
 経済学史年表の解説①
 ―ジェイコブ・オサー著『経済思想の進化』(Jacob Oser, The Evolution of Economic Thought, 1964.)―
【第5回】
 経済学史年表の解説②
 ―ジェイコブ・オサー著『経済思想の進化』(Jacob Oser, The Evolution of Economic Thought, 1964.)―
【第6回】
 重商主義学派(Mercantilist School)
 ―トーマス・グレシャム(Thomas Gresham)、トーマス・マン(Thomas Mun)およびジェームズ・ステュアート(James Steuart)の経済思想―
【第7回】
 重農主義(Physiocratic School)
 ―フランソワ・ケネー(François Quesnay)の『経済表』とその経済政策論―
【第8回】
 古典派経済学(Classical Economics)とその成立 ①アダム・スミス(Adam Smith)
 ―その生涯と著作―
【第9回】
 古典派経済学(Classical Economics)とその成立 ②アダム・スミス(Adam Smith)
 ―その著『道徳情操論』と『諸国民の富』との内面的関係―
【第10回】
 古典派経済学(Classical Economics)とその成立 ③アダム・スミス(Adam Smith)
 ―アダム・スミス経済理論の精霊論的およびニュートン主義的性格―
【第11回】
 古典派経済学(Classical Economics)とその成立 ④アダム・スミス(Adam Smith)
 ―アダム・スミスの人間性の概念と中心問題―
【第12回】
 古典学派(Classical School)の展開 ⑤デイヴィッド・リカード(David Ricardo)
 ―その人間性の概念と中心問題―
【第13回】
 古典学派(Classical School)の展開 ⑥デイヴィッド・リカード(David Ricardo)
 ―その労働価値説とジェレミー・ベンサム(Jeremy Bentham)―
【第14回】
 古典学派(Classical School)の展開 ⑦トマス・ロバート・マルサス(Thomas Robert Malthus)
 ―その人間性の概念と中心問題および「弁神論」(theodicy)―
【第15回】
 古典学派(Classical School)の展開 ⑧トマス・ロバート・マルサス(Thomas Robert Malthus)
 ―資本主義経済の不均衡―