Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

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ECCP(論理的思考) I 波津 博明
選択  2単位
【観光経営】 17-1-1120-4435-05A

1. 授業の概要(ねらい)

 日本人は論理に弱い、といわれます。家族や仲間うち、つまり私的な空間では、主語の明示、事実の確認、論理的表現などはなくても、話が通じます。日々の暮らしを共にする中で、すでに共通の認識があるので、コミュニケーションは、その土台に新たな何かを付け加えるだけで成り立つからです。
 しかし、社会では、つまり公的空間では、そうした表現だけでは生きていけません。昨今、若者のコミュニケーション力が落ちている、といわれるのも、仲間うちの私的なコミュニケーションに多くのエネルギーをそそぎ、公的なものへの関心が低下した結果でしょう。
 しかし論理的思考ができていないのは、大人も同じです。授業では、新聞記事やエッセイのような活字資料、テレビのニュースや映画などの映像資料も使いながら、「事実に基づいて論理を構築する」とはどういうことかを考えます。
 たとえば、部活をやめることについて「ものごとを途中でやめることはいけない」と批判する人がいます。では転職も離婚もいけないのでしょうか。あるいは、複数のスポーツを同時に楽しむ欧米でこの言説は通用するでしょうか。柔道と水泳と自転車をやっている人が水泳をしばらくやめようとした場合、どう批判できるでしょうか。つまりこの言い方、膨大な練習量のため、「もう1つの」スポーツを考えることが難しい日本でしか通用しません。
 ある言説(「途中でやめるのはよくない」)の説得力は、①言説そのものが持つ非論理性の暴露(離婚や転職を例に出すことで露呈する)②言説の「外部」にある事実の例示(欧米のスポーツのあり方)で、一気に相対化されます。
 こうした非論理的な言説が通用する背景には、あいまいな表現が好まれる社会的特性や、事実と論理を軽視しがちな中学、高校教育の問題があります。授業では、日本社会が内包する「論理的思考を阻害する」要素について、考えていきたいと思います。とりあげるテーマは比較的身近なものにします。
 また、日本語より論理的な構造を持つ英語も材料として、学習を進めていきます。

2.
授業の到達目標

 ①さまざまな言説の論理構成を的確に理解し、批判的に分析できること
 ②あいまいな表現を見抜き、どこがあいまいで不適切かを指摘できること
 ③自ら論理的な文章を書き、論理的な話ができること
 受講生が、以上のような能力を持つようになることが目標ですが、春学期は、その入門と考えてください。 

3.
成績評価の方法および基準

 毎回の授業コメントシート兼復習報告票の記述(40%)と、数回実施するレポート課題(30%)及び試験(30%)で評価します。復習報告票とは、配布資料を読み、あるいは指定されたテレビ番組(主に報道・ドキュメンタリー番組)を見て考えたことを書き込むもので、これらの課題の達成状況とコメントの内容を評価します。

4.
教科書・参考書

 教科書は定めませんが、参考文献としては以下のものを提示しておきます。これらは、そのまま課題図書に指定することもあります。授業が始まったら、必要に応じてさらに参考文献を指定します。
  鴻上尚史『空気と世間』(講談社現代新書)
  土井隆義『友だち地獄』(ちくま新書)
  大石五雄『カタカナ英語と変則英語』(鷹書房弓プレス)
  荒木博之『日本語が見えると英語も見える』(中公新書)

5.
準備学修の内容

 授業で配布した印刷資料は翌週までに必ず熟読して理解してください。また、授業と直接関係がなくても、新聞、総合雑誌、テレビのニュースおよびドキュメンタリー番組などは、意識的に接するようにしてください。論理を駆使するためには、前提となる知識が必要だからです。

6.
その他履修上の注意事項

 印刷資料を保存、活用するために、フォルダーを必ず用意してください。
 また、日常生活で文章に慣れておくことがきわめて重要です。読書はすべての基礎なので、月に最低でも3冊程度の本は読んでください。スマートフォンと距離を取ることも大切です。常にスマートフォンが気になるという人は、意識的に使わないよう努力してください。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 新聞記事、街の看板、テレビのニュース、コマーシャルなど、公的な場に登場するあらゆる表現を対象に、「データと論理」の視点でメッセージを読み解きます。
【第2回】
 論理的な「学習」の再構築(1)
  人間的成長を支える「学習」は豊かな事実と論理に基づいているのでよくわかり楽しい。単純作業中心の「勉強」はどうか。世界史を例に「学習」を実践してみる。
【第3回】
 論理的な「学習」の再構築(2)
  事実と論理に基づく学習の実践(続き)
【第4回】
 論理的な「学習」の再構築(3)
  事実と論理に基づく学習の実践(続き)
【第5回】
 豊富な事実に基づく「学習」の再構築(1)
  灘中高の伝説の国語教師橋本武先生のユニークな授業を映像で見る
【第6回】
 豊富な事実に基づく「学習」の再構築(2)
  「ごまかし勉強」の構造
【第7回】
 論理と事実(1)
  マイケル・サンデル白熱教室を例に、論理と事実の関係を考える
【第8回】
 論理と事実(2)
  英語の文法構造とくに「主語の明示」を中心に、論理的文章の特質を考える
【第9回】
 論理と事実(3)
  リフォーム、リニューアルは「改装」とは関係ない 和製英語と日本語の破壊
【第10回】
 論理と事実(4)
  部活の呪縛 「ものごとを途中でやめるのはよくない」のか。
【第11回】
 論理と事実(5)
  文武両道 学校ではいつ部活が学習と並ぶ大きな存在になったのか。
【第12回】
 論理と事実(6)
  長時間練習の無意味さを批判した巨人のエース桑田真澄。「根性主義」の問題を探る
【第13回】
 テレビCMの論理(1)
  日本のテレビコマーシャルはどんなメッセージを発しているのか。実際のCMを見ながら、検討します。
【第14回】
 テレビCMの論理(2)
  日本のテレビコマーシャルをイタリアのCMと比較して、その特徴を考えます。
【第15回】
 まとめと授業内試験