Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

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日本文化史 I 今谷  明
選択  2単位
【史】 17-1-1310-1954-19A

1. 授業の概要(ねらい)

 一言でいうと日本学芸史を通史的に講述する。従来の日本の学問の歴史は、幕末以前と近代以降が隔絶していてつながりがない。それでは日本の学芸の特色も明らかにし難い。1088年、イタリアのボロニャで世界最古の大学が誕生する。同じ頃、日本では大学寮が形骸化し、やがて大学は廃絶する。それでは中世・近世に日本は学問がなかったのか。そうではあるまい。西欧の大学だけが学問の正統と考えるのは間違っている。公平に見て中世ではイスラム世界の学院(マドラッサ)が最も高度の学問を誇っていて、12世紀ルネサンスも源流は西カリフ国(現スペイン)のトレドである。
 以上のような次第で、本講では大学寮廃絶以降の日本の学問史を跡付ける。大学寮の後身は、貴族の家ごとに行なわれた家塾・文庫である。特に太政官弁官局の官務家に成立した官庫はアーカイブスの先駆で、中世に入ると東西の五山禅院が大学の役割を果した。16世紀来日のザビエルも五山を大学に例える。

2.
授業の到達目標

 西欧の大学の本質と比較することにより、日本の大学寮や家塾・五山禅院が学問上果した役割を認識し得れば可とする。

3.
成績評価の方法および基準

 授業内試験の出来によって評価する。

4.
教科書・参考書

 授業のつど、教員が配布する。

5.
準備学修の内容

 高校時代に日本史を履習した者は、戦国時代までの文化史を復習しておくのが望ましい。

6.
その他履修上の注意事項

 今のところ講義形式の授業を考えているが、受講者数如何によってはゼミ形式の授業とすることもあり得る。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 日本学芸史の前提として、ギリシァ以来の古典学、イスラム・ビザンツに於るその継承から、12世紀ルネサンスを経て、西欧の大学成立までを概観する。
【第2回】
 天武朝の大学寮設置、および遣唐使帰朝の吉備真備の大学助就任等、わが国古代の学制の発祥を考察する。
【第3回】
 律令国家は中央の式部省の管下に大学を置き、紀伝・明経・明法・算の4道ごとに博士と学生を収容した。地方には国学を置いて、地方豪族の子弟を教育した。
【第4回】
 古代のどの国にも先ず発生する天文と医学は、日本では大学外で教授され、宮内省典薬寮で医学が、中務省陰陽寮で天文・暦・陰陽の3道が行なわれた。特にト占との関連で陰陽道が、天文密奏制との係わりで天文が重要である。
【第5回】
 大学衰退の理由と背景。あわせて弘文院・勧学院等の大学別曹にも言及する。
【第6回】
 大学衰退後、その役割を担ったのは、菅原家の菅家廊下の如き各家に発生した家塾である。
【第7回】
 家寮と家学の成立。文章道......菅原・大江。明経道......中原・清原。明法道......坂上・中原。算道......小槻・三善。
【第8回】
 太政官官務家と壬生官庫(官務文庫)の成立。日本に於るアーカイブスの発祥といえる。
【第9回】
 鎌倉以降、武家の法曹官僚となった右筆方・奉行人らの基盤について。
【第10回】
 中世の教育はどこでどう行なわれたか。僧侶の果した役割と往来物や九九の算用について。
【第11回】
 鎌倉・京都に於る五山の成立と、宋学・新註の講義について。
【第12回】
 一条家の桃華坊文庫、嵯峨の船橋文庫等、公家の文庫について。応仁の乱の結果、文庫の廃滅が起った。
【第13回】
 金沢文庫と足利学校。
【第14回】
 公家・僧侶の地方流寓と文化の地方伝播。
【第15回】
 堺版・嵯峨版等、中世の印刷事業について。