Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

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経済史概論 II 佐藤 光宣
選択  2単位
【現代ビジ】 17-2-2120-0258-20A

1. 授業の概要(ねらい)

 経済史は、経済現象が歴史的にどのように生起してきたのかを問う学問である。この経済史に関する本授業は、ソースタイン・ヴェブレン(Thorstein Veblen)――『有閑階級の理論』(The Theory of the Leisure Class, 1899)などの著者である異端のアメリカの経済学者――の制度的接近方法に依拠しながら、イギリス、ドイツおよびアメリカにおける経済社会の進化とそれが含む諸問題に関する種々の論題を取り上げる。授業では、帝政ドイツと産業革命の様相と、植民地時代から現在に至るアメリカ経済史の最も重要な諸局面に焦点を当てる。とりわけ、大不況がアメリカ経済に対して、また世界史の動向に対してもたらした重大な意味合いを追究する。
 なお、この授業は「経済史Ⅰ」の主たる授業内容に立脚して開始される。すなわち、学生は授業を通じて、ヴェブレンの基本的見地を再確認しつつ、文化変化の理論への接近として経済生活の歴史的概括をさらに押し進める。こうして本授業は、資本主義経済制度の発展とその変容についての論議をめぐって具体的に展開していく。この過程で資本主義経済制度の概念に次々に規定性が加えられ、かかる制度の限界の究明に向かう。
 それゆえ本授業は、現今の経済社会の実情を歴史的視点から再検討することをもって、その内容とする。

2.
授業の到達目標

 現今の資本主義という金銭文化段階(pecuniary stages of culture)にある諸社会は、極めて不安定な様相を呈している。学生には、この経済社会のなかで生き抜く力が以前にも増して求められている。加えて、学生のみならず私自身も、問題解決能力を涵養することはもとより、何が問題なのかを見極める能力そのものが問われている。それゆえ授業の到達目標は、経済史の流れのなかから、種々の経済問題を的確に摘出し、これをなんとか乗り越えてきた継続中の経済社会そのものから多くを学び取ることである。この学修過程を通り抜けることなくしては、経済史の流れを掴み取ることは困難を極めるであろう。つまり、この授業は、経済事象の機械的暗記のみを求めない。学生は、この点に留意しなくてはならない。むしろ、学生は、想像力を活発に働かせて経済生活の歴史に対する認識を深めることが重要である。かくして、自分自身に直接かかわるものとして経済史を学ぶ姿勢が求められるのである。また、問題の所在に自ら気づくことが肝要なのである。学問も何事も、知的好奇心なくして長続きはしない。学生は、経済史という学問分野に知的好奇心を触発されるならば幸いである。
 それゆえ、経済史という学問分野に学生の関心を引き付けることが、まずもって授業の到達目標への接近に他ならない。なおまた、経済生活の流れを掴むことに留まらず、学生が人生設計をするうえでの確たる一歩を踏み出す勇気を学び取ることは、この授業が目指す遠大な到達目標である。学び取った知識と勇気は、就職活動に際して、また社会人となってから、人間の能力としていよいよ開花するであろう。したがって、学生は履修後も継続して経済史に慣れ親しむことが、授業の最終的な到達目標である。どのような学問分野であれ。個々に歴史をもっている。経済生活の歴史は、研究せずして通ることのできない経済学研究への王道である。だが、過去と現在は手段であり、学生が真に関心を寄せるのは未来でなければならない。
 ここで授業の到達目標を整序するならば、形式的には、次のような箇条書きが可能となろう。それはまず、(1)~(5)に明示するように、上述の授業内容の精査と個別化によって摘出すべき諸項目である。加えて、(6)~(10)に明示するように、前年度までの同授業の実態を通して学生が実際に身に付けた諸項目である。それゆえ、今後とも授業の到達目標として掲げるべきと考えられる諸項目である。なお、授業の到達目標は、その重要性を順位付けることはできない。これもまた学生が主体的に、その重要度を自由に評価すべきである。「自分流」の流儀を貫徹するならば、学生は、かかる順位付けにおいても「価値判断からの自由」を自ら追求すべきである。こうして学生は、「自分流」の実践を通じて社会生活の諸過程において織り成される事象の本質的理解に達するであろう。授業は、ビジネス社会における諸問題が学生の眼前に自らを現すように、学生の学問的興味を触発しながら進行する。
 (1)学生は、アメリカ合衆国の主要な経済生活の歴史を、その概要について学ぶことができる。
 (2)学生は、アメリカ経済の独占の運動から金融資本の成立までの経済史の動向を理解できる。
 (3)学生は、1929年10月の株価大暴落の主たる諸原因について、客観的に説明できる。
 (4)学生は、1930年代の大恐慌がもたらした経済社会的影響について、理解できる。
 (5)学生は、ニューディールの経済政策について、知見を得ることができる。
 (6)学生は、貨幣の発達の観点から経済の歴史を捉えることができる。
 (7)学生は、景気循環の諸学説を学び、その優劣を評価することができる。
 (8)学生は、ヴェブレン経済学の優位性について、知見を得ることができる。
 (9)学生は、第2次世界大戦の遠因とその経済的帰結について、理解できる。
 (10)学生は、大学の授業において、ノート作成の重要性を体得できるようになる。

3.
成績評価の方法および基準

 秋学期期末試験(定期試験期間内に実施する)、学習到達度調査小テスト(実施日未定)、およびこれらの試験結果に平常点を加えて評価を決する。また、正当な理由なく追試験等を実施することは制度的にできない。レポートによる救済措置は予定していない。詳細は(1)~(3)の通りである。
 なお、秋期期末試験および学習到達度調査小テストの問題は、経済史Ⅱが基礎科目でありながら専門性を有する科目であるという観点に基づいて作成する。また、経済史Ⅱはノートを取るという知的訓練を促しながら毎回の授業を行うので、試験は授業内容の再現を求めるべく広範な出題範囲から精選される。学生は、この観点からノートを取る努力を継続しなければならない。知識と情報を自ら求め、これを随時整理して利用できるように備えることは、ビジネス社会の一員となる学生の責務と言ってもよい。そのビジネス社会で活躍できるための技能の一端を学ぶことは、ノートを適切に取ることによって可能となろう。
 (1)この授業の評価は、秋学期期末試験(60%)、学習到達度調査小テスト(20%)、および平常点(20%)により総合的になされる。但し、この基準は授業の進捗状況によって若干変更することがある。学習到達度調査小テストは、複数回、必ず実施する。レポートは課さない。レポート課題に替えて、直筆ノートの作成状況を把握し、指導を行う。この結果は10点を限度に平常点に参入する。但し、このノート調査は強制的に行うものではない。これは学生の自主的なノートの開示を待って行う。学生は個々に、「自分流」のノートの作成に向かって欲しい。その途上で意見を求めようとする学生の積極性を評価するものである。
 (2)授業に顔を出すだけの学生は授業の到達目標までの過程に自ら関与しない以上、単位取得は困難である。授業の開始前と終了後に毎回行う出欠調査は、出席点の機械的算定のために行うのではない。選択科目である本授業への出席は学生の権利であり、その権利の行使がいかに主体的に行われるかが重要である。権利の行使には責任が伴うのである。学生には積極的な勉学の姿勢が強く求められるのであって、かかる姿勢が見受けられた時にのみ出席を実質あるものとして認め、これを平常点として適正に評価する。この趣旨において出席調査は厳格に行われる。よって、出席するに値する授業を私は心掛ける。
 (3)平常点は、ノート調査の他、授業時の質疑応答の態様および予習復習の達成度等によって積算する。授業の要点は、毎回、これを聞き逃してはならない。まずもって授業を虚心坦懐に聞き、その内容をノートに記さなければならない。また、ノートの内容は自ら更新を重ねていかねばならない。その際、思考の過程が、いわば知的成長記録として記されているのが良い。このような手順と平行して、授業の要点が各自で分析され、これを総合するために数多の書籍に向き合う知的熱意が求められる。かくして学生は、自分の意見を形成し、これを明瞭に表明できるようになることが最も望まれる。もとより授業の内容と形式は担当教員の能力と人間性に制約されるであろうから、この限界を突破すべく、学生は自己の発展の契機を、批判的精神をもって授業に臨むことを通じて獲得してもらいたい。ここから先が「自分流」を発揮すべき自学自習の領域となるが、そこに至る第一歩は、実は、生き生きとして授業に加わろうとする姿勢そのものに存する。平常点は、そのような意味での「自分流」の姿勢が学生に見出せた時にこそ付与できる。

4.
教科書・参考書

 テキストは使用しない。参考書類は、それらすべての購入を義務づけるものではない。私自身が用意した教材を、経済史の概説書に替えて、授業開始時に配布する。テキストの替わりに使用する教材は、授業を全体として見渡した見地に基づいて選ばれる。全学生は帝京大学メディアライブラリーセンターに日参し、経済史についての知識を深めることを期待する。なお、参考文献は多岐にわたる。その一端は次の通りである。
 Thorstein Veblen, The Theory of the Leisure Class (New York: The Macmillan Company, 1899).〔小原敬士訳『有閑階級の理論』岩波書店、昭和36年刊〕。Thorstein Veblen, Imperial Germany and the Industrial Revolution (New York: Macmillan, 1915); Fernand Braudel, La dynamique du capitalisme (Paris: Arthaud, 1985).〔金塚貞文訳『歴史入門』中央公論新社、平成21年刊〕。藤瀬浩司著『資本主義世界の成立』ミネルヴァ書房、昭和55年刊〕。Rober Heilbroner & William Milberg, The Making of Economic Society, 12th Edition (New Jersey: Prentice Hall, 2007).〔菅原 歩訳『経済社会の形成』ピアソン桐原、平成21年刊〕。Rondo Cameron; Larry Neal, A Concise Economic History of the World: From Paleolithic Times to the Present (USA: Oxford University Press, 2002).〔ロンド・キャメロン、ラリー・ニール著/速水融訳『概説 世界経済史〈1〉旧石器時代から工業化の始動まで』東洋経済新報社、平成25年刊〕。Rondo Cameron; Larry Neal, A Concise Economic History of the World: From Paleolithic Times to the Present (USA: Oxford University Press, 2002).〔ロンド・キャメロン、ラリー・ニール著/速水融訳『概説 世界経済史〈2〉工業化の展開から現代まで』東洋経済新報社、平成25年刊〕。

5.
準備学修の内容

 総合基礎教育科目の「経済学Ⅰ」を履修後に「経済学Ⅱ」を引き続いて履修し、それらの内容を的確に理解することが望ましい。また、歴史について深く真摯な関心を持つことは、授業の準備として何より幸いである。
 また、新聞各紙の経済面を重点的に欠かさず読み通し、この要約作業を反復すること。同時に、日々の経済生活に関心を持つよう心掛けること。これらのことは、経済事象にかかわる正確な知識を自ら広く求め、現行の金銭文化とその構成要素間の相互作用を深く理解する必要を、学生に知らしめるであろう。また、このような準備学習は、経済史以外の諸分野についても多方面から総合的な思索を重ねるべき必要性を、学生に得心させるであろう。学生は授業本体を離れて、かかる準備学習の過程を通じて経済の歴史のみならず、より幅広い歴史、哲学および心理学などで構成される体系的教養の涵養に向かっていくことであろう。また、そのように努めてもらいたい。
 なお、授業2単位週90分間の授業については、週180分以上の授業時間以外の学習時間が必要である。本授業も、その例外ではない。

6.
その他履修上の注意事項

 経済生活の歴史を理解することは、先人が歩み築いてきた経験と知識および文化に対して尊敬の念を深めるに違いない。学生は授業に臨んでは、歴史的および経済学的なものの考え方を押し進めるような気持ちで聴講し、読み書きすることを望む。授業の内外を通じて行われるであろう勉学は、この授業が学生に対して最も欲するところである。そのことが結局、学生生活を実りあるものにする一助となる。人生で何か望むことがあるとするならば、そのために努力しなければならない。
 学生は経済史に関する理論、実証および政策の自発的研究に向かって欲しい。そうすることによって、学生は現代の経済問題に関して批判的に理解するようになるはずである。そこで初めて、各自がそれらについての建設的意見を自家薬籠中のものとなしうるであろう。この授業が、連綿として続いてきた経済生活の性質と機能、その累積的変化および現代の世界におけるその位置づけを、学生が自ら学ぶ手助けの契機となることを願う次第である。
 なお、毎回の授業に際して学生は勉学のための秩序を乱すことのないよう、まず要望する。また、一貫した知的環境のなかで授業が進展するよう、併せて要望する。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 自己紹介。授業の課題と予定
 ―シラバスの内容の解説―
【第2回】
 経済生活の史的概観
 ―「経済史Ⅰ」の若干の復習―
【第3回】
 経済史と貨幣の歴史 ①分業と交換
 ―物品貨幣から秤量貨幣へ―
【第4回】
 経済史と貨幣の歴史 ②貨幣と国家の形成
 ―鋳造貨幣から紙幣へ―
【第5回】
 ジャン・カルヴァン(Jean Calvin)と宗教改革思想
 ―二重予定説とアメリカ資本主義の興隆―
【第6回】
 イギリス産業革命の展開
 ―フィリス・ディーン(Phyllis Deane)の所説に基づいて―
【第7回】
 西洋民主主義諸国家と王朝国家
 ―その経済的性質と命運について―
【第8回】
 フランス産業革命と商業資本の育成
 ―ルイ=フィリップと七月王政の成立―
【第9回】
 ドイツ産業革命の実情
 ―ドイツ関税同盟の結成と工業化の端緒―
【第10回】
 アメリカの資本主義 ①
 ―アメリカ移民と「資本主義の精神」の変容―
【第11回】
 アメリカの資本主義 ②
 ―南北戦争から第一次世界大戦まで―
【第12回】
 アメリカの資本主義 ③
 ―独占の運動と金融資本の出現―
【第13回】
 アメリカの資本主義 ④
 ―株価の大暴落と経済的破局―
【第14回】
 ニュー・ディールとその理論的根拠
 ―ヴェブレンの「社会的購買力」とケインズの「有効需要」―
【第15回】
 現今における経済生活の文化的要因とその命運
 ―「金銭的競争」と「効率の意識的撤収」―