Web Syllabus(講義概要)

平成29年度

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日本の財政 I 古市 将人
選択  2単位
【観光経営】 17-1-1110-1939-33A

1. 授業の概要(ねらい)

 あるAさんが貴方に次のような質問をしたとしよう。「この道路・橋をつくる時の税金を君は払っていない。だって、その時君は生まれていなかった。だから、君はこの道路・橋を通ることが許されない」。貴方はこの議論がどこか変だと思うだろう。しかし、なぜそう言えるのか。
 商店で150円の価格を持つジュース1本を買うことは、「150円」と「ジュース1本」が対応関係にあることを意味している。つまり、ジュース2本が欲しければ、300円をお店に支払わなければならない。Aさんの質問は、通常の取引における「買い逃げ、食い逃げ」を念頭に置いているのが分かるだろう。さて、生まれる前に作られた施設を私たちが利用することは、何を意味しているのだろうか。
 私たちが日々享受している公共サービスの世界には、ジュースとお金の関係が必ずしも当てはまらない。例えば、あるBさんが、「私は、隣のCさんよりも、20倍税金を納めている。だから、Cさんの20倍の公共サービスを受け取るべきだ。または、私の子どもはCさんの子どもの20倍の教育サービスを受けるべきだ」と発言したとしよう。おそらく、多くの人はこの発言に違和感を覚えるであろう。実際、公共支出の世界においてBさんの論理は成立しない。
 通常、税金の負担額を計算する際に公的なサービスの利用量を考慮することはない。また、通常、公的なサービスを利用する際に、納税額が必要となることもない。貴方は、政府から「今月の通行料」を請求されていないはずだ。
 しかし、公的なサービスを皆が享受し、皆でその財源を負担しているのは間違いない。では、どのような仕組みや理由で、公的なお金が納税者に課せられ、人々に公的なサービスが供給されるのだろうか。この問題に答えるには、政府が作成する「予算」について学ばなければならない。
 政府サービスを賄うお金の徴収と分配の実態を明らかにし、社会の秩序安定を図る政府の活動を分析する学問のことを財政学という。本講義では、この財政学という視点から、日本財政を理解するのに必要な制度・理論・歴史から現状の財政問題にわたる幅広いテーマを扱う。

2.
授業の到達目標

 本講義の到達目標は以下の通りである。
 (1)基本的な財政用語を理解し、それを用いて政府の役割を説明できる。
 (2)財政の3つの機能を理解し、それを用いて財政制度の役割を説明できる。
 (3)財政史を念頭に建設公債と特例公債の役割の違いを説明できる。
 (4)マクロ的予算編成とミクロ的予算編成の役割を理解し、その意味を説明できる。
 (5)特定の制度に普遍主義が採用されている理由を理解し、それを用いて社会保障制度の役割を説明できる。

3.
成績評価の方法および基準

 講義中に提出してもらうリアクションペーパー(20%)、小テストの点数(40%)、試験の点数(40%)によって基本的に評価する。ただし、以下の加点措置を実施する。
 (1)加点レポートを提出することができる。提出者にはレポート分の点数が上記の点数に加点される。
 (2)講義中の教員の質問に答えることで、加点される場合がある。

4.
教科書・参考書

 基本的に毎回の講義において講義ノートを配布する。講義に関係する参考文献として、以下の文献を挙げておく。参考文献と講義の内容との関係については、第1回の講義にて説明する。
 参考文献
 本講義で扱う日本の財政制度について勉強する際の基本書が次の『図説 日本の財政』である。
 ・窪田修編著『図説 日本の財政 平成28年度版』東洋経済新報社。
 本講義では、理論のみならず財政史の観点からも財政学を学ぶ。参考文献として、『日本財政の現代史』を挙げておく。この文献は、図書館の担当教員の指定図書コーナーに揃えられているので、適宜参照すること。
 ・井手英策編『日本財政の現代史Ⅰ 土建国家の時代 一九六〇~八五年』有斐閣。
 ・諸富徹編『日本財政の現代史Ⅱ バブルとその崩壊 一九八六~二〇〇〇年』有斐閣。
 ・小西砂千夫編『日本財政の現代史Ⅲ 構造改革とその行き詰まり 二〇〇一年~』有斐閣。
  日本の財政問題を予算論(この言葉の意味は本講義で解説する)の観点から学ぶには、次の文献が適している。
 ・井手英策『財政赤字の淵源 寛容な社会の条件を考える』有斐閣。

5.
準備学修の内容

 配布する講義ノートに予習・復習の問題を用意している。講義の冒頭で予習・復習問題を扱うため、履修者は、教員が指定する箇所を事前に勉強して欲しい。また、配布する講義ノート、参考文献等を活用して積極的に復習してほしい。

6.
その他履修上の注意事項

(1)新しい概念は、その都度説明する。ただし、経済学の基本的な用語・概念(需要曲線と供給曲線など)について簡単に復習していることが望ましい。
(2)財政学Ⅱと併せて履修することが望ましい。
(3)授業に出席して私語をせずに勉強する学生の履修を希望する。

7.
各回の授業内容
【第1回】
 財政学とは何か
【第2回】
 財政の3機能と政府の役割
【第3回】
 外部性と政府の役割
【第4回】
 公共財の理論と政府の役割
【第5回】
 再分配制度と保険
【第6回】
 予算と財政民主主義(1):なぜ、現代国家と予算は不可分なのか
【第7回】
 予算と財政民主主義(2):日本の予算編成の特徴
【第8回】
 財政民主主義と特別会計
【第9回】
 政府活動の評価と各種の指標について
【第10回】
 租税の理論入門(1):租税制度の仕組みと租税原則論
【第11回】
 租税の理論入門(2):経済安定化機能と所得再分配機能からみた所得税
【第12回】
 財政政策入門(1):国民経済計算の基本について
【第13回】
 財政政策入門(2):経済安定化機能の意義と財政政策の役割
【第14回】
 日本財政と社会保障(1):なぜ、社会保障制度が必要なのか
【第15回】
 日本財政と社会保障(2):普遍主義と選別主義
 ※ 進度などの関係で、講義内容は一部変更する場合がある。