生命倫理
担当者冲永 隆子教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [スポーツ医療学科]
科目ナンバリングPHE-102

授業の概要(ねらい)

 生命倫理(バイオエシックス)は、欧米を中心に1970年代に体系立てられた学際的学問で、従来のパターナリズム(医師の独善的医療行為やその態度)に対する反省から、「インフォームド・コンセント」や「患者の自己決定権」などの確立を求める医療消費者運動を契機として、自然環境保護・人種差別・反戦平和・女性解放などの社会運動と連動しながら学問的に確立された。
 本講義では、臨床現場のジレンマ、例えば延命措置をめぐる差し控えや中止、脳死臓器移植の意思決定、iPS細胞の臨床応用、中国のゲノム編集児等の事例を通して、バイオエシックス的見地から具体的な対応策を模索・検討することを目的とし、ほぼ毎回、DVD教材を使い、自分の考えを感想文にまとめたりグループ討論を行ったりすることによって、個々人の思考訓練の場をめざしたい。

授業の到達目標

 受講者が、各教授項目のキーワード(KW)について正しく説明することができること、また、グループ討論演習によって、他人の意見と比較し、自分の見解を他に示すことが可能になること。受講者は、2回ほどの小テストで知識定着の確認が可能となる。当事者としての自己決定意思能力を養い、決定できる自己をつくるアイデンティティ形成に参与しうるこうした訓練が、大学卒業後、医療従事者として社会で活躍する学生各人に役立つことを期待したい。具体的には、医療現場で遭遇する倫理的なジレンマを扱い、関係者間での倫理的調整を行うための基礎となる倫理に関する諸理論、倫理原則・倫理綱領について教授する。医療現場の倫理的課題に直面するにあたり、倫理原則に則った推論を経て結論を出すことを本講義の到達目標とする。

成績評価の方法および基準

 定期試験(マークシート)を80%、平常点として2回の小テスト、数回のレポート(10行程度のVTR感想文)など提出状況を20%とする。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書購入テキストはなし。プリントはこちらで用意する。
参考文献

準備学修の内容

 配布資料コピーの次回授業部分を事前に読んでおくこと。
 次回の授業内容を予習し、専門用語の意味等を理解しておくこと。

その他履修上の注意事項

 正当な理由のない遅刻・欠席は減点の対象となる。私語や飲食、授業に関係のない行為、周囲への迷惑行為は厳禁。

授業内容

授業内容
第1回 バイオエシックス(生命・医療倫理)誕生の歴史(1):軍事医学研究上の倫理(独:ナチスの人体実験、日:731部隊の人体実験)→臨床・医学研究の倫理確立、被験者の権利保護 KW:ナチス犯罪「夜と霧」、ニュールンベルク綱領(1947)、ヘルシンキ宣言(1964)、インフォームド・コンセント(IC)を説明できる
第2回 バイオエシックス誕生の歴史(2):医学研究上の倫理(米:タスキーギ事件、ウイロー・ブルック事件、ユダヤ人慢性疾患病院事件、シカゴ・マラリア研究、放射線被爆人体実験)、臨床現場の倫理、患者の権利保護 KW:患者の権利章典(米1973、日1991)、リスボン宣言(1981)、患者の自己決定権、ICを説明できる
第3回 患者の権利(1):治療選択権、Case Study―エホバの証人輸血拒否問題(ビデオ:生命倫理を考える 終わりのない8編の物語「②花のプレゼント」丸善1995) KW:ヒポクラテスの誓い、パターナリズム、生命倫理4原則(ビーチャム)、臨床倫理4分割表(ジョンセン)J.Sミルの他者危害原則、QOL、SOLを説明できる
第4回 患者の権利(2):治療拒否権、Case Study―終末期医療・緩和ケア、延命措置の問題(ビデオ:生命倫理を考える 終わりのない8編の物語「①老人の友」丸善95) KW:臨床倫理4原則(医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況)を説明・ディスカッションできる
第5回 終末期医療(1)―緩和ケア 末期がん患者への全人的ケア(トータルケア) Case Study―いのちをみつめる(ビデオ:「ともに死に向かう 鳥取ホスピスの現場から―野の花診療所 徳永進医師) KW:緩和ケア、エンドオブライフケア、ホスピスケア、ビハーラケア、スピリチュアルケア、WHOの健康定義を説明できる
第6回 終末期医療(2)―安楽死 概念整理・現状 KW:慈悲殺、6要件(山内事件)、4要件(東海大事件) Case Study―日本の現状「山内事件(1962)」「東海大事件(95)」、「国保京北町事件(96)」(ビデオ:クローズアップ現代「私の呼吸器を外してください」2009、NHK)を説明できる
第7回 終末期医療(3)―尊厳死 概念整理・現状 KW:尊厳死、患者の意思表示(事前指示)、リビングウイル、蘇生拒否(DNR)、患者の持続的委任権法(1983)、患者の自己決定権法(1990) Case Study―米国の現状「カレン・アン・クインラン事件(75-76)「ナンシー・クルーザン事件(83-92)」を説明できる
第8回 終末期医療(4)―尊厳死 概念整理・現状 KW:尊厳死、患者の意思表示(事前指示)、尊厳死法 Case Study―日本の現状「射水市民病院(人工呼吸器取り外し)事件2000-05)」尊厳死法制化の動き(ビデオ:ローズアップ現代「人生の最期をどう迎えるのか」2012、NHK)を説明・ディスカッションできる
第9回 脳死と臓器移植(1)―概念整理 KW:脳死、脳死判定、死の三徴候、臓器移植 Case Study―遷延性意識障害(持続的植物状態)と脳死の違い、脳死が臓器提供と結びつくまで、日本の現状(臓器移植法改正2009)(ビデオ:クローズアップ現代「突然の脳死 臓器提供に揺れる家族たち」2012 NHK)を説明・ディスカッションできる
第10回 脳死と臓器移植(2)―脳死臓器移植の現状 KW:ドナー、レシピエント、ドナーカード、臓器移植法、有機的統合体説、パーソン論 Case Study―臓器提供意思表示形式、海外の現状(ビデオ:「ティーンズTV・ワールドドキュメント 脳死移植―生と死の問いかけ」NHK教育、2001)を説明・ディスカッションできる
第11回 脳死と臓器移植(3)―子どもの脳死移植 KW:長期脳死、虐待を受けた児童からの臓器提供 Case Study―小児脳死臓器移植の諸問題(参考資料:宗教情報センターコラム「犠牲を伴う移植医療―救われるいのち、棄てられるいのち」)、ビデオ:「NHK特集 剛亮生きてや~脳死を見つめた78時間」1987など)を説明できる
第12回 生殖医療―選択的人工妊娠中絶、異常胚の破棄 KW:出生前診断、着床前診断、生命の選別、優生思想 Case Study―生命の選択と摂取(DVD:「92’NHKプライム10「あなたは “生命”を選べますか~ここまできた胎児診断」」(NHK)1992)を説明・ディスカッションできる。   
第13回 生殖医療―生殖補助医療(不妊治療)の現状 KW:人工授精、体外受精‐胚移植、顕微授精、代理懐胎 (DVD:クローズアップ現代 卵子提供)を説明・ディスカッションできる。                        
第14回 再生医療―中絶胎児の細胞利用 KW:再生医療、体性幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、中絶胎児細胞(EG細胞)、パーキンソン病患者、脊髄損傷患者 Case Study―DVD:「中絶胎児利用の衝撃」(NHKスペシャル2005)を説明できる。 
第15回 iPS細胞のパーキンソン病患者への臨床応用(DVD:NHK時論公論2018)、中国のゲノム編集双子女児誕生(2018)をめぐる倫理問題(DVD:NHK時論公論2018)について説明・ディスカッションできる。