宗教文化論Ⅰ
担当者濱田  陽教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [総合基礎科目]
科目ナンバリングRES-101

授業の概要(ねらい)

 人は宗教をどのようにとらえてきたのだろう。そして、今後どのようにとらえていくのだろうか。本講義では伝統的な宗教文化に加えて、人間そのものの価値を最重要視するヒューマニズム、新テクノロジーを最重要視する新潮流を広義の「宗教」に含め、考察を進める。
 この視点は、大局的視座から人類史を研究するマクロヒストリーの学者ユヴァル・ノア・ハラリが『サピエンス全史』『ホモ・デウス』で提示している宗教観とも共通する。ハラリは、それぞれを伝統宗教、ヒューマニズム宗教、新テクノロジー宗教と呼ぶ。たとえば、伝統宗教はアニミズム、多神教、一神教、神を重視しない宗教(仏教)等であり、ヒューマニズム宗教は自由主義、社会主義、進化論の三つの派としてとらえることができ、新テクノロジー宗教はAI(人工知能)や生命科学の発展によりアップデートされる超人間存在、あるいはデータそのものを至上価値とするという。そして、人間存在の無能階級化、アルゴリズム・データ化の危機に警鐘を鳴らしている。
 本講義は、これに対し、伝統宗教、ヒューマニティ(人間性)、新テクノロジーをハラリのように前者が後者を乗り越えるという単線的視点ではなく、現代においてそれらが同時存在する様相に着目し並列的視点でとらえる。この重層的視座により、近代化で喪失されたかにみえながらも宗教文化のなかに受け継がれている、人間存在に対する豊かな精神的資産を検討し、とりわけ「死と再生」に関する深い洞察とその現代的可能性を見出してみたい。

授業の到達目標

 宗教と人間文化への柔軟な視座を養い、複数の話題を適切に解説しながら自身の考察をまとめることのできる思考力、文章表現力を身につける。

成績評価の方法および基準

 授業参加度、期末試験により総合評価 *試験テーマは最終講義日2週間前に発表予定

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書 必要な資料は講義内で配布
参考文献

準備学修の内容

 配布資料、ノートを再読し、授業中に詳しく解説した内容をふりかえり、自分の考察を書き記していくこと。この継続が以降の授業への準備学修となり、期末試験にもつながる。

その他履修上の注意事項

 パンデミック等による社会状況、国際情勢の変化に対応し新たなトピックを取り入れていくため、以下の授業内容・順序は入れ替わり、また、互いに重なることがある。(昨年度は京都・高台寺のアンドロイド観音、スペイン・バルセロナの世界遺産サグラダ・ファミリアにおけるイエスの塔建設などの事例等を取り上げた。)

授業内容

授業内容
第1回伝統宗教、ヒューマニティ、新テクノロジーを並列的、重層的にとらえながら、人間存在についての理解や信念の揺れについて考察する。
第2回人間存在について考える上で、「死と再生」のテーマに着目する。生物学的な死やデータ消去にとどまらない死について考察するため、新たに「生なる死」(自らの生物学的な死によらない、自らの存在関係の根本的変容)の概念を導入する。
第3回「生なる死」の概念と伝統宗教、ヒューマニティ、新テクノロジーの関係について考察を加える。
第4回「生なる死」を継承し、文化、文明を形作る「文化なる死」の概念について考察する。
第5回間接経験としての生物学的な死と、その死を位置づける世界観としての統一時空の関係について考察し、その内容および特徴を分析する。
第6回「生なる死」「文化なる死」を位置づける世界観としての生命の時空、文化の時空について考察し、その内容および特徴を分析する。
第7回「生なる死」「文化なる死」の構造を考察する。
第8回「生なる死」「文化なる死」の喪失の問題を扱う。
第9回「生なる死」「文化なる死」の非認知の問題を扱う。
第10回「生なる死」「文化なる死」の気づきの問題を扱う。
第11回「生なる死」「文化なる死」の共有について考察する。
第12回人間存在について「死と再生」の観点から総合的に考察する。
第13回宗教文化の精神的資産に新たな意義を見出す鍵を求める。
第14回試験テーマ解説、全体の復習  
第15回講評、期末試験