ライフサイエンスⅠ
担当者冲永 隆子教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [総合基礎科目]
科目ナンバリングSCE-103

授業の概要(ねらい)

 近年の生命科学・医療技術の進歩発展は、人間の生と死の現象への人為的介入を可能にしたが、その結果、多くの今日的課題を残してきた。たとえば、生をめぐっては、不妊治療の「体外受精-胚移植(IVF-ET)」、生命の選別が問題となる「出生前(胎児)診断」・「着床前(受精卵遺伝子)診断」、中絶胎児(EG)細胞や人工多能性幹細胞(iPS細胞)など、万能細胞利用の「再生医療」に対する「生命の尊厳」とは何かという新たな問いである。
 また、死をめぐっては、延命医療が生み出した「脳死」や「持続的植物状態」、犠牲を伴う「脳死・臓器移植医療」、末期がん患者の「ホスピス・緩和ケア」、末期患者の「死ぬ権利」が問題となる「安楽死」、「尊厳死(自然死)」など、現代人はかつてなかった「新たな死」の意味を再考する時にきている。これらは先端生命科学時代に生きる私たち、一人ひとりの「生と死」に対する問いかけである。
 この授業では、「人の死とは何か、生とは何か」という永遠なる命題を、最近の身近な医療・臨床現場での問題とつき合わせて、生命・医療倫理(バイオエシックス)の視座から問い直していく。通年にわたり、生命の誕生(秋期)から終焉(春期)にいたるまでの先端生命科学・医療におけるバイオエシックスの問題についてとり扱う。
 なお、今期授業では、「終末期医療(ターミナルケア)」の具体的事例を取り上げ、ほぼ毎回ビデオ教材を使いながら、「いのちの問題」を掘り下げて考えていく。理解をより深めるために、通年の受講(ライフサイエンスⅡも受講)が望ましいが、半期受講でも歓迎する。

授業の到達目標

 この授業では、生命科学技術の現状を理解するとともに、基礎的知識を身につけ、バイオエシックス的課題について考える力を養うことを到達目標とする。受講者が、各教授項目のキーワード(KW)について正しく説明することができること、また、グループ討論演習によって、他人の意見と比較し、自分の見解を他に示すことが可能になること。受講者は、2回ほどの自己採点式小テストで知識定着の確認が可能となる。この小テストは定期試験対策として好評である。

成績評価の方法および基準

 定期本試験(マークシート)を80%、平常点として、20問程度の簡単な2回の小テスト(第6回・第13回頃に実施予定)、数回の10行程度の簡単なレポート(VTR感想文)提出等を20%とする。なお、毎回出席はとらないが、本試験は出席を前提とした内容(授業でのVTRに関連した問題が多数。試験は資料等持込不可。但し授業中に試験問題・解答内容を教える)を出題する予定である(マークシート90問解答を使用)。出席と授業への取り組みをもっとも重視する。

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書購入テキストはなし。配布資料はこちらで準備する。
参考文献

準備学修の内容

 1.指定した教科書および配布資料コピーの次回授業部分を事前に読んでおくこと。
 2.次回の授業内容を予習し、専門用語の意味等を理解しておくこと。
 3.授業時間内にVTR感想文(10行程度)を提出できなかった人は、感想文を仕上げて、次回ないし次々回に持ってくること。
 4.希望者は自身の興味あるトピックス(授業で知らせる)に関連したレポートを提出すれば、指導する。積極的で熱心な学習を応援する。

その他履修上の注意事項

 1.毎回授業に配布資料、ノートなどを持参すること。
 2.ほぼ毎回ビデオ教材を用いて、レポート(感想文)提出ないしグループ討論を行うため、極力欠席・遅刻は控えること。とくに初回には、授業の進め方や評価方法など詳しく説明するので必ず出席すること。
 3.授業中の「マナー」を守ること(私語、授業に関係のない行為、例えば携帯電話・ゲームで遊んだり、読書をしたり等、正当な理由のない途中入室・退室などは厳禁)。守れない人には退室を命じます。
 ※この授業は、春期(ライフサイエンスⅠ)・秋期(ライフサイエンスⅡ)の通年受講が望ましいが、単位認定になんら影響しません。また、「人間学基礎セミナーI・Ⅱ」とも関連しています。

授業内容

授業内容
第1回 はじめに―授業の進め方や評価方法、授業内容等の概略を説明する。
 *以下に予定するテーマ及びビデオ内容は進行により変更する場合がある。
第2回 生命科学(ライフサイエンス)、生命・医療倫理(バイオエシックス)誕生の歴史(1):戦時中の人体実験の倫理問題(独国:ナチスのホロコースト、弱者を利用した人体実験、日本:731部隊による人体実験)
 →臨床・医学研究(人体実験)の倫理確立、被験者の権利保護 KW:ニュールンベルク綱領(1947)、ヘルシンキ宣言(1964)、インフォームド・コンセント
 (ビデオ:アラン・レネ「夜と霧」(フランス映画1955))
第3回 バイオエシックス誕生の歴史(2):人体実験に対する倫理問題(米国:「タスキギー事件」「ウィロー・ブルック事件」「ユダヤ人慢性疾患病院事件」「シカゴ・マラリア研究」「放射線被爆人体実験」)、同意なき治療、医療過誤事件→臨床現場の倫理確立、患者の権利保護 KW:患者の権利章典(米国73、日本91)、リスボン宣言(1981)、患者の自己決定権、インフォームド・コンセント、ヒポクラテスの誓い、パターナリズム、生命倫理4原則(ビーチャム)、臨床倫理4分割表(ジョンセン)
 (ビデオ:「知ってるつもり-731部隊と医学者たちー」日本テレビ2000)
第4回 患者の権利(1):治療選択権-4分割表を使ったグループ討論
 Case Study1―エホバの証人輸血拒否問題 KW:患者の自律尊重原則、J.Sミルの他者危害原則、QOL(生命の質)、SOL(生命の神聖性)、医師の善行(与益)原則・不加害の原則、ヒポクラテスの誓い、パターナリズム
 (ビデオ:「生命倫理を考える―終わりのない8編の物語―」 ②「花のプレゼント」丸善1995)
第5回 患者の権利(2):治療拒否権-4分割表を使ったグループ討論
 Case Study2―重度の火傷を負った患者の治療拒否問題 KW:臨床倫理4分割表(ジョンセン)、医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況
 (ビデオ:「いのちは誰のものか―ダックス・コワートの場合」丸善1995)
第6回 小テスト1回目実施。答え合わせ。患者の権利(3):治療拒否権-4分割表を使ったグループ討論
Case Study3―終末期医療・緩和ケア、延命措置の問題 KW:臨床倫理4分割表(ジョンセン)、医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況
 (ビデオ「生命倫理を考える―終わりのない8編の物語―」①「老人の友」丸善1995)
第7回 終末期医療(1)―緩和ケア 末期がん患者の全人的苦痛、全人的ケア
 Case Study―いのちを見つめる1 KW:ターミナルケア、ホスピスケア、ビハーラケア、緩和ケア、全人的(トータル)ケア、エンド・オブ・ライフケア、スピリチュアルケア、WHOの健康定義
(ビデオ:「ともに死に向かう 鳥取ホスピスの現場から―野の花診療所 徳永進医師」NHK2005)
第8回 終末期医療(2)―緩和ケア 「ホスピス・緩和ケア」に関する概論
 Case Study―いのちを見つめる2 KW:キュブラー・ロス、シシリー・ソンダース、柏木哲夫、セデーション(鎮静)、WHO疼痛緩和方式
第9回 終末期医療(3)―安楽死 概念整理・現状 KW:死ぬ権利、安楽死、医師による自殺幇助、ホームドクター制、インフォームド・コンセント、自己決定権
 Case Study―オランダの現状(安楽死法2001)、世界における安楽死・尊厳死に関する法律
 (ビデオ:「安楽死がついにドキュメントされた!~依頼された死~スペースJスペシャル」毎日1994)
第10回 終末期医療(4)―安楽死 概念整理・現状 KW:慈悲殺、6要件(山内事件)、4要件(東海大事件)
 Case Study―日本の現状「山内事件(1962)」「東海大事件(1995)」「国保京北町事件(1996)」)
 (ビデオ:クローズアップ現代「私の呼吸器を外してください」NHK2009)
第11回 終末期医療(5)―尊厳死 概念整理・現状 KW:尊厳死、患者の意思表示(事前指示)、リビング・ウィル、蘇生拒否(DNR)、患者の持続的委任権法(1983)、患者の自己決定権法(1990)
 Case Study―米国の現状「カレン・アン・クインラン裁判(75-76)」「ナンシー・クルーザン裁判(83-92)」
第12回 終末期医療(6)―尊厳死 概念整理・現状 KW:尊厳死、患者の意思表示(事前指示)、リビング・ウィル、蘇生拒否(DNR)、尊厳死法
 Case Study―日本の現状「射水市民病院(人工呼吸器取り外し)事件(2000-2005)」、尊厳死法制化の動き
 (ビデオ:クローズアップ現代「人生の最期をどう迎えるのか」NHK2012)
第13回 小テスト2回目実施。答え合わせ。小テスト1・2回復習・説明。
 終末期医療(7)―アドバンスケアプランニングAdvance Care Planning:ACP(事前ケア計画)概念説明
 KW:ACP、エンドオブライフケア、人生最期に向けての意思決定支援
 (ビデオ:クローズアップ現代「私の遺体提供します―増える献体それぞれの選択」NHK2015)
第14回 終末期医療(8)―海外と日本のACP現状
 KW:高齢者へのケア、ACP開発研究(冲永隆子、信州大学医学部・大学院研究科 生命倫理学市民公開授業「終末期医療と生命倫理」2015.6.9報告、京都大学こころの未来研究センター「患者と家族の終末期の希望を実現するための倫理支援・ACP開発研究」2015.12.20報告、ドイツ・エアフルト大学「Bioethics for Support on End of Life Care in Japan意思決定支援に向けてのバイオエシックス」2015.8.25報告)
第15回 総復習。定期試験対策の説明・演習等。