ライフサイエンスⅡ
担当者冲永 隆子教員紹介
単位・開講先選択  2単位 [総合基礎科目]
科目ナンバリングSCE-104

授業の概要(ねらい)

 近年の生命科学・医療技術の進歩発展は、人間の生と死の現象への人為的介入を可能にしたが、その結果、多くの今日的課題を残してきた。たとえば、生をめぐっては、不妊治療の「体外受精-胚移植(IVF-ET)」、生命の選別が問題となる「出生前(胎児)診断」・「着床前(受精卵遺伝子)診断」、中絶胎児(EG)細胞や人工多能性幹細胞(iPS細胞)など、万能細胞利用の「再生医療」に対する「生命の尊厳」とは何かという新たな問いである。
 また、死をめぐっては、延命医療が生み出した「脳死」や「持続的植物状態」、犠牲を伴う「脳死・臓器移植医療」、末期がん患者の「ホスピス・緩和ケア」、末期患者の「死ぬ権利」が問題となる「安楽死」、「尊厳死(自然死)」など、現代人はかつてなかった「新たな死」の意味を再考する時にきている。これらは先端生命科学時代に生きる私たち、一人ひとりの「生と死」に対する問いかけである。
生命倫理(バイオエシックス)は、欧米を中心に1970年代に体系立てられた学際的学問で、従来のパターナリズム(医師の独善的医療行為やその態度)に対する反省から、「インフォームド・コンセント」や「患者の自己決定権」などの確立を求める医療消費者運動を契機として、自然環境保護・人種差別・反戦平和・女性解放などの社会運動と連動しながら学問的に確立された。この授業では、「人の死とは何か、生とは何か」という永遠なる命題を、最近の身近な医療・臨床現場での問題とつき合わせて、生命・医療倫理(バイオエシックス)の視座から問い直していく。通年にわたり、生命の誕生(秋期)から終焉(春期)にいたるまでの先端生命科学・医療におけるバイオエシックスの問題についてとり扱う。
 なお、今期授業では、人体利用の問題として「脳死・臓器移植」、上記に挙げた「生命の尊厳」の問題すなわち「選択的人工妊娠中絶」や「生殖補助医療(不妊治療)」、EG細胞やiPS細胞を使った再生医療などの「生命操作」の具体的事例を取り上げ、ほぼ毎回ビデオ教材を使いながら、「いのちの問題」を掘り下げて考えていく。理解をより深めるために、通年の受講(ライフサイエンスⅠも受講)が望ましいが、半期受講でも歓迎する。
 
 本授業ではこれまでの生命倫理とは異なる内容(新型コロナ感染症の医療倫理)、方法(オンラインZoomやYouTubeと対面のハイブリッド方式*希望選択)で実施予定。
世界的試練を迎える2020年ーは、パンデミック時代の生命倫理の課題を中心に扱う。具体的内容は以下の通り。
◎ コロナ時代の生命倫理1 :1. 限られた人工呼吸器を高齢者から若者に譲る「トリアージ」問題(NHKスペシャル)「公衆衛生の倫理」2. COVID-19末期患者を診続けた医師たちー「死」をどう考える(BBCニュース)、厚生労働省の「人生会議」(ACP)ーコロナを境に従来から積み残されてきたエンドオブライフケアの倫理的課題はどう変化していくか、死生学や臨床倫理学をテーマに扱う。また、最近の医療倫理の出来事、例えば、ALS患者京都嘱託殺人事件や安楽死問題について。
◎コロナ時代の生命倫理2 :1 .緊急事態下の「限られた医療資源の配分」、「高度集中医療を若者に譲る意志カード」、コロナ前からのテーマ「脳死・臓器提供意思表示カード」
2.「高齢者は早めの"人生会議”を」コロナ禍で日本老年医学会がまとめた、新型コロナウイルス感染症流行期にACP実施を進める提言。「命の選別しないで、コロナで「仕方ない」を恐れる障害者」…の報道。コロナ禍で苦悩する不妊治療の現状ー「不要不急」「延期」問題について。
加えて、2019年の公立福生の透析中止、厚労省「人生会議」ポスター撤収…最近の医療報道を扱う。

 

授業の到達目標

 この授業では、生命科学技術の現状を理解するとともに、基礎的知識を身につけ、バイオエシックス的課題について考える力を養うことを到達目標とする。受講者が、各教授項目のキーワード(KW)について正しく説明することができること、また、グループ討論演習によって、他人の意見と比較し、自分の見解を他に示すことが可能になること。受講者は、2回ほどの自己採点式小テストで知識定着の確認が可能となる。この小テストは定期試験対策として好評である。

成績評価の方法および基準

定期試験(マークシート持ち込み可)を50%、平常点として1-15回授業での提出課題(10行程度のVTR感想文や授業感想、簡単なアンケート)など提出状況を50%とする。 

教科書・参考文献

種別書名著者・編者発行所
教科書購入テキストはなし。配布資料はこちらで準備する。
参考文献

準備学修の内容

 1.指定した教科書および配布資料コピーの次回授業部分を事前に読んでおくこと。
 2.次回の授業内容を予習し、専門用語の意味等を理解しておくこと。
 3.授業時間内にVTR感想文(10行程度)を提出できなかった人は、感想文を仕上げて、次回ないし次々回に持ってくること。
 4.希望者は自身の興味あるトピックス(授業で知らせる)に関連したレポートを提出すれば、指導する。積極的で熱心な学習を応援する。

その他履修上の注意事項

 ※この授業は、春期(ライフサイエンスⅠ)・秋期(ライフサイエンスⅡ)の通年受講が望ましいが、単位認定になんら影響しません。また、「生命倫理」や「人間学基礎セミナーI・Ⅱ」とも関連しています。以下は帝京大学医療技術学部(板橋)と八王子で行った前期オンライン1-15回授業の宿題(課題)で、毎回課題を提出することで参加・出席点とします。長くなりますが、参考までに挙げておきます。
◎課題1はコロナ生活で困ったこと、逆にプラスになったこと(収束しても続けていきたいこと)、課題2はトロリー問題(一人を救うか5人を救うか…)、課題3はトリアージ問題(限られた人工呼吸器の配分問題、必要なのは3人に対し、呼吸器が2台、高齢感染患者から若者感染者へ移し替えるか?課題4は高齢者から若者へ高度集中治療を譲る意志カードについて、
課題5はトリアージ(優先順位をつける)と反トリアージ(優先順位のトリアージの考え方は優生思想になるからトリアージには反対)、
課題6はCOVID-19末期患者を診続けた医師たち「死」をどう考えるか…BBCニュース)、
課題7は竹之内裕文『死とともに生きることを学ぶ死すべきものたちの哲学』Q1-5、課題8はナチズムと優生思想、課題9は厚労省人生会議ポスター炎上問題、課題10は冲永博論京大こころの未来研究センターACP意識調査、課題11は公立福生病院の透析中止問題、課題12はNHK彼女は安楽死を選んだ、課題13はNHK外部講師の「表現の自由、匿名報道を考える」、課題14ー15はZoom対談 京都嘱託殺人事件…

7「各回の授業内容」は、「コロナ前の対面授業を行っていた時の授業計画・内容」です。上記の「コロナ時代の生命倫理」を優先的に扱い、補足的に「コロナ前の…」をやります。映像はZoomで観てもらうかYouTubeにあげたオンデマンド動画をみてもらいます。

対面授業を基本的に行いますが、その他、ジャーナリスト、医師、哲学・倫理学分野の研究者等、各方面の専門家を交えたZoomでの対談式講義を数回行います。オンデマンド授業で繰り返し、基礎知識を得たり、Zoomでのリアルな双方向授業でその都度わからないことを確認したりするメリットがあります。資料持込のマークシート択一テストと課題提出によって総合評価します。
試行錯誤して行う関係で、予定が変更するかもしれませんが、原則、毎回の授業を予定日程の午後8時~1時間程度行います。
Zoomのレコーディング収録mp4ファイルをYouTubeにアップしますので、参加できなかった人はオンデマンドYouTube動画を観てください。
対面授業に参加できない(できなかった)人は、Zoomでのリアル参加、YouTubeでのオンデマンド参加いずれかで出席となります。加えて一回ごとの課題提出で参加とします。

授業内容

授業内容
第1回 はじめに―授業の進め方や評価方法などの説明。先端生命科学・生命操作の問題についての序論。
 ライフサイエンスⅠの概要。生命科学、バイオエシックス(生命・医療倫理)とは何か
 バイオエシックス誕生の歴史:戦時中の人体実験の倫理問題→臨床・医学研究の倫理確立、同意なき治療、医療過誤問題→臨床現場の倫理確立
 *以下に予定するテーマ及びビデオ内容は進行により変更する場合がある。
第2回 先端医療・人体利用問題―脳死臓器移植、第三者の卵子・精子提供での不妊治療、中絶胎児細胞を利用した再生医療等の概論
 脳死と臓器移植(1)―概念整理 KW:脳死、脳死判定、死の三徴候、臓器移植
 Case Study-遷延性意識障害(持続的植物状態)と脳死の違い、脳死が臓器提供と結びつくまで、日本の現状(臓器移植法改正2009)
 (ビデオ:クローズアップ現代「突然の脳死 臓器提供に揺れる家族たち」NHK2012)
第3回 脳死と臓器移植(2)―脳死臓器移植の現状 KW:ドナー、レシピエント、ドナーカード、臓器移植法、有機的統合体説、パーソン論
 Case Study-臓器提供意思表示形式、海外の現状
 (ビデオ:「ティーンズTV・ワールドドキュメント 脳死移植―生と死の問いかけ」NHK教育2001)
第4回 脳死と臓器移植(3)―子どもの脳死移植 KW:長期脳死、虐待を受けた児童からの臓器提供
 Case Study-小児脳死臓器移植の諸問題(参考資料:宗教情報センターコラム「犠牲を伴う移植医療―救われるいのち、棄てられるいのち」)
 (ビデオ:NHK特集 剛亮生きてや~脳死を見つめた78時間」1987、森岡正博「視点・論点 ③子どもの脳死臓器移植」2009)
第5回 脳死と臓器移植(4)―人体資源の利用についてのグループ討論
 Case Study―自殺者・被虐待児・死刑囚からの臓器提供
 (ビデオ:「NHKフェイス 死刑囚からの臓器移植~中国での渡航移植の実態」2013)
第6回 小テスト1回目実施。答え合わせ。生殖医療(1)―人工妊娠中絶 KW:優生保護法、母体保護法、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ「性と生殖における女性の健康と権利」(女性の権利・自己決定権)、プロチョイス(中絶容認派)、プロライフ(中絶反対派)
 Case Study―中絶をめぐる倫理問題
 (ビデオ:「生命倫理を考える―終わりのない8編の物語―」(丸善)1995 ④「普通の子」/「中絶をめぐるいのちの対話 二人の医師の葛藤)
第7回 生殖医療(2)―選択的人工妊娠中絶、異常胚の破棄 KW:出生前診断、胎児診断、着床前診断、受精卵診断、生命の選別、優生思想
 Case Study―生命の選択と摂取をどう考えればいいのか?
 (ビデオ:「92’NHKプライム10「あなたは“生命”を選べますか~ここまできた胎児診断」」(NHK)1992)
第8回 生殖医療(3)―選択的人工妊娠中絶 KW:ナチス、優生思想、パーソン論、生命の神聖性、女性の権利
 Case Study―優生思想の誕生、人工妊娠中絶とパーソン論、生命の神聖性と女性の権利
 (ビデオ:「ETV特集シリーズ「生命誕生の現場―最新技術がもたらす重い課題」①「人間改良」をめざした男たち」(NHK教育1998))
第9回 生殖医療(4)―選択的人工妊娠中絶 KW:出生前診断(検査)、遺伝病スクリーニング、WHO「遺伝医療における倫理的諸問題の再検討(2003)」
 Case Study―出生前診断の定義、目的、技術上の問題、倫理上の問題
 (ビデオ:「ETV特集シリーズ「生命誕生の現場―最新技術がもたらす重い課題」②「生命の質」検査社会の到来(NHK教育1998))
第10回 再生医療―中絶胎児の細胞利用 KW:再生医療、体性幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、体制幹細胞・死亡(中絶)胎児細胞(EG細胞)、パーキンソン病患者、脊髄損傷患者
 Case Study―人体利用―中絶胎児細胞を使った再生医療の問題
 (ビデオ:「中絶胎児利用の衝撃」(NHKスペシャル 2005)/「NHKスペシャル 生命の未来を変えた男―山中伸弥 iPS細胞革命」2011)
第11回 生殖補助医療(1)―生殖補助医療(不妊治療)の現状 KW:生殖補助医療、人工授精、体外受精-胚移植、顕微授精、ルイーズブラウン(試験管ベビー、世界初体外受精児)、出自を知る権利
 Case Study―非配偶者間人工授精の倫理問題
 (ビデオ:「i'ts EYE!「試験管ベビーたちの苦悩~自分の親が知りたい」」(BS−i)2003/「クローズアップ現代「不妊治療に悩まされる女性たち」)
第12回 生殖補助医療(2)―不妊治療「代理母」子どもを持つ権利 KW:代理懐胎(代理母サロゲイトマザー、代理出産・借り腹ホストマザー)体外受精-胚移植、顕微授精、―不妊治療の光と影 KW:多胎妊娠、減数手術、排卵誘発剤
 Case Study―日本で禁止されている「代理出産」、「多胎妊娠・減数手術」における倫理問題
 (ビデオ:地球法廷 代理出産 NHK教育 1999)
第13回 小テスト2回目実施。答え合わせ。小テスト1・2回復習・説明。
 遺伝子操作(1)―予知医療の光と影 KW:ヒトゲノム計画、遺伝子診断
 Case Study―遺伝子診断をめぐる倫理問題
 (ビデオ:「ETV特集シリーズ「遺伝子技術とこれからの医療」(NHK教育)1998①「遺伝子診断は何をもたらすのか~加速する遺伝子発見競争の中で」)
第14回 遺伝子操作(2)―予知医療の光と影 KW:遺伝子診断、知らないでいる権利、遺伝カウンセリング
 Case Study―治療法のない遺伝病保因者への告知問題、遺伝子治療、体細胞遺伝子治療、生殖細胞遺伝子治療、エンハンスメント(人間改良)
 (ビデオ:ティーンズTV・ワールドドキュメント「遺伝子診断~新しい予知医療の光と影」NHK教育2001/クローズアップ現代「遺伝子治療ががんを起こした」NHK2002)
第15回 総復習。定期試験対策の説明・演習等。